第10話 不運属性
一緒に山道を歩いていると、 マーが濡れた木の葉で滑って尻もちをつく。
ビーが手を差し出した。
「大丈夫か?」
「すみません」
次に、岩と土が積み重なった急な登り道で。
マーが足をかけた部分の土が落ちる。
「うわぁ!」
シャイナがとっさにその腕を掴む。
「あぶね」
「……ふう、ありがとうございます」
ビーはマーを見た後、
「お前、よく落ちるな」
「そうですかね」
また、座って小休憩中のこと。
上から不意に大きめの枝がバサリッと、落ちてきてマーに直撃する。
膝で撫でられていた猫もびっくりして飛び退いた。
「エチルス!?」
「マー!?」
二人が慌てて枝を退ける。
「ふう。直撃ではなかったのですが、葉っぱが大量につきましたね」
マーは頭を振って、冷静に手で残った葉っぱを取りのぞいていく。
「……」
「……」
ビーとシャイナは顔を見合わせた。
二人の表情は微妙だ。
――この人、ほんとに大丈夫か――
「あいたっ」
エチルスが小さい悲鳴を上げ、猫がビーの方へ歩いてくる。
「どうした?」
「たぶん僕といてびっくりしちゃったので、お返しとばかりに手を引っ掻かれちゃいました」
「マジで」
シャイナが思わずつぶやく。
ビーとシャイナはマーの様子を視界にとらえるようにした。
バシャリと音がする。
マーの片足がぬかるみにはまっている。
「あ、濡れちゃいましたね」
マーは軽い口調で言う。
白いローブの左下部分が泥に染まった。
「シャイナ、道見とけ」
「りょーかい」
ビーとシャイナが細心の注意を払って進む。
「あ」
びりーっと小枝に引っかかったマントの一部が破れる。
「そっちか……。予測むずいな」
ビーは片手で額を抑える。
シャイナも苦笑する。
「どうやったら防げんだろ」
「すみません」
マーが申し訳なさそうに、謝る。
「いやエチルスのせいじゃない、はず?」
シャイナがビーに視線を投げる。
「そんな個人一人だけ不運続きとかあるか?」
ビーもシャイナを見返すが、思っていることは同じなような気がする。
――この人ならあり得そう――
引き続き警戒しつつ歩くが、ビーもシャイナも、もはや無理なのではと思いつつあった。
道は狭く、少し険しい。
すぐ横の下には大きめの川が流れている。
「マー、ここは手を」
ビーが「手を引く」と言おうとした直後、
「あれ」
濡れた岩に滑っている。
ビーとシャイナが咄嗟に手を伸ばし、マーを掴む。
三人に安堵のため息が漏れた。
ガラ、ガゴンッ!!
足元の岩場に亀裂が入る。
「まずっ!」
シャイナがマーを強く引く。
ビーは黄金銃を取り出す。
――落ちる!
ビーは素早くニ弾空撃ち直後、水面に構え迷わず銃口を引いた。
「風竜巻、連弾!」
三人の体を風が少しだけ押し上げ、落下速度を落とす。
バシャァァアアアアーン!!!
激しい水飛沫と音を巻き上げ、滝壺に落ちた。
「つべてっ」
幸い流れは激しくなかった。
シャイナは岩を登り、水から上がる。
ずしゃりと服が体に張り付いた。
髪をかきあげ、視界を確保する。
「シャイナ」
「おう」
ビーが隣で泳ぐマーの体を引き寄せる。
「マー、手を伸ばせ」
「はい」
マーはシャイナに手を伸ばす。
力強く、シャイナはその手をグッとつかみ引き上げる。
それを確認して、ビーも川岸へ上がった。
三人とも髪や服から鞄から、 全身びしょ濡れだ。
「……」
「……」
「……」
ぷっとシャイナが吹き出した。
「ありえねぇ、マジか」
「笑うな、バカ」
ビーも手の甲を口に当て、後ろを向いて肩を振るわせている。
あれだけ二人で注意していたのに、それを掻い潜ってくる不運など、もうどうしようもない。
乗っていた岩がピンポイントで崩れるなど、あり得ない。
マーは笑顔を浮かべてはいるものの、どうしようかと二人の様子を交互に確認していた。
ビーが一つ息をはいた。
「気を張るだけ無駄だな」
「そうだなー」
ひとしきり笑った二人は、マーに向き合った。
シャイナが笑顔でマーに伝える。
「行こう」
「まずは服と荷物をどうにかするぞ」
マーは目をしばたかせた。
そうして、濡れた髪を耳に掛け流し、アイスブルーの瞳を細める。
「はい」
その声にはうれしさが滲んでいた。
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