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エクリプス ―月蝕の二人―  作者: 灰色 ウサギ
第2章 想い出人の郷
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第6話 リビングの不安

 家に帰りつき、何とはなしにリビングを覗く。普段は工房にこもっている祖父が、なぜか机に座って唸っていた。


「いやしかし薬草がなぁ……、でももしかしたら」


 ぶつぶつ呟きながら、手を組み直したり、パッと顔を上げたり、忙しない。


 ——嫌な予感しかない。


 踵を返して自分の部屋に撤退したくなった。

 その場に立ち止まっていると、シャイナがひょいっと後ろから覗き込む。


「どした?」

「……引き返した方がいい気がする」


 シャイナがリビングを一瞥して、ふっと苦笑した。


「じいちゃんか」

「絶対なんかあるだろ」

「ないかもよ」

「んなわけあるか」

「ま、そうなるよな」


 自分たちが進まないので、背後のマーが不思議そうに首を傾げた。


「どうしました?」


 二人同時に振り返る。

 マーはまだ祖父の危険性を知らない。

 このままリビングに入ったら、どんな想定外に巻き込まれるかわからない。


 シャイナと目配せして、ため息をついた。


「マー、今日は……」


 やめておいた方がいい、と言いかけたその時、廊下の奥から穏やかな声が響いた。


「あら、いらっしゃってくださったのね、マー先生」

「こんばんは。今日はご招待いただき、ありがとうございます」


 祖母が丁寧にお辞儀をすると、マーも片手を胸に当てて深く頭を下げる。


 シャイナは隣で仕方がないといった感じで、肩をすくめた。


 頭が痛くなった気がして、額を押さえる。


「ばあちゃん……」

「あら、ビーちゃん。こんなところで立ち止まってどうしたの?」

「いや、じじいが……」


 祖母もリビングを覗く。

 頬に手を当てて、困った顔をする。


「あぁ、おじいさんね。ずっと唸ってるの」

「……うん」


 変に掠れた声が出た。


「なんだか頼み事があるみたいなのよ」

「……」


 この先の展開が予想できすぎて、あえて祖母から目を逸らす。

 しかし、祖母は気にするそぶりもなく、こちらが危惧していた内容をそのまま告げてきた。


「ビーちゃん、話聞いてあげてくれる?」

「……………………わかった」


 答えは一つしかないのだが、それでも絞り出すまでに相当の時間を要した。


 いつも優しく、穏やかで、祖父への苛立ちにも一緒に悩んでくれる。

 そんな祖母の頼みを断れるほど、強くはない。


 隣でシャイナが笑いをこらえている。

 イラついたので横腹をつねっておいた。


「いった!」


 自業自得ということにする。


 祖母は晴れやかな笑みを浮かべて言った。


「ありがとう。じゃあ、私は夕飯の仕上げしちゃうわね」

「うん」


 沈んだ声しか出ない。


 祖母がくるりとマーに向き直る。


「先生もこんなところでなんですから。ビーちゃん、シャイナくん、案内してあげてね」


 項垂れながら返事をした。


「はい」

「はーい!」


 自分とは対照的で、シャイナの声は明るい。

 軽い足取りで祖母はキッチンへ向かった。

 去り際に「先生もいらっしゃるから、きっと大丈夫よ」と付け加えられた。


 その言葉が、何より不安だというのに。


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