14話 開戦
魔獣自体は相対したことがある。
一体。
多くても十数体。
その形態はさまざまだ。
狼に蜘蛛の目を持つもの、熊のような巨体に長い爪や牙がついているもの、手のひらサイズの蝶で群れて人を襲うものなど。
シャイナとであれば十分対処可能だった。
しかし、今回は状況が異なる。
この数に一気に攻められた場合、単純な一撃が致命傷になる。
立て直すことは不可能に近い。
頭の中で残弾の計算が始まる。
出し惜しみはできない。
使えるものは全て使う――。
周囲に鋭く視線を投げながら、カバンから魔術球を取る。
自分とシャイナなら、あるいはなんとかなるかもしれないと淡い期待はある。
が、今日は勝手が違う。
マーがいる。
彼を先に守らねば、おそらく――。
いつもの動作が鈍く感じる。
吐いた息が震える。
シャイナの太陽色の髪が少し逆立って見える。
些細な動きも見逃さない、その眼光。
その圧で魔獣の動きを押し留めていた。
それもいつまで持つか。
幸い後ろは開けている。
端まで数十メートル。
魔獣の群れまで、前四、五メートル。
嫌な臭いが鼻をつく。
荒い息遣いが空間を圧迫する。
黒い熱気が今にも襲ってきそうだった。
魔獣を睨んだまま、ビーは声をかける。
努めて冷静に、怯えを声に乗せない。
「マー、結界は張れるか」
「……あ、え、ははい、できます!」
「攻撃魔術は?」
「いくつか……ただ時間が要ります」
「わかった。結界を張る準備だけしといてくれ」
シャイナが掠れた声で呼びかける。
「ビー」
「あぁ」
大地を踏み締める音がギリリとなった。
ビーは手元の感覚だけで、銃の球を入れ替えた。
「走れ。全力で。振り返るな」
シャイナがエチルスの腕を引く。
銃口を構える。
眼を閉じると同時に、引き金を引いた。
「閃光!!」
あたり一面、目を潰さんほどの閃光が魔獣たちの網膜を突き刺した。
あちこちから地の底から這い出てくるような雄叫びが上がる。
先行する二人の背中を追って、ビーの足はすでに大地を駆けていた。
「壁際まで走り抜けっ!!」
前を行く二人の背中に鋭く言葉を叩き込む。
これだけの数だ、足止めできないやつも出てくる。
案の定、光を割っていくつかの塊が這い出てくる。
右に六、と四。
左に五、中央三とその奥にニ。
「――ちっ」
ビーはバックステップを刻みながら、構える。
一番近いのを先に――
「神雷撃!!」
轟音。
二筋の蒼金の眩い刃が突き立てられた。
中央突破してきた数体の魔獣が、一瞬にして黒く焦げた塊となる。
残二発。
「ビー! 着くぞ!」
「わかった! 神雷撃!」
ゼロ。
右からの一塊を同様に撃ち抜く。
大きな黒いうねりが後ろで一斉に動き始めていた。
走りながら球を補充。
二人が壁に行き着く。
ビーは振り返り、地面を蹴りながら、足元を撃つ。
「立ち上がり、守れ! 土防壁!!」
三度、銃が咆哮を上げる。
高い柱のような土の壁が、一瞬にしてビーたちを取り囲むように出現する。
「マー、ここに結界を張れ。しばらく持つ」
「は、はい!」
獣の咆哮や不気味な声と共に土壁が大きく揺れる。
魔獣たちがすでに到達し始めていた。
「行くぞ、シャイナ」
「あぁ」
二人は壁を何度か蹴り上げ、土壁の上に登る。
眼下には漆黒の波の本流が、押し寄せていた。




