第25話 帰宅(1)
洞窟から出て、三人は村への帰路を進む。
道中マーが何度か不運に見舞われるものの、滝壺に落ちるほどのことは起きず、野営し一泊。
翌日昼頃には村の近くの湖も見えてきた。
シャイナが湖を見て、背伸びをする。
「なんか久しぶりな気がするなぁ。ここまできたらもうちょっとだな」
「……そうだな」
見慣れた景色は妙に胸に沁みた。
たった数日離れただけで、出会いがあって、トラブルに見舞われ、死にかけて。
それでも村の周辺に変わったことは見られず、いつも通りだ。
定位置に収まるように、心がすとんとはまった。
ため息が軽い。
同時に頭の奥のほうで何かが引っかかる。
「……?」
ただそれが何なのか、説明はできない。
手繰り寄せようとしても、宙をつかむような感覚。
考え込んでいると、シャイナが気づく。
「どうした?」
「……いや、なんでもない」
そう言いながらも、ビーは何か忘れているような気がしてならない。
マーが湖を眺め、風に揺れる髪を押さえながら目を細める。
「素敵な場所にあるんですね」
シャイナは得意げに笑顔で答えた。
「特に観光名所とかない村だけど、ゆっくり過ごすには、たぶんいいとこだと思う」
ビーとシャイナは逸る気持ちを抑え、マーを伴い村へと向かった。
陽光きらめく湖を眺めながら進む。
普段走り回る森、知った道。
記憶の中にある景色と一つずつ重なっていく。
帰ってきたのだと、改めて実感した。
そして、目に入る。
見慣れた赤い屋根、蔦が覆う壁、煙突、ビーの家が出迎えてくれた。
マーがいたので、店側ではなく、普通の玄関へ向かう。
ドアを押し開け、奥に声をかける。
「ただいま」
「たっだいまー!」
「お邪魔します」
声を聞きつけて、リビング側の扉から祖母カローシェがにこやかな笑みをたたえて出迎えてくれる。
「あらあら、お帰りなさい」
そして、祖父のチェロベックも顔を出す。
「おう、無事に帰ったか。さすがじゃのう」
皺だらけの笑顔を見た瞬間、ビーは左手で顔を覆った。
動きが止まる。
頭の片隅に引っかかっていたものを、ようやく釣り上げた。
動かないビーをいぶかしげに思ったシャイナが、祖父母とビーを交互に見比べる。
「どした?」
ビーは心底苦々しく呟いた。
「くっそ、ムカつく」
「は?」
「ジジイの顔見て思い出した、最悪だ」
祖父も怪訝な顔をする。
「なんじゃぁ、帰ってくるなり」
「あ」
シャイナも思わず声が出る。
「「鉱石」」
二人の口調が揃う。
マーがポンっと手を叩く。
「そう言えば、鉱石を取りに行くって言ってましたね」
ビーは両手で顔を覆って天を仰いだ。
よりにもよって、トラブルメーカーの祖父のお願いを達成できなかったという不名誉に、どうしようもなく自分を許せなかった。
「時間戻してぇ……」
「めっちゃ悔しがるじゃん」
「当たり前だろ、よりにもよってジジイだぞ」
八つ当たり気味にシャイナを睨む。
「まぁ、今回はしょうがなくね?」
祖父もあっけらかんとしている。
「なんじゃ、忘れたんか。珍しいのう」
「いろいろあったんだよ」
「ほっほっほ、また機会はあるじゃろ。そんな遠くでもないしの」
「違う、失敗したこと自体が嫌なんだよ。よりにもよってジジイの依頼……!」
「はいはい」
シャイナがビーの頭を撫でる。
奥歯を噛み締め、行き場のない感情を押し込める。
だんだんと頭が冷えていく中で、ビーには祖父の軽い態度が解せなかった。




