第12話 目的地へ
翌朝。
ビーはいつものように目が覚めた。
周囲には朝靄が立ち込めている。
昨晩は食事をして、少し話をして、シャイナに促されるままに木の幹を背に座ったまま眠ってしまった。
珍しく夜中も起きることなく、そのまま寝ていたようだ。
動こうとして、すぐ隣に誰かいることに気がつく。
シャイナだ。
こちらにもたれかかったまま、ぐっすり眠っているらしかった。
互いに寄り添うような形になっていて、身動きすれば、必然的に彼も起こしてしまう。
消えた焚火の向こう側には、マーが毛布にくるまって眠っていた。
ビーはそのまま周囲を観察する。
木々の合間から朝日がこぼれ落ち、鳥のさえずりが耳に届く。
枝に干しておいた服が、風にはためく。
隣が小さく身じろぎした。
「……ん、起きてる?」
「あぁ」
「相変わらず、はや」
「まだ寝てていい」
そう言って立ちあがろうとしたら、手を掴まれた。
あくびをしながら、寝ぼけ眼のシャイナがつぶやく。
「寒い」
「子どもか」
「寝れたか?」
「それなりに」
「そっか」
シャイナは肩を下ろす。
ビーはシャイナが安堵したのを知った。
二人で座って会話していると、マーの毛布がゴソゴソと動く。
「……お二人とも、早いですね」
「……」
「……」
ビーは素早く視線を逸らす。
シャイナは咄嗟に口元を押さえる。
昨日濡れたまま寝たせいか、マーの寝癖がすごいことになっていた。
ふわりとした髪は四方八方へ向けて飛び出し、芸術品の如く主張している。
昨日出会った綺麗な落ち着いた大人の男性像は見る影もなかった。
ビーもシャイナも毛布に顔を突っ込んで、肩を振るわせ、耐えた。
マーは寝ぼけたまま、首を傾げた。
「?」
身支度を済ませ、荷物を片付ける。
濡れたものもある程度は乾いており、上着もからりとしていた。
マーは昨日と同じように、スープと簡単な朝食の準備をしている(髪は整えた)。
ビーとシャイナは、行く道や方向を改めて確認し、軽く体も動かす。
ビーは銃の調整も怠らない。
食事に舌鼓を打っていると、昨日の猫も舞い戻って来た。
三人は鉱山を目指し、歩みを進める。
野営した場所から、約半日。
途中休憩や軽食をとりながら進む。
そうしているうちに三人は森がひらけた、見通しの良い場所にでた。
正面には、ゴツゴツした岩のような山が見える。
「あの山か……」
ビーが祖父から聞いた高山の特徴を思い出す。
高く緑に覆われた山々の中に、一つだけ木々がほぼ生えていない、岩肌が露出した低くめの山がある。
それが目的地である、魔石が採掘できる鉱山。
ビーは向こうに見える鉱山を望み見て、ほっと息をついた。
「ちゃんとあったな」
「それ、じいちゃん疑ってた?」
隣を歩いているシャイナが苦笑する。
「当たり前だ、あのジジイだぞ。
『あれ間違えたかのう、てへぺろ』で済まされる可能性がある」
「ありえそ」
「その場合は、てへぺろじゃ済まさない」
「ちゃんとあったからいいじゃん」
後ろから来ていたマーも頷いた。
「そうですね、あの山だと思います」
目的地が見えると、自然と足が軽くなった。
早朝に出立できたおかげで、想定より早く着いている。
マーの不運もいくつかあったが、警戒していた時よりマシなものばかりだった。
彼にとって、転倒する、荷物を落とす、は日常茶飯事のようで、至って平然と対処していた。
枯葉道を這う木の根の上を選んで飛びながら、シャイナがぽつりと漏らす。
「……なんか、変な気がする」
「変か?」
「空気がまた変わった? ……変わってきてる気がする。
うまく言えねぇけど、少し重い?
いや、変化ないかも。わかんねぇ」
「村にいる時とは違う気がする、くらいだな」
二人して首を捻る。
マーはそんな二人の様子に、空を仰ぎ、鉱山を見据えた。
「お二人は感受性が高いですね。確かに魔石の採れる鉱山なので、大地が持つ魔力の質が高いのかもしれません」
先を促すように、黒猫がひと鳴きする。
普段と違う場所だからか、ビーは無意識に左手を銃へと伸ばし、その存在を確かめてから、再び進み始めた。
祖父の話通りに進み、山の麓に着く。
そこから山道を少し逸れて獣道へと分け入り、程なく鉱山の奥へ続く洞窟が見つかった。
それなりに広い洞窟で、奥深く続いている。
明かりがなければ入るのは躊躇われた。
シャイナが外側から洞窟内を覗きながら呟く。
「うわ、ちょっとこわいな」
「さすがにこのままじゃ進めないな」
ビーとマーがカバンから、簡易ランプを取り出す。
「マー、それ貸してくれ」
「はい」
ビーはランプを受け取り、地面に置いた。
カバンから黄色味を帯びたビー球を二つ手に取り、軽くランプに打ち付けながら唱える。
「灯火よ」
手のひらの中でビー球が光を放つ。
それぞれランプの中に収めた。
「じゃあ、入るぞ」
「おう」
「行きましょう」
ランプの灯りが洞窟奥へ吸い込まれていく。
三人は闇に踏み込んでいった。




