16話 マー・エチルスの攻防
数多の魔獣が出現し、エチルスは生きた心地がしなかった。
足はもつれ、心臓が口から飛び出んばかりにドクドクと早鐘を鳴らす。
目の前の光景が現実なのか夢なのかわからないほどだった。
ただ、妙に冷静に自分を客観的に見ていたと思う。
壁にたどり着いた時、終わったと思った。
逃げ場はどこにもない。
しかし少年たちは諦めていなかった。
素早く防衛拠点となる場所を作り上げると、敵地に迷いなく自ら飛び込んでいく。
自分を守るために。
活路を開くために。
土壁のつなぎめから外が見えた。
炎の唸りと、雷にも似た銃声が聞こえる。
外の魔獣は二人が引き付けている。
心の底から情けなかった。
自分自身を激しく叱責する。
大人が子どもに守られているなど、あるべきではない。
彼らは自分のために取るべき手段を限られ、少しも無駄にできない武器さえも賭した。
たまたま出会い、短い時間を共有しただけの人間を、彼らは最優先で生かそうとしている。
エチルスは頭に染みついた恐怖を断ち切るように、かぶりを振った。
必要なことだけに必要な労力を割く。
まず拠点を確固たるものにする。
彼らと同じ前線には立てない。
しかし、自分にしかできないことがある。
魔を払う結界に力を注ぐだけでは、二人に何かあった時に対応ができない。
エチルスはカバンをひっくり返す。
結界構築の媒体――魔力を込めた水晶体。
瓶の中には両端が尖り、六角柱の形を成したクリスタルが三つ入っていた。
板状になった部分が光を反射する。
それらをこの拠点内に等間隔に設置し、胸元のペンダントを握りしめる。
「――――あまねく星より導きて 道を照らさん。
聖なる宿り 我らを守り癒したまえ。
聖結界現出」
媒体にした水晶が輝きを放ち、柔らかな光が土壁内を隙間なく覆う。
エチルスは結界の状況を観察し、問題なく起動したこと、しばらく維持できることを確信する。
外から少年の叫びが聞こえた。
背筋に冷たいものが走る。
隙間に縋り、外の様子を伺う。
先程までと戦況は変わらないように思えた。
――否、魔獣たちの苛烈な攻撃の波が銀髪の少年へと集中し始めていた。




