第27話 決意
夜風が頬をそっと撫でて、髪を揺らす。
月が優しい光を落とす。
縁側に座り、ビーはぼんやり先ほどまでの団欒の様子を思い出していた。
◇◇◇◇◇
夕食前、シャイナとともに彼の両親が大量の食材を持って、お礼を言いに来た。
シャイナは親父さんに無理やり頭を掴まれて何度も下げさせられていた。
帰宅時、シャイナは上着をマーに借りていたが、ズボンはボロボロで、ところどころ血が滲んでいた。 破れた元の服もカバンに入れて持ち帰っていたはず。
それなのに、「死にかけたけど何とかなった」と笑顔で適当な説明をしたのだろう。
一大事と思った両親が飛んできたというわけだ。
親父さんの手から解放されたシャイナに「おつかれ」と声をかけると、「はずっ」と短く返ってきた。
その後シャイナの両親は、ビーにも「迷惑をかけた」と一礼して去っていった。
祖母は腕によりをかけて、いつにも増して豪勢な食事を作ってくれた。
唐揚げの香味ソースがけ、豚肉と野菜の旨煮、焼きたてのパン。
最後にはフルーツケーキなども出てきた。
マーは旅の話をしながらも、熱々の料理で舌を火傷したり、酸っぱい果物をピンポイントで引き当てたりしていた。
祖父母はマーとお酒を酌み交わし、他の街のことで大いに盛り上がった。
大人たちをよそに、二人は食事に没頭していた。
「ビー、これうまっ!」
「どれだ?」
「あの豚肉のやつ」
「こっちもうまかったぞ」
フォークに刺さった一口大の唐揚げをシャイナの口の前に運ぶ。
それをシャイナはすぐに頬張った。
「んん、うまっ!」
「だろ」
最後のデザートは、シャイナにフルーツを多めにとってもらい、静かに堪能した。
一口一口味わいながら食べていると、シャイナから髪を梳くように頭を撫でられた。
シャイナも満足そうに目を細め、その口元はやわらかく緩んでいた。
その顔を見て、なんだか肩の力が抜けた。
祖母の料理に、話の弾むテーブル、みんなの笑った顔に、また心も身体もじんわり温まるのを感じた。
長めの食事が終わると、エチルスは客間に案内され、シャイナは今日は珍しく、早く帰っていった。
◇◇◇◇◇
すでに夜もかなり更けていた。
リビングにはもう誰もいない。
一人、見慣れた景色を眺めながら、あの場所での出来事を思い出す。
自然と眉間にしわが寄った。
身体がこわばった。
シャイナにかばわれた時のことを考えると、今でも心臓が掴まれたかのように息が詰まる。
ふと両手を見た。
――あれは何だったんだ。
黒く、深く、暗い。
底知れない力。
確か何か言われたような……。
「なんじゃ、まだ起きとったのか」
背中側から声をかけられた。
軽く振り向くと、祖父が立っていた。
飄々とした顔で、こちらの様子を窺っている。
ビーはその視線から逃げるように、顔を庭へ戻した。
祖父はゆっくりとした動作でビーの横に腰を下ろす。
何を言うわけでもなく、急かすわけでもなく、ただ一緒に月を眺めた。
さわさわと揺れる梢。
森でフクロウが鳴いている。
奥の湖のさざなみさえも聞こえてくるほど、静かな夜。
――守れなかった。
まだ足りない。
自分のことさえわからない。
奥歯を強く噛み締めた。
――それでも、もうあんな思いはしたくない。
両手へ視線を戻し、拳を握りこんだ。
ゆっくりと、言葉を紡ぐ。
「強くなりたい。もっと」
口に出した願いは、すっと体の奥に居場所を見つけて、脈打った。
「……そうか」
祖父は優しく、ただ一度だけ頷いた。
よっこいせと立ち上がると、ビーを手招きする。
「ついて来い」




