第24話 金の双眸が見るもの
「エチルス、すごいな」
シャイナはジャンプしたり、腕を回したりして、体の調子を確認する。
服は背中側が破れてしまっていたので、エチルスの予備の服を借りていた。
「いえ、シャイナくんに回復魔術が効きやすかったからですよ」
「それでもすげーよ!
傷もすっかり治ったし、めっちゃ体軽くなった。 ありがと!」
シャイナは鼻歌を口ずさみそうなほど上機嫌だ。
穏やかに微笑みながら、マーは答える。
「それはよかったです。あとビーくんはこちらを飲んでおいてくださいね。
少し苦いんですけど」
近くの岩の上に座ってシャイナの様子を見ていたビーは、マーから小さな小瓶を渡される。
手のひらの中に収まるガラス瓶には、きらりと光る透明な液体が入っていた。
蓋を開けて、ビーは匂いを嗅いでみる。
特に変な匂いはしない。
量も二口あるかないか。
一気にあおる。
次の瞬間 ——
「……っ!!!?」
ビーは思わず口元に手を当て、体を小さくさせて、衝撃に耐える。
その様子に、シャイナが一瞬不安そうに声をかける。
「ビー?」
「すみません、それ見た目と匂いに反してかなり苦いんですよね」
マーがため息をつきながら、苦笑した。
ビーはただただ頷く。
「そんなに?」
シャイナは笑いを堪えている。
普段ならシャイナに対して一言文句も言いたいところだが、ビーは苦味を耐え抜くので精一杯だった。
一旦睨んで「後で覚えとけよ」とだけ言外に伝えておく。
シャイナがすぐ口をつぐんだ。
マーが顎に手を当てて、考えるようにして唸った後、申し訳なさそうに肩を落とした。
「ビーくんにもう少し、回復をかけられたらよかったんですが……」
「ごほっ……いや、気にするな」
マーは大規模魔術とシャイナの治療で、精神力と魔力を大幅に消耗している。
それでも、できる範囲で回復魔術をかけてもらい、多少体は楽になった。
マー自身が消耗していることを差し引いても、シャイナに比べて明らかに効果が薄いと思われた。傷の治りも遅い。
以前から回復魔術がうまく発動しないことも踏まえると、自分は回復魔術との相性が悪いような気がした。
もっとも、シャイナの方が特異な体質という可能性もある。
また力が戻ってきたらかけますね、とマーは付け足した。
体の調整を終えたシャイナが、カバンを整理しているマーに尋ねる。
「エチルスは、ここから出たらどうすんの?」
「そうですね。この辺りの調査をしようとは思ってましたが……」
整理する手を止め、マーはしばし思案している。
そんなマーの迷いを断ち切るように、シャイナが事も無げに言う。
「もし良かったら、オレたちの村に来ない?
こっからそんなに離れてないし、お礼もしたい。な、ビー」
「ん」
「それは嬉しいお誘いですね」
灰金色の髪と青い耳飾りが柔らかく揺れる。
マーはにっこりと笑った。
その反応に、シャイナも口角を上げた。
「んじゃ、決まり!」
「でも…………どうやって出ましょうか?」
そう言って、出入り口があった場所を指す。
そこには崩落の跡が残る。
猫女は、いつの間にか気配もろとも綺麗に消えていた。
ビーは躊躇いもなく言った。
「まぁ、吹き飛ばせばなんとかなる。お前は大きめの岩ぐらい切れるだろ」
ビーはそう言って、当然のようにシャイナへ視線を投げた。
シャイナは両手を後頭部に当てて、崩落跡をしばらく眺める。
「んー、たぶん」
「じゃあ、やれ」
「人使い荒くない? ビーは?」
「お前は回復してるだろ。オレはお前が切った後にでかいのかます予定」
「まじ? できんの? また倒れたりしない?」
「加減する」
「さっきもやらかしてたじゃん」
「あの時と状況が違う」
「ほんとかよ」
「今はお前がいるから大丈夫だろ」
その一言にシャイナは目元を片手で覆う。
「……ほんっと、そういうとこだから」
「何がだ」
ビーはいつものように首を傾げた。
◇◇◇◇◇
一方、その三人を遠くから眺める金の双眸があった。
その目が愉しそうに細められる。
猫の時と同じ漆黒の髪が風に靡いて、怪しげに艶めく。
まるで人形のような白い指を、顔の輪郭に添える。
そして、赤い唇が弧を描いた。
「そう……。これは重畳ね」
小さくつぶやく。
次の瞬間、女の姿は音もなく影に沈む。
誰にも気づかれることなく、その気配は掻き消えた。




