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第21話 エチルスが見たもの

エチルスは土壁の中で外の様子をずっと伺っていた。

今は無闇に動くべき時ではない。

星の加護は術者自身にも恩恵をもたらす。

消耗した体力を少しでも回復させ、肝心な時にはすぐ動けるようにしておいた方がいい。

回復薬は二人のためにも温存しておきたかった。


いざという時、外に出られるよう準備も怠らない。

術を駆使し、土壁の端に人が一人通れる穴を開けておく。

結界は土壁とは別に保持されているので、中に魔獣が入ってくることはない。


少年たちに引き寄せられて、魔獣たちはここから少し離れた場所に集まっていた。

息を整えていると、耳をつんざくような金切り声が聞こえた。


一瞬呼吸ができなかった。

悪い予感がする。


もつれる足を叱咤し、開けた穴から急いで外に出た。

ヘドロのような血なまぐさい匂いが鼻につく。

死骸が続く向こう側に群れる魔獣たちの姿を捉える。


獲物を捕らえたような歓喜の咆哮が耳を突き刺した。

エチルスはただ茫然と成り行きを見守ることしかできない。

自分の体から体温が消えたように感じる。


「やめろおおおお――――っっ!!!」


洞窟内に悲痛な声が響く。


そして次の瞬間、漆黒の柱が天を衝いた。

ドンッという空気の衝撃が後から襲ってくる。


背筋が凍りつくような感覚。

地面が揺らいでいるような不安感。

手汗がひどい。


気づけば、星の加護はすでにその効力を失っていた。


――静かだ。


先程まで雄叫びを上げていた魔獣たちが、時が止まったように動かなくなった。

いや、動けないのだ。


その場を支配するのは、目に見えない圧迫感。

喉が渇きを覚える。

空気が刺すように痛い。

身動きすることもためらわれる。

エチルスは訳もわからず足がすくんだ。


魔獣たちは目を剥き、群れの中心を凝視していた。

嫌でも聞こえていた、彼らの荒い息遣いは抑え込まれている。

毛先の一本でさえも動かない。

中には体が震えてうずくまっているものさえ出ているほどだ。


――なぜ、何が起こっている?

――あの黒い柱が関係している?


黒い柱は融解するようにするりと解けて、地上へ戻った。

魔獣の群れが端から散り散りになり始める。

そしてそれを追い、黒い牙が大地を穿ちながら疾走する。


――あれは!?


見てはいけないものを見た気がした。

それはまるで死神が鎌をもたげたような、不吉な予感を呼ぶ。


襲い来る黒いうねりから魔獣たちは逃げ惑っていた。

その闇に触れたものは、容赦なく次々と呑み込まれていく。


群れが割れた。


中心には少年二人の姿があった。

一人は立ち上がり、もう一人は血を流して倒れている。


その異様な光景に、喉元を掴まれたような気分になった。

エチルスの心臓が早鐘を打つ。

自然とペンダントをにぎるが、手の感覚はない。


ビーの周囲には、暗い闇が生き物のように蠢いていた。

銀髪の少年はそれを意のままに動かし、魔獣を悉く消していく。

断末魔は飲み込まれ、姿かたちは一切掻き消えて、匂いさえもない。

存在そのものが失われている。

残っているのは恐怖が染みついた空気だけ。


気がつけば、群れは喰われ尽くしていた。

あるのは獰猛な闇の牙。

戦いではなかった。

ただ圧倒的な捕食者がそこにいるだけだった。


そして、それを感情の抜け落ちた無慈悲な顔で眺めるビーがいる。

先ほどまで必死で自分たちを守ろうとしていた少年だ。

短い旅の中でしか知らない。

それでも、命が消える行為を、一片の揺らぎなく見つめるような子ではないはずだった。


傍らに横たわった幼馴染の少年はピクリとも動かない。

絶望が彼を変えてしまったのか。

否、何かを呼び起こしてしまったのか。


最新話を読んでいただき、本当にありがとうございます。

心から、お礼を言わせてください。

(見えませんが、深々とお辞儀をしています)


少しでも面白かった、気になったと思われた方は、

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引き続き、よろしくしていただけると嬉しいです。

では、また明日更新いたします。

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