↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/79

第26話 帰宅(2)

「……ジジイ。鉱石、急ぎじゃなかったのか?」

「ほへ?」


祖父は素っ頓狂な声を出す。

銀の瞳が鋭く細められる。


「遅くなったら依頼主が困るとか、言ってただろ」


指摘を受けた祖父は明後日の方向を向いて、目を合わせない。

吹けもしない口笛を吹くフリまでしてみせる。


「……そ、そういえば、そんなこともあったかもしれんのう?」

「てめっ、やっぱ嘘か!」

「いや、そんな事実もなくはないのじゃ」

「ないんだろうが!」


掴みかかろうとするビーを、シャイナが後ろから羽交い締めにして止める。


「待ってビー! 帰ってきたばっかなんだから」

「やっぱ一回ちゃんとわからせる!」


取っ組み合い寸前の様子を眺め、頬に手を当てた祖母が「まあ」とつぶやく。

マーはそのやり取りに目を見開いていた。


祖母が玄関に立ち尽くすマーに視線を移し、首をかしげる。


「……あら? ねぇビーちゃん、こちらの綺麗なお兄さんはどなた?」

「あぁ? 途中で会った」


まだ怒りの渦中にいるビーは、不機嫌そうに必要最低限の会話で済ませようとする。

ビーを抑えたまま、シャイナがフォローを入れる。


「ビー、もうちょっと説明しなよ。えっと、エチルスには道中色々助けてもらったんだ。お礼したくてついてきてもらった」

「マー・エチルスと申します。僕こそお二人には道中助けていただきました」


紹介されたマーは、深々とお辞儀をしたあと、柔らかく微笑んだ。

祖父はこの機を逃すかとばかりに、マーの前に素早く移動する。


「それは、それは。孫たちがお世話になりましたな」

「あらあら、そうだったのね。ここでは何ですし、どうぞお上がりくださいな」

「ささ、どうぞどうぞ、こちらへ」


孫の抗議の声は聞こえてないとばかりに、祖父は足早にリビングへ逃げた。

来客用のスリッパをマーに差し出し、祖母もあとに続く。


舌打ちをして、ビーはようやく大人しくなった。

シャイナも腕を緩める。


「ほら、行こ」


シャイナに背中を軽く叩かれ、ビーは盛大なため息をつきながらリビングへと向かう。

二人の後ろについて歩きながら、マーが尋ねた。


「シャイナくんとビーくんはご親戚ですか?」

「ううん、違うよ。家が近いだけ。オレんちビーんちのもうちょい向こう。

幼馴染って言ってなかったっけ?」


シャイナは特に気にする風でもなく、当然のように答えた。

その答えを受けて、ビーはフォローにならないフォローを入れる。


「こいつ、ずっと入り浸ってるからな」

「ビーを世話するためだけどな」

「それはこっちのセリフだ」


マーは目を何度か瞬かせていた。



◇◇◇◇◇


ダイニングテーブルから、祖母が淹れたお茶と手作りのクッキーの香りが漂ってくる。

マーは、祖父母の話にも付き合いつつ、今回の一件について、ことのあらましを説明してくれている。


祖父母は「まぁ!」「なんと!?」と驚きを隠せないようだった。

祖母の肩が震え、それを祖父がそっと背中から支えているのが視界の端に入った。


ビーは、リビングのソファに深く腰掛け、本を手に取る。

シャイナも隣に座り、お菓子に舌鼓を打っていた。


数日しか経っていないのに、座り慣れたソファ、穏やかな木の匂い、お茶とお菓子がやけに懐かしい。普段は気にも留めないものが、今はやけに鮮明に感じた。


シャイナがダイニングテーブル側を横目で見ながら、ビーに話しかける。


「エチルスが話してるの聞いてると、あの場所での出来事がなんか現実じゃないみたいだな」

「そうだな。あんなに必死だったのにな」

「あ、だからって反省忘れんなよ」


ビーはシャイナから目をそらす。

それを追うようにシャイナがのぞき込んでくる。


「……忘れてない」

「いま一瞬間があった」

「忘れてない。近い」


ビーはシャイナを本で押し除ける。

その隙にとばかりに、シャイナの手がビー用に取り分けられた皿に伸びた。


「あの時のお詫びにクッキー一個もらい」

「あ、それ残しといたやつだぞ」

「反省してんだろ」

「それとこれとは話が別だ」


ビーとシャイナが小競り合いをしている間に話がまとまったのか、祖父母の弾んだ声が聞こえてくる。


「せっかくですから、しばらく家に泊まっていらして」


マーは首を振りながら、手のひらを祖父母に向けて遠慮している。


「いえ、そんなお世話になるのは申し訳ないです」


祖父も楽しそうだ。


「いやいや、何のお礼もせず恩人を帰すわけにはいきません。

部屋はたくさんありますから」

「そうですよ。この村は宿屋はありませんし、どうぞゆっくりしていってくださいな」


祖父母の様子を見て、ビーはつぶやく。


「やっぱな」


シャイナも三人の様子を観戦している。


「じいちゃんばあちゃん、人をもてなすの好きだよな」

「今日はいい飯が食える」

「ナイス」


ふと気がついたように、ビーはシャイナに視線を投げる。


「お前は一旦帰らなくていいのか。マーに服借りたままだろ」

「あ、そうだった。じゃあ、夕飯まで家に戻ってなんか持ってくるかな」


すかさずビーが注文をつける。


「果物多め」

「わかってるよ」


苦笑しながら、シャイナはクッキーを食べ終え、一時帰宅した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。