↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エクリプス ―月蝕の二人―  作者: 灰色 ウサギ
第2章 想い出人の郷
72/78

第40話 シオンの話

今回は2話連続投稿(第39・40話)です。併せてお楽しみください。

「何でだ?」


 思わず、声が出た。

 目的の物が手に入らないとなると、前回の失敗同様、また祖父に弱みを握られることになる。


「ワイらが買い占めたんとちゃうで。店に行っても買えへんかったんや」

「お店側が売ってくれなかったということですか?」


 マーの声に驚きは混じっていない。

 もしかしたら、この事態は想定していたのかもしれなかった。


 コウが両手を上げて肩をすくめる。


「いいや、品切れやて。入荷も未定」

「いつからですか?」

「ここ十日ぐらい前からやて。そもそも薬草の仕入れが不安定になり始めたんは、もっと前かららしいわ。それがとうとうのうなったから、店員は客の対応に追われとったな」

「情報を教えてくださるんですね」

「これくらいは、店に行けばわかる。出し惜しみするもんちゃうわ」


 マーはシオンを見た。

 そのアイスブルーの瞳が曇っていた。


「僕たちがシオンさんにお会いしたのは、数日前です」

「……ほうか、時間的には合うてるなぁ」


 改めてマーはコウと視線を合わせ、頷く。

 

「ええ、薬草が店に並ばなくなった時期と、シオンさんが森を抜けた時期は近そうです」

「薬草がないんも、大精霊の異変が関係しとるいうことか」

「まだ断定はできませんが、無関係とはいえないでしょうね。薬草が栽培されている場所は、大精霊がいらっしゃる森の中のはずです」

「となると、そこの子うさぎが言う異変は、だいぶ信憑性が高うなるなあ」

「シオンさん、お辛いかもしれませんが、大精霊さんの様子を教えていただけますか?」


「シオン、無理しなくていい」

 そう声をかけると、先ほどから不安そうに身を縮こませていたシオンは、頭を振った。

 膝の上で、ぴんと背筋を伸ばす。


「……シオンは、大精霊ちゃまを助けるために外に出たんでち。シオン、頑張って話しまちゅ」


 その小さな後ろ姿を両手でそっと支えた。


「大精霊たまは、ほんと優しい人なんでちゅ。シオンのお話聞いてくえたり、頭撫でてくれたり。森のみんなが怖い人に追いかけられても、守って、手当してくれてまちた」


 一生懸命に自分のできる限りの言葉で伝えようとするシオンの話に、誰もが黙って耳を傾けていた。


「でも、時々一人でずっとお部屋にこもったり、話しかけても振り向いてくれなくて……」


 その声が少し小さくなる。


「この前は、急に怒られて、森を追い出されちゃったでち……」


 シオンの前足がきゅっと縮まり、耳が垂れる。


「でもほんとはいつも笑って、優しく頭なでてくれてまちた。だから、精霊たまには前みたいに笑ってほしいんでちゅ」


 最後の方の声は消え入りそうだった。

 声に悲しみが滲んで揺れる。


 マーがいつもより穏やかで、包むような優しい声で尋ねる。


「シオンさん。もう少しだけ聞いてもいいですか?」


 シオンは大きく頷いた。

 

「ありがとうございます。大精霊さんが苦しそうにしていらっしゃたのはいつぐらいからか、分かりますか?」

「えと、すんごく前じゃないでち。ここ半年くらいから?」

「大精霊さんが苦しそうになる前か後に何かありましたか?」

「何か、でちか?」


 エチルスはゆっくり大きく頷く。


「ええ。例えば、誰か森に来ていたり、大精霊さんが何か気にされていたとか。シオンさんが思い出せる範囲でいいですよ」


 シオンは小さな前足を組んで、しばし悩む。


「…………んと、怖い人が来るのをみんなに注意ちてまちた」

「怖い人……」

「そうでち。怖い人が来たら精霊たまに教えてって。あ! リタホームのいつものおじちゃんがきたあと、長い間お部屋にこもってまちた……」


 シオンの耳がぴんと立つ。


「あと黒髪のお姉たん? も見ました」

「怖い人に、大精霊に会っとるリタホームのじいちゃんねぇ……」

「大精霊に会えるリタホーム側の人間は限られるでしょう。怖い人、黒髪の女性も気になるところですね」


 背中にひやりとしたものが走った。

 思い出されるのは、鉱山で魔獣を仕掛けてきた猫女だ。

 いや、黒髪の女性は珍しくもない。


 シオンを支える手に、シャイナの手が重なった。

 大きい掌に包まれ、じんわりと温かい。

 横を見れば、太陽色の瞳と視線が交わった。

 同じことを考えたのかもしれない。


 コウが足を組みなおし、拳を握り込んだ。


「ま、せっかく乗りかかった船や。ここまで聞いたんやし、多少は協力したるわ」

「コウ」


 ツルギの呼びかけを、コウは右手を挙げて制した。


「ワイらの依頼には、周辺調査も含まれてんねん。薬草が手に入らへんかったら、依頼は失敗。報酬もらえへんのは癪やからな。この件を紐解くのが一番の早道や。かまへんやろ、ツルギ」


 ツルギは腕組みしたまま、軽く息を吐いた。


「構わん」

「——ってことで、薬草の話はこっちに任せぇ。ワイらでもうちょい詳しゅう調べてみるわ」


 コウはそう言って、椅子の背にもたれた。


「調べるって、どうやって?」


 シャイナが尋ねる。


「ま、そこはこっちの仕事や。明日までちょい待っとき」

「……明日? 何か心当たりでもあるのか?」


 目を細めて睨むと、コウはにやりと笑った。


「さあなぁ。何もなかったら、それでええやろ」

「なんだ、それ」


 その言葉は何かを含んでいるように思えた。

 マーが小さく息をつく。


「……そういうことですか」


 コウの目が、ちらりとマーに向く。


「先生ぇ、ほんま話が早いな」

「いえ。何も聞いていませんよ」

「せやな。何も言うてへん」


 二人が薄く笑う。


「……大人の会話って、面倒くさいな」


 シャイナがぼそりと呟いた。


「同感だ」


 最後はよくわからなかった。

 膝の上のシオンを優しくなでると、きゅっと鳴いた。


読んでいただき、ありがとうございます!(*^×^)


少しでも、よかった、面白い、続きが気になると思っていただけたら、

★・リアクションをいただけますと、とてもとてもうれしいです。


作品への感想・コメントも一言「よかった」だけでもいただけると、大変励みになります!

ブックマークも押していただけると、執筆活動もぐぐーんとはかどります。


引き続きお付き合いいただければ幸いです。



<<<毎週水曜・土曜日 16:50更新予定>>>



次回更新予定 2026年10月17日(土)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。