15話 異変
ビーの頭は残りの残数でいかに敵を叩けるか、必死に計算していた。
しかし、結論は出ている。
圧倒的に足りない――
奥歯を噛み締める。
「……嫌な策だ」
「考えてることはわかってる」
シャイナの燃えるような瞳が、魔獣たちに向けられていた。
獲物の防御壁を破らんと、蠢いている。
その右手に握られた短剣が呼応するように、刀身に炎をまとわせ、ゴゥと唸った。
金の髪と赤いスカーフがはためく。
シャイナの炎は尽きない。
黄金銃の弾数は消える。
ビーは爪が食い込むほど、拳を握りしめた。
迷いを断ち切るように、シャイナは告げる。
「行く」
そういうが早いか、シャイナは急斜面を滑落するように駆けた。
魔獣の群れに突っ込む直前、シャイナの闘気に応じるように短剣の炎が吠えるように大きく燃え上がる。
「一掃しろ!」
低い叫びとともに、落下速度の全てを乗せた一撃を叩き込む。
ドウッ!と重低音が響き、赤黄の猛火が壁際に固まっていた魔獣たちを圧殺した。
シャイナは野生動物のようなしなやかなバネで空中に身を踊らせると、縦回転の勢いのままもう一撃力強く打ち込んだ。
流れるように、低い姿勢から炎の剣と化した刃を一気に斬りあげる。
魔獣の体に走った軌跡は炎を纏い、傷の内側から焼き尽くしていく。
結末を見ることなく、シャイナの獲物を射抜くような視線は次の標的へと移る。
その無防備な背中へ、獣型の魔獣の牙をむいた。
――瞬間、その頭を蒼金の眩い雷撃が撃ち抜いた。
黄金銃を構えたビーも斜面を蹴り、宙を舞っていた。
落下重力を乗せた鋭い両蹴りが、巨体の頭部にめり込んだ。
巨体が崩れ落ちる瞬間、膝を沈めて、そこからもう一度跳躍する。
後転しながらシャイナの死角へ回ろうとした魔獣を確実に撃ち抜く。
着地し、シャイナの広い背中にぶつかる。
その熱に頼もしさを感じながら、ビーは短く息を吐く。
だが、魔獣たちの視線がやけに絡みつく。
四方八方から、唸り声や悍ましい奇声。
ドクリ、と心臓が跳ね、手足が急に冷えたような気がした。
「右」
シャイナの低いつぶやきに、ビーは小さく頷きながら、銃に球を込めた。
「わかった」
シャイナが左から迫り来る魔獣たちを炎の剣で横一閃に薙ぎ払っていくのと同時に、ビーは右から突進してくる魔獣の眉間目掛けて引き金を引いた。
「雷槍弾!」
撃ち出された弾丸は形状を変え、魔獣の額を寸分違わず穿つ。
――残弾あと二十。
その間に群れから一飛びに詰め寄せる魔獣を、シャイナが正面から斬り伏せた。
――が、その後ろにもう一体狼型の魔獣が飛び出してくる。
シャイナに迫るかと思われたその影は、不自然に軌道を変え、ビーの背中へ向かった。
「――っ! させるかっ!」
シャイナが鋭く重心を移動させ、振り向きざまにその魔獣の背を切り裂く。
だが、それによってガラ空きになったシャイナの背に向けて、手足の長い魔獣が数匹襲いかかった。
「シャイナっ!」
ビーは咄嗟に照準を合わせる。
しかし、魔獣たちの軌道に猛烈な違和感を覚えた。
――違う!?
それらはシャイナを無視し、ビーへ向けて牙を剥いていた。
「雷槍弾!!」
迷わず引き金を連射し、三体撃ち落とす。
正面のシャイナの目が見開かれていた。
「後ろっ!」
シャイナの大きな手がビーの腕を掴んで、自分の方へ力づくで引き寄せる。
ビーが今立っていた場所に、魔獣が雪崩れ込んでくる。
――おかしい。なんでだっ!?――
魔獣の狙いがビーに定められていた。
まるで最初から、自分だけを探していたように。




