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エクリプス ―月蝕の二人―  作者: 灰色 ウサギ
第2章 想い出人の郷
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第31話 悪癖

 ツルギの腰に提げられたランプが、周囲の闇をわずかに押し退けている。歩調に合わせ、ランプの金具と背中側に収められた鉄扇の金属音が、それぞれ小さく響く。


 コウは、その後ろ姿を追いながら思う。

 崩れることのない歩調。

 何度も危機的状況を共に乗り越えたその背中は、相変わらず何も語らない。


 今回の依頼は、少し遠出するぐらいに思っていた。

 場所は辺鄙な土地。

 期間が短い割に報酬がいいから引き受けた。

 想い出人にも若干興味があった。


 目的地が近づき、情報を集めるほど、依頼内容が簡単なものではないことがわかってきた。  


 さらに、この森に入ったあたりから、やばい案件を引いたらしいと長年の経験が訴えてきた。見張られているような気配に、深い霧と魔獣。対処はできたが、この先を考えるとどうにも面倒くさそうだ。

 日々の路銀を稼ぐための仕事だが、危険を冒してまで完遂するには少々面白みに欠ける。

 

 そんな時だ。

 あいつらを見つけたのは。


 奇妙な組み合わせの三人組。

 思わず、小さく笑いが漏れた。

 

 先を歩いていたツルギが立ち止まり、こちらをじっと見てくる。


「なんや?」

「……気に入ったのか?」


 静かな声が落ちる。


「……さっきの坊主どものことか?」

「ああ」

「そやな、けったいな武器に、えらく高い戦闘能力。しかも二人とも、まだまだガキんちょやで」


 肩をすくめて見せる。


 銀髪の坊主は、えらく自分を削る。そして、その危うさをわかった上で傍にいるのが、シャイナと呼ばれた金髪の坊主だ。

 短いやり取りに、相手の動きを前提にした立ち回り。数年は一緒にいるのだろう。


「一緒におった綺麗な兄さんも、師匠いう感じには見えんかったし、二人とは雰囲気がちゃう。どういう集まりなんやろな」


 つい、また口の端が吊り上がる。


「……おもろいかもしれんな」


 ツルギがこちらを軽く睨む。


「悪癖」


 この男の端的な言葉は、核心をつく。

 喋らない分、周囲をよく観察し、人の性格も見抜いている。


「悪癖なぁ……。ま、それは否定できひんかもな。でも、最初に気ぃついたんはお前やで」


 離れた場所での戦闘を最初に嗅ぎつけたのは、ツルギだった。

 一言発して、走り出した。自ら飛び込んでいくのは珍しいので、何か気になることがあったのだろう。


「先走り」

「ワイが先走った言うんか? いや、あの場面、行ってやらんと危なかったで。ただ、あのガキには『助けはいらん』言われたけどな」


 思い出すと、また腹が立つ。

 ひるまず睨み返してきた銀の瞳、これ見よがしに背けられた顔。

 あの澄ました顔、いっぺん崩したろか。

 ツルギは関係ないとでも言わんばかりに、再び前を向いて、歩き出した。


「口実」

「は? ええやん。人助けやろ」

「不純」

「どこがや!」


 興味が先に立っていたのは確かだ。

 しかし、どいつもこいつもである。

 お返しとばかりに、問いかける。


「やけど、お前も気になっとるやろ。あの三人」

「……」

 

 否定はしなかった。

 当たりだ。


「お前が気にしとるんはどこやろな。霧で全部は見えんかったが……」

「武器」

「あぁ、そやな。炎を纏う魔剣に、あれは……」

「おそらく『銃』」

「……あれがか? やばないか。実物は初めて見るわ」

「……」


 押し黙ったツルギを見て、まだ何か思うことはありそうだが、話す気はないようだ。

 『銃』についての知識はあまり持っていないが、幻の遺物と呼ばれていることくらいは知っている。しかも、あの黄金色の銃は魔術を放っていた。


「あんなんぶら下げて歩いとったら、狙われるで」

「……子ども」

「子どもやから本物とは思われてへん、いうことか? 一理あんな。そんじょそこらの坊主が持ってるとは思わんもんな」


 銀髪の銃のさばき方、狙いの正確さが脳裏に蘇る。


「お前は見てへんかもしれんけど、かなり使いこなしとったで、あの銀髪」

「……」

「あと、ワイが気になったんは、二人の戦い慣れやな。どこぞの戦場を渡り歩いてきたんかと思うぐらいや。けど、坊主どもには人を殺してきた奴が背負てる暗さがない。あれは、魔獣相手に叩き上げてきたクチやろな。普段どんな環境におんねん」

「我流」

「そや。誰かに教えてもろた感じもない。荒いし癖も抱えたまんま。……あいつらに同行しといた方が面白かったかもな」

「悪趣味」

「何が悪趣味や」

「嫌悪」

「ああ、あの銀髪にか。あれは、いじったらなあかんやつやろ」


 ツルギが足を止めて、またこちらをジト目で睨んでくる。


「悪癖」

「またそれか」

 

 人間観察は染みついた癖だ。

 誰の侵入をも許さないような警戒心を見せていた銀髪の坊主。なのに金髪が来た途端、それがするりと解けた。表情も声も年相応になり、あれが素なのだろう。

 危うい、と直感が告げた。


 「依頼」


 ツルギの一言で思考から引き戻される。


「わかっとる。ちなみに毛色の違う綺麗な兄さんはどないやったん?」

「優秀」

「ふーん、まあ、いい組み合わせか」


 異常な森、リタホームをめぐる噂、今回の依頼。

 そして、三人との出会い。

 どうやらこの仕事、面白くなりそうだ。


「ま、この森におるっちゅうことは、また会うやろ」


 ツルギが首を振り、わざとらしく嘆息する。


「子ども」

「誰がやねん!」

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