第17話 囮
魔獣たちの狙いは自分かもしれない。
冷や汗が背中を流れた。
――確かめなければ。
「シャイナ! あげろっ」
「――っ!!」
呼ばれたシャイナは反射で手を組み屈んだ。
その手にビーは足をかける。
シャイナが一瞬息を呑む気配があった。
「おおおおーっ!!」
屈伸とその腕に力を込めて勢いよく手を振り上げ、ビーの体を空へと送り出す。
ビーが空中に舞った瞬間――
視線の突き刺さる音が聞こえそうなほど、魔獣たちの目が一斉にビーを捉えた。
ドクリ――
胸の奥、いや体のもっと奥深いところで、何かが蠢いた。
――呼んでいる。
ねばつくような視線が、ビーの考えを確信に変える。
――魔獣の標的は俺だ!
空中で回転して体勢を整え、魔獣の上に着地。
落ちた衝撃を膝で吸収しまた飛び上がる。
遠くからシャイナの声が聞こえる。
それは悲鳴にも似ていた。
ビーは振り返らない。
自分が囮になる。
群れを引き離せば、二人の生存確率は上がる。
問題はどこまで持つか。
最悪、自分一人の犠牲で終われるかもしれない。
ビーの動きに呼応し、魔獣たちが動く。
大地を踏み荒らし、砂煙が舞う。
空気の震えが内臓にも伝わる。
魔獣の固い背を足場に、再度空中へと身を躍らせる。
「――ちっ!」
思ったより反応が早い。
腰のホルスターにある魔術球を取り出し、落下地点の足元目掛けて投げる。
「突風よ!!」
炸裂した突風が、近くの魔獣の意識を一瞬だけ逸らす。
その隙にビーは地面へ滑り込み、銃に球を補填しながら、姿勢は低く保ったまま駆ける。
魔獣たちのすぐそばを縫うように走った。
鼻をつく獣臭、澱のような濁った気配。
大型魔獣の足元、わずかな隙間をすり抜け、鋭くステップを切り替えながら進む。
正面から相手を取ればスピードが落ち、一瞬で飲まれる。
ギリギリで抜ける際に頬や腕などに小さな切り傷ができていく。
――何故、的確に俺を追える?
砂煙と魔獣たち自身が視界を遮っているのに、魅かれるように四方八方から確実に迫り来る。
壁際に近づき、そのまま登れるところまで斜めに駆け上がり、壁を蹴って方向を変えた。
魔獣の爪が上着の後ろを掠める。
前も道がない。
銃を構え引き金を引く。
「鎌旋風!!」
刃物のような風が魔獣たちを切り裂いた。
ヘドロのような匂いの中を突っ切る。
だが、空いた隙間は一瞬で埋まっていく。
倒れた魔獣を踏み越え、別の魔獣が雪崩れ込む。
止まるわけにはいかない。
目の前の四つ足の魔獣の体を踏み台に飛んだ。
しかし、正面、そして横からも同様に魔獣が飛び出してきた。
背後もついてきている。
――まずいっ!!
咄嗟に、正面から飛んできた魔獣の口に黄金銃を突っ込み、引き金を引いた。
目の前で頭が破裂し、返り血が鼻をつく。
間髪入れず、右肩側に鋭い熱が走る。
牙を突き立ててきた魔獣に、すばやく銃口を向け撃ち抜く。
地面に着地する間際、背後から衝撃が来た。
猪のような塊に体を突き飛ばされる。
背中に鈍い重みを感じた。
地面に叩きつけられそうになるも、辛うじて受け身をとって転がり、勢いを殺さずそのまま走りだす。
息が上がる。
まだ半分も削れてない。
――痛みは邪魔だ、忘れろ!
駆けて、
駆けて、
駆け抜ける。
一つの動きも無駄にしない。
抜け道を探して一匹、また一匹と葬る。
間合いを取ろうとしても、空間が空けば魔獣が次から次へと押し寄せる。
迫る魔獣の顔面を、黄金銃ごと殴りつけた。
怯んだ隙に蹴りを叩き込む。
だが足を掴まれた。
強引に体を捻って追撃を喰らわす。
痛みで鈍った右手を掴まれるも、素早く体重を移動させ、振り向きざまにその額に向けて引き金を引く。
残弾十発――
どのくらい経った?
息が上がる。
神経がすり減る。
時間感覚がなくなる。
あとどのくらい潰せば終わる?
他より頭一つは抜けた、筋肉質な魔獣が立ちはだかる。
他の魔獣が気圧されるように距離を取っていた。
巨腕が振り下ろされる。
――避けて、足元を抜けて背後へ
頭はそう考えていたのに、足がもつれた。
「――っ!」
必死に体をずらして回避するも、一撃が重い。
沸騰した鉛の塊が体内に無理やりめり込まれる。
呼吸を遮られ、胃の奥から不快なものが込み上げた。
足が止まる。
二撃目が来る。
反射で銃口を向けた。
――間に合わない。
最新話を読んでいただき、ありがとうございます。
少しでも興味を持っていただけたら、感想・ポイント・ブックマークなどなど、
いただけると大変うれしいです。
すんごく励みになります。
引き続きろしくお願いいたします。




