第16話 製図屋にて(1)
「ビーくん、シャイナくん、ちょっと手伝ってもらえますか?」
マーに買い物を任せ、店内を物色してしばらく経った頃。マーが会計窓口で手招いていた。
商品を棚に戻し、シャイナと共にマーの元へ行く。
「買い物終わったのか?」
「ええ、スムーズに終わりましたよ。お待たせしました」
「いや、いろいろ見れた」
「面白かった!」
「ふふ、そうですか。楽しめたみたいですね。買った物を運ぶので手伝ってもらってもいいですか?」
マーの後ろのカウンターには大きな紙袋が二つ、小さい紙袋が一つ置かれていた。
大きな紙袋は片手でも持てなくもない。しかし、両手で抱えたほうが安定しそうだった。
自分より先にシャイナが一歩進み出た。大きい紙袋を少し持ち上げ、二つの紙袋の重さを比べる。
「じゃあ、オレこっちの重いやつ持つよ」
「マーにはまだ買い物してもらうから、俺はもう一つの紙袋にするか。小さいのは……」
「すみません、ありがとうございます。小さいのは僕の鞄に入りますよ」
マーが小さい紙袋の上部を掴んで持ち上げた途端、その紙袋の底が盛大に破けて商品が散らばる。
「わぁ」
驚きの声を上げたわりには、マーの笑顔は少しも崩れない。むしろ少し予見していたのかという余裕が垣間見える。店員がすみません、と言いながら商品を拾って詰め直してくれる。
マーが眉尻を下げて言う。
「やっぱ、やっちゃいましたね」
「相変わらずだな」
「ほんと変わんないね」
苦笑しながら、シャイナも頷いていた。
店員に再度詰め直してもらった小袋を受け取り、丁寧にお礼を言ってから、マーは歩き出した。
「次は製図屋さんでこの辺りの正確な地図の確認と、近隣の情報を聞きましょうか」
「製図屋?」
「って何?」
シャイナが不思議そうな顔をする。
「地図を作って売っているお店ですよ。最新の地図や、ちょっとした観光案内、近隣の情報なども得られることがあります」
「リタホームの情報を教えてもらうのか?」
「ええ、それもあります」
「それも?」
「加えて街道上の不具合や危険度、迂回すべきかどうかもわかるかもしれません」
そうか。通る予定の道が常に安全かどうかはわからない。天候や周辺事情など、情報収集は必要なのだと思った。
祖父母がマーを同行させたのも、こういった事情にも詳しいからなのかもしれない。
「それは助かるな」
「わかるかどうかは運次第です。冒険者用の情報屋もありますが、僕はこちらの方が好きですね。このあとは、製図屋に行ってからお昼にしましょうか」
「はーい」
「わかった」
製図屋は先ほどの旅用品店の近くにあった。他の店と異なり、店構えはこじんまりしており、人の出入りも少なそうだった。
こんな場所に最新の情報があるのかと、少し疑う。シャイナもこちらを見て、首を傾げる。
マーは表に貼られた掲示物を一通り見ていた。指で軽くなぞりながら確認すると、小さく頷き中へ入って行った。
何を確認しているかはわからなかったが、その後に続く。
店内に入ると馴染み深い匂いが鼻をくすぐる。
紙とインク、古びた皮の匂いが混じり合っている。
「なんか、ビーの家の書庫みたいな匂い」
「俺もそう思う」
シャイナが自分と同じ感想を漏らしたので、少し肩の力が抜ける。同時にこの場所にどんな知識が詰まっているのか興味が湧いた。
壁にはこの街周辺の大きな地図があり、その上に小さなメモが何枚も留められている。メモには走り書きや細かな情報が日付とともに記載されていた。
棚には丸められた売り物用の地図に、雑然と入れられた紙束、紐で括られた冊子などが置かれていた。
店内を見回している間に、マーがカウンターでメガネをかけた細身の老人と話していた。他に誰もいないところを見ると店主だろう。「カッカッ」と特徴的な笑い声が時折聞こえてくる。
マーはこの短時間で、すでに相手と打ち解けているらしい。相変わらず、人との距離の詰め方がうまい。
「ところで、リタホームの薬草って市場にはないですよね」
「ああ、今は出回っとらんな。行くのかい、お前さん方」
「ええ、まあ」
「しかし、珍しいな。あんたさん、後ろのお子さまも連れてくのか」
「はい、彼らと一緒に」
深い皺の奥にある厳しい目がこちらに向けられた。メガネを持ち上げ、観察しながら何かを思い出すように無遠慮に見つめられる。
「……そこの銀髪の方——」




