第9話 昼食
山道から逸れて、開けている木の下に陣取り、祖母がくれたお弁当を広げた。
「やった、うまそう!」
「わぁ、素敵ですね」
唐揚げ、鶏の照り焼き、魚の塩焼きなどのメイン料理があり、それに加えて卵焼き、野菜サラダ、調味料を和えた色鮮やかなおかず数種類。
ツナやハム、チーズとレタスとベーコンのサンドイッチまでも入っている。
また食べやすいように個別包装になっているおにぎりにも、具材や混ぜ込まれている味がいくつかあるようだ。
ビーが好んで食べるフルーツのデザートがきちんと付いているのも祖母らしかった。
「いただきまーす!」
「いただきます」
「お兄さんも食べなよ。あ、名前なんて呼んだらいい?」
シャイナはおにぎりを青年に手渡しながら、尋ねた。
その横でビーは懐いてくる猫に魚をほぐしてやっている。
「ありがたく頂戴します。
僕の名前はマー・エチルスです。
エチルスでも、マーとでも、どちらで呼んでいただいても構わないですよ」
「オレ、グック・シャイナ。シャイナでいーよ。
こっちはビー・ビー」
「シャイナ君とビー君ですね。 同い年ですか?」
唐揚げを頬張りつつ、シャイナは答える。
「よろしく、エチルス。 えーと、確かほぼ一緒。幼馴染。
うわ、これうまっ!」
「食べるかしゃべるか、どっちかにしろ」
ビーは、シャイナにお茶の入ったコップを渡しつつたしなめる。
ふと視線に気がついて顔を上げると、マーがこちらを見ていた。
「ビー君は綺麗な銀髪……目もそうですね。
あまりお見かけしないので、思わず見入ってしまいました」
お茶を飲んでいたシャイナが思わず咳き込む。
「大丈夫か」
「……ん、平気。ありがと」
ビーは手を止めて尋ねる。
「銀髪は珍しい……のか?」
「そうですね。一般的ではないイメージです。
でも珍しいというだけで、変なことではありませんよ」
マーはふわりと穏やかに笑った。
ビーは何故かその言葉に返事はできなかった。
「エチルスはどこに行く予定だったの?」
お茶をマーに渡しながら、シャイナは聞いた。
それを受けて、マーは軽くお辞儀をし両手で受け取りながら答える。
「この先、一日くらい行った先くらいですかね」
マーが視線を投げる。
ビーたちもその視線に誘われる。
「魔石が採れる鉱山があると聞きまして、その調査に」
ビーとシャイナが顔を見合わせ、再度エチルスの方を向く。
一拍置いて二人の声が揃う。
「逆だな」
「逆じゃね」
「……ええっ!?」
マーは慌てて革鞄から地図を取り出し広げる。
目線が地図の上を走った。
そして、観念したようにガックリと項垂れる。
「地図……間違えてました」
シャイナがたまらず吹き出した。
「え、そんなことある?」
「いやぁ……、お恥ずかしい。実は僕よくあるんですよ」
「よく!?」
あぁ本当に違う、とつぶやきながら、マーはしずしずと地図を鞄にしまった。
ビーはその所作を見つめる。
その頬はほんのり赤い。
汗も吹き出して、眉は下がっている。
自分たちよりも年上で大人だった彼は、先ほどよりも一回りも二回りも小さく見えた。
シャイナは笑いを抑えながら、
「ほんと偶然だけど、オレたちもこの先にある鉱山に行くんだ」
「そうなんですか?」
確認するようにビーが尋ねる。
「他に、この近くに同じような鉱山はないのか?」
「事前情報では一つでしたよ。
魔石が採れる鉱山自体珍しいですからね」
「じゃあ、間違いはなさそうだし、よかったら一緒に行こうよ。
エチルス、ほっといたらまた迷いそうだし。な」
そういって、シャイナは隣のビーに同意を求めた。
「……まぁ、いい」
「決定!」
ビーの横で猫がにゃあと鳴いた。
三人でお昼ご飯を綺麗に食べて片付けると、最初の手持ちの荷物が少し減った。
シャイナが自分の荷物量を見て、声をかけてくる。
「オレ弁当持ってたろ。軽くなったから他に重たいの貸して」
「あとはビー球予備」
「オレ持つ」
「ん」
ビーとシャイナが荷物交換し終えると、シャイナを先頭に、マーを挟んで歩き始める。
顔だけ少しこちらに向けて、マーが尋ねてくる。
「ビー君は魔術球……その、ビー球を扱えるんですか?」
「……少しは」
シャイナは呆れ気味に反応する。
「どこが少しだ」
「外の基準がわからん」
「まぁ、そっか。エチルスも使うの?」
「はい、僕は主に回復を」
「使えるのか?」
ビーが食い気味に聞く。
「ええ」
マーが首肯すると、すぐさまシャイナが感嘆の声を上げた。
「すごっ! オレ、回復使う人見たことないよ」
「そうなんですか。この辺りでは回復魔術を使える方が少ないのかもしれないですね」
「もし、機会があれば見せてもらえないか?」
ビーの真剣みを帯びた希望に、マーは少し言い淀んだ。
「……大丈夫ですよ。ただあまりそういう機会に遭わない方がいいとは思います。
誰かが傷つく前提になってしまうので」
穏やかな微笑みと変わらぬ声音ではあるものの、どこか影があった。
「そりゃそうだな」
「悪い、不謹慎だった」
「いえ、その探究心はとても素敵です。
回復魔術も傷を治すだけではないので、お望みのものとは違うかもしれませんが、お見せできると思いますよ」
「その時は頼む」
「ええ」
マーは大きく頷いた。
「ちなみに魔術理論はもう知ってらっしゃるのですか?」
「本で少し。実践もしてみたけど、最後までいかない」
「最後までいかない?」
おうむ返しにマーが繰り返す。
ビーは左手を眺めた。
その目は遠くを見ているようだ。
「……途中で消える」
「他は使えるのにな」
シャイナがさりげなくフォローする。
うーんとエチルスは唸るが、すぐに切り替える。
「何か足りない部分があるのかもしれないですね。もしお力になれるようなら、お手伝いさせていただきます」
「助かる」
「珍しく素直じゃん」
「うるさい」




