第31話 悪癖
ツルギの腰に提げられたランプが、周囲の闇をわずかに押し退けている。歩調に合わせ、ランプの金具と背中側に収められた鉄扇の金属音が、それぞれ小さく響く。
コウは、その後ろ姿を追いながら思う。
崩れることのない歩調。
何度も危機的状況を共に乗り越えたその背中は、相変わらず何も語らない。
今回の依頼は、少し遠出するぐらいに思っていた。
場所は辺鄙な土地。
期間が短い割に報酬がいいから引き受けた。
想い出人にも若干興味があった。
目的地が近づき、情報を集めるほど、依頼内容が簡単なものではないことがわかってきた。
さらに、この森に入ったあたりから、やばい案件を引いたらしいと長年の経験が訴えてきた。見張られているような気配に、深い霧と魔獣。対処はできたが、この先を考えるとどうにも面倒くさそうだ。
日々の路銀を稼ぐための仕事だが、危険を冒してまで完遂するには少々面白みに欠ける。
そんな時だ。
あいつらを見つけたのは。
奇妙な組み合わせの三人組。
思わず、小さく笑いが漏れた。
先を歩いていたツルギが立ち止まり、こちらをじっと見てくる。
「なんや?」
「……気に入ったのか?」
静かな声が落ちる。
「……さっきの坊主どものことか?」
「ああ」
「そやな、けったいな武器に、えらく高い戦闘能力。しかも二人とも、まだまだガキんちょやで」
肩をすくめて見せる。
銀髪の坊主は、えらく自分を削る。そして、その危うさをわかった上で傍にいるのが、シャイナと呼ばれた金髪の坊主だ。
短いやり取りに、相手の動きを前提にした立ち回り。数年は一緒にいるのだろう。
「一緒におった綺麗な兄さんも、師匠いう感じには見えんかったし、二人とは雰囲気がちゃう。どういう集まりなんやろな」
つい、また口の端が吊り上がる。
「……おもろいかもしれんな」
ツルギがこちらを軽く睨む。
「悪癖」
この男の端的な言葉は、核心をつく。
喋らない分、周囲をよく観察し、人の性格も見抜いている。
「悪癖なぁ……。ま、それは否定できひんかもな。でも、最初に気ぃついたんはお前やで」
離れた場所での戦闘を最初に嗅ぎつけたのは、ツルギだった。
一言発して、走り出した。自ら飛び込んでいくのは珍しいので、何か気になることがあったのだろう。
「先走り」
「ワイが先走った言うんか? いや、あの場面、行ってやらんと危なかったで。ただ、あのガキには『助けはいらん』言われたけどな」
思い出すと、また腹が立つ。
ひるまず睨み返してきた銀の瞳、これ見よがしに背けられた顔。
あの澄ました顔、いっぺん崩したろか。
ツルギは関係ないとでも言わんばかりに、再び前を向いて、歩き出した。
「口実」
「は? ええやん。人助けやろ」
「不純」
「どこがや!」
興味が先に立っていたのは確かだ。
しかし、どいつもこいつもである。
お返しとばかりに、問いかける。
「やけど、お前も気になっとるやろ。あの三人」
「……」
否定はしなかった。
当たりだ。
「お前が気にしとるんはどこやろな。霧で全部は見えんかったが……」
「武器」
「あぁ、そやな。炎を纏う魔剣に、あれは……」
「おそらく『銃』」
「……あれがか? やばないか。実物は初めて見るわ」
「……」
押し黙ったツルギを見て、まだ何か思うことはありそうだが、話す気はないようだ。
『銃』についての知識はあまり持っていないが、幻の遺物と呼ばれていることくらいは知っている。しかも、あの黄金色の銃は魔術を放っていた。
「あんなんぶら下げて歩いとったら、狙われるで」
「……子ども」
「子どもやから本物とは思われてへん、いうことか? 一理あんな。そんじょそこらの坊主が持ってるとは思わんもんな」
銀髪の銃のさばき方、狙いの正確さが脳裏に蘇る。
「お前は見てへんかもしれんけど、かなり使いこなしとったで、あの銀髪」
「……」
「あと、ワイが気になったんは、二人の戦い慣れやな。どこぞの戦場を渡り歩いてきたんかと思うぐらいや。けど、坊主どもには人を殺してきた奴が背負てる暗さがない。あれは、魔獣相手に叩き上げてきたクチやろな。普段どんな環境におんねん」
「我流」
「そや。誰かに教えてもろた感じもない。荒いし癖も抱えたまんま。……あいつらに同行しといた方が面白かったかもな」
「悪趣味」
「何が悪趣味や」
「嫌悪」
「ああ、あの銀髪にか。あれは、いじったらなあかんやつやろ」
ツルギが足を止めて、またこちらをジト目で睨んでくる。
「悪癖」
「またそれか」
人間観察は染みついた癖だ。
誰の侵入をも許さないような警戒心を見せていた銀髪の坊主。なのに金髪が来た途端、それがするりと解けた。表情も声も年相応になり、あれが素なのだろう。
危うい、と直感が告げた。
「依頼」
ツルギの一言で思考から引き戻される。
「わかっとる。ちなみに毛色の違う綺麗な兄さんはどないやったん?」
「優秀」
「ふーん、まあ、いい組み合わせか」
異常な森、リタホームをめぐる噂、今回の依頼。
そして、三人との出会い。
どうやらこの仕事、面白くなりそうだ。
「ま、この森におるっちゅうことは、また会うやろ」
ツルギが首を振り、わざとらしく嘆息する。
「子ども」
「誰がやねん!」




