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第20話 顕現

体に衝撃が走り、そのまま地面に叩きつけられた。

シャイナが自分を庇うように、一緒に倒れている。


「シャイナ!?」

「ぐっ……」


シャイナの背中には禍々しいほど赤紫色の液体がベッタリと広がっていた。

魔獣から放たれたであろう毒液。

鼻につく刺激臭。

ジュワという音を立てて、服を溶かしながら染み込んでいるようだった。

肌が青紫色になっている。


そして、周囲の魔獣たちの殺気がじわりじわりと近づいてきているのがわかる。


――まずいっ!


狙われているのは自分だけ。

ビーはシャイナから離れようとした。


しかし、シャイナの腕が盾のようにビーを抱え込む。


「どけ、バカっ! 今ならまだ間に合う!」


シャイナの手は頑なに動かない。

俯いた顔は近すぎて焦点が合わない。


「離せ! お前はまだ助かる!!」


魔獣の唸り声や荒い息がすぐ近くで聞こえる。

何かがぶつかってきてシャイナの体が揺れた。

耐えるようにシャイナの体が堅くなる。


「シャイナっ! 頼むから!!」

「――ぐあっっ!!」


シャイナがひときわ大きく体を反った。

自分を抱く腕に血が滴る。

服がみるみる赤く染まる。


――何ができる!?

――身動きが取れない。

――銃じゃ足りない!


「……いやだ……」


頭の中をノイズが走る。

シャイナの服を千切らんばかりに強く掴む。

魔獣たちが攻撃の手を休めることはない。


「やめろ」


苦痛のうめきが何度も聞こえる。


――強くなりたい、強く!

――力が欲しい。

――何も奪われない力が、今すぐ!!


「やめてくれっ!」


シャイナの重さ以外のものが、自分にもかかる。

荒い息が耳に届く。

叫ぶしかないのか。


――このままだとシャイナが――


生温かい血が頬に垂れる。

視界がゆがむ。

何のために強くなった?


――いやだいやだいやだいやだ!


様々な思い出が瞬時に出ては消えて、脳内を埋め尽くしていく。

その中には空白のものもあった。

ひどい罪悪感と喪失感だけが胸に去来する。

昔から抱えてきたものが堰を切ってあふれる。

どこを探しても、打開策がない。


耳元の荒い息が一瞬だけ途切れた。


――もうこれ以上失いたくないっ!


「やめろおおおお――――ーっっ!!!」


『久方ぶりだな』


肌が泡立つような声とともに、心臓が鷲掴みにされた。




次の瞬間、音が掻き消えた。

周囲にあった魔獣の気配が切り取られたかのようにない。


自分の体から何かが湧き出ていた。

皮膚や筋肉の下から、黒いモヤが立ち上る。

足元には漆黒の何かが蠢いていた。


黒く、暗く、深い――


全てを飲み込もうとする闇がそこにあった。

シャイナの手から力が抜ける。

もう、限界なのだとわかった。


なぜか冷静に状況を見ている自分がいる。


ビーはシャイナをこれ以上傷つけないように、ゆっくりと立った。

魔獣たちは怯えたように、近づいてこない。

左手の黄金銃が微かに震えている。

魔獣たちが後退する気配を感じた。


ビーは軽く右手を払う。


黒い牙は音の壁を切り裂きながら地面を滑ると、魔獣たちが気づくより先に一呑みにした。 空気が遅れてやってくる。

すでにそこは最初から何もなかったかのように、魔獣の痕跡すらない。


左に払えば、左側の魔獣が次々と闇の顎門に消えていく。

その様子に、背を向けるものまで出始める。


ビーはそれを許さない。

黒はまるで自身の手足のように動いた。

右手を握り込む。


応じるように黒が脈打った。


無数の影が、牙を剥くように瞬時に伸び、抵抗を許すことなく魔獣を捕えた。

断末魔でさえも糧のように、地面を這うような重低音を出しながら、その姿を闇へ引き摺り込む。

洞窟内に満ちていた狂った熱はたちまち凪いでいった。

立ち向かうものは、容赦なく姿を消す。

それはもはや一方的な蹂躙だった。


わずかな時間だった。

あれほどビーたちを苦しめた魔獣たちはひとかけらも残らず消えた。


痕跡としてあるのは、最初の頃に二人が叩き潰した残骸だけ。


そしてビーの中には、ただただ脅威を喰らう衝動だけがこびりついていた。

最新話を読んでいただき、本当にありがとうございます。

心の底からうれしいです。ガッツポーズしてます。


少しでも面白かった、気になったと思われた方は、

ポイント・感想・ブックマークなどいただけると、

大変ありがたいでございます。



引き続き、よろしくお願いいたします。

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