第6話 リビングの不安
家に帰りつき、何とはなしにリビングを覗く。普段は工房にこもっている祖父が、なぜか机に座って唸っていた。
「いやしかし薬草がなぁ……、でももしかしたら」
ぶつぶつ呟きながら、手を組み直したり、パッと顔を上げたり、忙しない。
——嫌な予感しかない。
踵を返して自分の部屋に撤退したくなった。
その場に立ち止まっていると、シャイナがひょいっと後ろから覗き込む。
「どした?」
「……引き返した方がいい気がする」
シャイナがリビングを一瞥して、ふっと苦笑した。
「じいちゃんか」
「絶対なんかあるだろ」
「ないかもよ」
「んなわけあるか」
「ま、そうなるよな」
自分たちが進まないので、背後のマーが不思議そうに首を傾げた。
「どうしました?」
二人同時に振り返る。
マーはまだ祖父の危険性を知らない。
このままリビングに入ったら、どんな想定外に巻き込まれるかわからない。
シャイナと目配せして、ため息をついた。
「マー、今日は……」
やめておいた方がいい、と言いかけたその時、廊下の奥から穏やかな声が響いた。
「あら、いらっしゃってくださったのね、マー先生」
「こんばんは。今日はご招待いただき、ありがとうございます」
祖母が丁寧にお辞儀をすると、マーも片手を胸に当てて深く頭を下げる。
シャイナは隣で仕方がないといった感じで、肩をすくめた。
頭が痛くなった気がして、額を押さえる。
「ばあちゃん……」
「あら、ビーちゃん。こんなところで立ち止まってどうしたの?」
「いや、じじいが……」
祖母もリビングを覗く。
頬に手を当てて、困った顔をする。
「あぁ、おじいさんね。ずっと唸ってるの」
「……うん」
変に掠れた声が出た。
「なんだか頼み事があるみたいなのよ」
「……」
この先の展開が予想できすぎて、あえて祖母から目を逸らす。
しかし、祖母は気にするそぶりもなく、こちらが危惧していた内容をそのまま告げてきた。
「ビーちゃん、話聞いてあげてくれる?」
「……………………わかった」
答えは一つしかないのだが、それでも絞り出すまでに相当の時間を要した。
いつも優しく、穏やかで、祖父への苛立ちにも一緒に悩んでくれる。
そんな祖母の頼みを断れるほど、強くはない。
隣でシャイナが笑いをこらえている。
イラついたので横腹をつねっておいた。
「いった!」
自業自得ということにする。
祖母は晴れやかな笑みを浮かべて言った。
「ありがとう。じゃあ、私は夕飯の仕上げしちゃうわね」
「うん」
沈んだ声しか出ない。
祖母がくるりとマーに向き直る。
「先生もこんなところでなんですから。ビーちゃん、シャイナくん、案内してあげてね」
項垂れながら返事をした。
「はい」
「はーい!」
自分とは対照的で、シャイナの声は明るい。
軽い足取りで祖母はキッチンへ向かった。
去り際に「先生もいらっしゃるから、きっと大丈夫よ」と付け加えられた。
その言葉が、何より不安だというのに。




