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第11話 野営

焚き火の炎が小さく爆ぜる。

気がつけば夜が近くに来ていた。

荷物や服を乾かしながら、みな毛布をかぶって暖を取っている。



水から上がった後、それぞれ荷物を確認した。


濡れているものとそうでないものを選別し、着られるものを着る。


ビーは、衣服と毛布以外全滅。

シャイナは、替えのズボンは多少濡れたものの無事だった。

カバンの構造が功を奏したようだ。

もともと持っている荷物自体が少ない。


マーはというと、


「全滅です」


――やっぱり――と二人は思わざるを得なかった。


ビーの衣服類が無事だったのは、水を通さない袋に入れておくという祖父の入れ知恵のおかげだった。

濡れても問題ないものも多かったが、ビーにとって致命的なものがあった。

思わず声が漏れる。


「本……」

「ん、本濡れたか?」


シャイナが気がついて、ビーの背中に声をかける。

ビーは濡れた本を手に取り、ページをめくったり、中身の濡れ具合を確認していた。


「……帰ったら乾かせる」


そう言って、ビーは自分を慰めた。

シャイナが髪を拭きながら、頭をぽんぽんと軽く叩く。


マーにはビーが毛布を貸し、それぞれ着替えて冒頭に至る。



各自荷物の水を拭いたり、使えるものを分けるなりしているうちに、すっかりあたりは暗くなっていた。


マーが焚き火のそばで、何かを容器に入れてかき混ぜている。

空腹を刺激する、いい匂いが漂う。

匂いに釣られて、二人が焚き火近くにやってくる。

その様子に、マーは優しく笑った。


「先ほどダメになってしまった食料と、調味料を足して、スープにしてみました。

お口に合うといいですけど」

「めっちゃ、いい匂いする」


シャイナが思わず身を乗り出す。

マーは器用にタオルで小さなカップを包むと、どうぞと言って渡してくれる。

湯気立ち上るカップの中には保存食の肉と干し野菜が入っていて、乳白色のスープにつかっている。

手のひらに伝わる暖かさは、冷えた手に吸い込まれるように染み込んだ。


「……」

「……」


二人は顔を見合わせてから、スープを口にする。


「!!」

「うまっ!」


シャイナが思わず声を上げた。

ビーは黙ってすでに二口目に入っている。


「この材料で、この味って、エチルス料理めちゃくちゃすごいじゃん」

「材料と調味料がうまく揃ったんですよ」

「それだけじゃないと思うけど、ほんとおいしい!」


二人の反応をみて、ふふ、とマーは笑った。


「ありがとうございます」


二人が会話している間に、ビーはコップを仰ぐ。

仰ぎ切ると、ふはっと息を吐く。

冷えた体が少し軽くなったように感じた。


コップをマーに戻しながら言う。


「うまかった」

「え、もう食べた?」


隣のシャイナが驚いている。


「まだ食べます? 少し時間もらえれば作れますよ」


ビーは黙って頷いた。

シャイナも勢いよく手を挙げる。


「はい、オレも食べる!」

「じゃあ、合わせて作っちゃいますね」


その間、ビーは銃の整備を行った。

分解して中に入った水分を拭き取り、組み立て、動作確認を素早く済ませる。


シャイナはマーの調理の手際を眺めたり、話しかけたりしていた。


二度目のスープを平らげると、温まった体に疲労と睡魔がやってくる。

寝るか、とビーが思っていたところに、シャイナの忠告が入った。


「あ、ビー。その髪のまま寝るなよ」

「ちゃんと拭いた」

「拭いただけだろ、ぼさぼさじゃん。ほら、ここ座って」

「ん」


ビーは大人しく指定された場所に腰を下ろした。

シャイナは慣れた手つきでビーの髪を手櫛で整えていく。

時折まだ湿っている部分にタオルをそっと当て、残った水分を拭き取る。


マーはその様子を黙って観察していた。


いつもの感覚に安心したようにビーは目を閉じる。

すかさずシャイナの声が降ってくる。


「まだ寝るなよ」

「……寝てないだろ」

「その間が寝かけてんの」

「……そうか、よくわかるな」

 

ビーはゆっくりとまばたきを繰り返す。


「もうちょっとで終わるから」

「……ん」


ビーが意識を手放しかけたころ、聞き慣れた声がぼんやりと耳に届く。


「ほら、終わった。寝るならこっち」

「……ん」


シャイナに促され、ビーは大きな木の幹に背中を預ける。

かけられた毛布にくるまった。

おぼろげながら、二人の会話が耳に入る。


「オレらも寝ようか」

「ええ、そうですね」


隣に座り込む慣れた気配を感じながら、ビーの意識は深く眠りついた。



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