第3話 学校での二人
村に学校は一つしかなく、いろんな年代の子どもたちが集まっていた。
朝礼十分前。
学校に着くと、教室に向かう途中であちこちから声がかかる。
「おはよーシャイナ!」
「よう、ぎりぎり間に合ったなー」
「おう! なんとかな」
汗を拭きながらも、シャイナは笑顔で応える。
「シャイナー、昼休み外!」
「おっけー」
「ビーくん、おはよう」
「おう」
教室に入ると、ビーはそのまま自分の席に向かう。
するとすかさず、年上の女の子がシャイナに声をかけた。
「ねえねえ、シャイナ君聞いた? 新しい先生来るらしいよ」
「え、そなの?」
「さっき、あっちで噂になってて」
そうこうしているうちに、始業のチャイムが鳴った。
授業中、ビーは真面目に聞いてノートに書き込み、教科書にしるしをつける。時折小さい子の面倒まで見ていた。
シャイナは集中力が直ぐ切れてしまい、気だるげな顔をしては、先生からも揶揄われている。
退屈な授業が終われば、昼食タイムである。
いつものメンバーで机を寄せ合う。
「やった、ご飯!」
「授業中とはえらい違いじゃんー」
「シャイナは、授業中寝てるか突っ伏してるかだもんな」
「ひでぇな。あ、ビーこっちこっち」
シャイナがビーを手招きする。
「ん、これ」
「ほい」
シャイナはビーの包みを受け取り、その荷を解く。
そこに自分のお弁当も取り出して中身を開ける。
「これとこれとこれがビーの、んでオレのはこっちか」
「あとこれも」
中身を交換し合うと、同じお弁当が二つ出来上がった。
「交換作業早っ」
「いつも見てるけど、分ける必要なくないか」
「それはそれで違うんだよなー」
シャイナは当然のように言いながら、ビーのお弁当から肉をひとつ自分の方に移した。
「おい」
「交換、交換」
「それは略奪だろ」
二人のやりとりに友人たちは笑う。
「またやってるよ」
お弁当を見比べて、シャイナが不満を言った。
「げ、野菜多い。やっぱビーの方が肉あるじゃん」
「変わんねぇ」
昼食を食べ終え、短い休憩を楽しむためにシャイナは外へ向かう。
「ほら、ビーも」
「呼ばれたのお前だけだろ」
「関係ないって」
結果ビーも参加し、二人が対戦することで白熱したゲームになる。
たまにシャイナに黄色い声援が飛び、ビーには友人たちの発破もかかるが、午後の授業の始まりのチャイムがなってお開きとなった。
教室に戻りながら、シャイナは愚痴る。
「お前、あの流れはずるいだろ」
「戦略だ。頭使え」
「ビーと同じチームなら楽なのにっ」
「それだとパワーバランスが悪いだろ」
ビーの正論に、ほかの男子も同意する。
「ほんとそれだよ。お前ら一緒にすると勝てないからなー」
「連携止められないし」
「ほらな」
「く、陰謀だ」
「お前、楽したいだけだろ」
午後、窓の外では風に揺れた木々がさわさわと音を立てる。春の眠気を誘うような陽気に、教室の空気もどこか気だるい。
隣ではシャイナがうつらうつらしている。
「……」
ビーは小さくため息をつき、教科書で軽く小突いた。
放課後、退屈な授業から解放された子どもたちは集まっておしゃべりに興じたり、遊び始めたり、家路を急いだりしていた。
ビーは図書館に向かうべく、早々と支度を済ませる。
シャイナがまた女の子たちに囲まれているのを一瞥し、巻き込まれないうちに教室を出た。
◇◇◇◇◇
シャイナはふと気が付いた。
「あれ? ビーは?」
「ビーはさっきでてったよ」
親切な友人が教えてくれる。
「また先に行くのかよ!」
「シャイナくんって、いつもビーと一緒じゃない?」
「まぁ幼馴染だし」
「仲良過ぎ、じゃない?」
「そうかな」
シャイナは首を傾げる。
「ほら、あいつ本読みだすと飯忘れるし、帰る時間になっても気づかないからさ」
「そう……。面倒見いいんだね」
「そばにいたらみんなそうなるって。じゃあ、オレも帰るな」
「え、あーうん。また明日ね」
「じゃあなー」
シャイナは足早にビーを追いかける。
行く場所はわかっていた。
きっといる。
それでも焦りは消えてくれなかった。
◇◇◇◇◇
そこはたくさんの蔵書が集められた図書館。
小さな村なのに古い文献、物語、歴史書、農業関連など、それなりに充実している。 ここは人の出入りが少なく、校庭の喧騒も遠く静かだったので、ビーは入り浸っていた。
ビーは本を返し終え、いつもの定位置の机に座りまた別の本を読んでいた。
「……そろそろ来るか」
そう思っていると、図書館の扉が開き、シャイナが入ってくる。
その顔は少しご立腹だ。
迷いなくこちらに歩いてきて、開口一番文句を言われた。
「先行くなら声かけてけよ」
「他の子と話してた」
「そうだけどさ、置いてかなくてもいいじゃん。一声かけるとか」
「場所わかるだろ」
「そうだけどさ」
不満そうな顔でビーの隣に腰掛け、椅子を少し寄せる。
「近い」
「普通」
「なら宿題出せ」
シャイナがカバンから教科書とノート、プリントを出しながら尋ねる。
「ビーは?」
「授業中とさっきで終わらせた」
「ずるっ」
「お前寝てたからな」
ビーは教科書を引き寄せ、シャイナのノートを覗き込んだ。
口元に手を当て、目線が教科書とノートの文字を交互に追う。
「……この問題は、教科書のここに書いてあって、写せばできる」
「……」
「ぼーっとすんな」
「あっと、ごめん。んで」
ビーは指で該当箇所をなぞりながら、シャイナを置いていかないよう、ゆっくりと話す。
「ここは、教科書のこの式使って……」
「何でわかんの?」
「授業ちゃんと聞いてるからだ」
「先生の話聞いてると眠くなんだよな……」
「知ってる。口よりペン動かせ」
「はーい」
シャイナが解き始めると、ビーは一息つく。
ちゃんと解き進めているのを確認してから、ビーは手元の本の続きを読んだ。
何度かそんなやりとりをし、シャイナが宿題を終えたのを確認すると、ビーは本を閉じて帰る準備をした。
「あれ、今日はもう帰んの?」
「薬もらってくるよう頼まれてる」
本の貸出表に名前を記入しながら、ビーは答える。
「じいちゃんのか」
「あぁ」
「じゃあ、診療所行こ」
二人は図書館を後にした。




