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エクリプス ―月蝕の二人―  作者: 灰色 ウサギ
第2章 想い出人の郷
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第39話 すり合わせ

今回は2話連続投稿(第39・40話)です。併せてお楽しみください。

 反射騒動後、身支度を終えたコウが、窓際の椅子に乱暴に腰掛ける。


「——ったく、どんだけネタ持っとんねん」

「ネタ?」


 聞き慣れない言葉に思わず尋ねてしまった。

 コウは半ばやけくそのような調子で返す。


「普通やない、いうことや」


 同じベッドで、隣に座っているシャイナと顔を見合わせる。膝にはシオンがちょこんと座っている。


「普通だな」

「てか、いつも通りだし」

「……お前らの『いつも』は、普通ちゃう気がしてきたわ」


 コウが盛大なため息をつき、椅子の肘掛けに片肘をつく。


「兄さん、こいつらの先生なんやろ? なんか言うたらなあかんのんちゃうんか」


 着替えを終え、ベッドの上で荷物整理しているマーは、すでにいつもの笑顔を取り戻していた。


「まだ、序の口ですから」


 その言葉に、コウの目が点になる。 

 壁に背中を預けて立っていたツルギもぴくりと身じろぎする。


 コウが改めてこちらに視線を投げる。


「思てたより、でかい当たりやったろか」


 意味不明なことを言っている。

 思わず眉を寄せた。


 膝の上のシオンはシャイナの指にじゃれついている。シャイナがシオンの動きを見ながら、指の向きを変えたり上下させたりして、楽しそうにからかっていた。シオンも嬉しそうに飛びついたりしている。


「……お前ら、距離近ない?」


 コウからの指摘に、改めて体勢を確認する。

 二人は上半身が寄り添い合っている。

 さらにシャイナはこちらの肩に顔を乗せて、シオンをからかって遊んでいる。


 シャイナと至近距離で目線が合う。

 お互い首を傾げる。


「「普通」」


 マーがくすりと笑いながら告げる。


「ね、まだまだですから」

「……ちょお、今は一回見逃しとくわ。話進まへんし」


 そう言ってコウは顔を背けた。

 遠目でも拳に力を入れて、何かに耐えているように見える。

 コウを観察していると、不意にシャイナが頭に手を伸ばしてきた。


「ビー、寝癖すごくない?」


 着替えはしたものの、髪を整えるのは面倒だったので、そのままにしていた。

 シャイナが自然と寝癖のついた頭を手櫛でといていく。


「そのまま寝たからな」

「やっぱ乾かしてから寝かせればよかったかな」

「昨日は無理だったろ」


 急にコウが大声を出す。


「先生ぇ、はよ話進めよか!」

「そうですね、コウさんが我慢できているうちにしたほうが良さそうですね」


 そう言って、マーは振り返る。

 その拍子に、手首へ絡んでいたカバンの紐が引っ張られる。整理を終えたであろうカバンがひっくり返って、鈍い音を立ててベッドの下に落ちた。


「あ」

「…………先生も先生かい。昨日の風呂場ではボケ倒しとるし。なんなんや?」

「特異」


 ツルギが短く締めた。



◇◇◇◇◇


 気を取り直したコウが、椅子に深々と背を預け、足を組む。

 頬杖をついて、余裕そうな表情を浮かべている。

 小さな机を挟んで、マーはコウの向かいの椅子に背筋を伸ばして綺麗な姿勢で座っている。


「んで、先生はここで何が起こてると思ってるんや?」

「そうですね。まずは情報のすり合わせをしましょうか。お互い、古き良き森が気になっているところですし」

「……すり合わせ、なぁ。こっちの情報も寄越せいうことか」


 マーは少し驚いた顔をしてみせる。


「そんなこと、一言も言ってないですよ」

「ただの保護者にしては、よう頭回るな」

「コウさんほどではありませんよ」


 その様子を隣に座っているシャイナがポツリと漏らす。


「なんか、火花散ってない?」

「大人の戦いだな」


 細かいことはわからない。

 でも——


「エチルスに任せておけば大丈夫だろ」

「まじ、まったく同じこと思った」


 マーが一度視線を落として、ゆっくりとコウを見据える。

 

「そうですね、まずは僕たちの目的を先にお話ししましょうか。ビー君、かまいませんか?」


 ちらりと投げられた視線に、小さく頷いた。


「僕たちの目的の一つ目は、入村許可証の更新。二つ目は、ここでしか買えない薬草の入手です。コウさんたちも似たような目的で来られたのではないですか?」

「ま、そやな。今はここに来るやつの半分はそれが目的やろ。あとの半分は想い出人に会いたいやつちゃうか」

「そうですね、入村許可証が必要な今は、想い出人目的の方は少し減っているでしょう」


 コウが愉しそうに口元を引き上げる。


「親切心で教えといたるわ。薬草やけど、今は買えへんで」


読んでいただき、ありがとうございます!(*^×^)


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<<<毎週水曜・土曜日 16:50更新予定>>>




次回更新予定 2026年10月17日(土)

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