Ⅴ あの日
--------------------
2023年10月13日
学園祭2日目
今日は遥と一緒に回る
もちろん、付き合ってることがバレないようにいつものスキンシップは抑える
「颯、お待たせ。クラスのシフトが長引いちゃった。」
「待ってないよ、寧ろもっと待ってたってよかった。」
「あ、アタシのマネしてる!」
「行こう、今日は仲のいい友達同士のフリをしないとね。」
「はぁい。」
すねた遥もかわいい
「でも、我慢できなくなっちゃうかも。」
「どうしても我慢できなかったら言ってよ。誰にも見つからない場所があるからさ。」
「分かった!」
お昼過ぎ、遥のシフトが終わった後からはずっと一緒にいた
暫く一緒にいて、遥は途中からあからさまに我慢をしている
不機嫌そうな顔
少し顔も赤いか
「遥。」
「んー、何?」
ちょっと怒ってる
それもかわいい
「もう我慢できない?」
「うん。」
「分かった、じゃあこっち来て。」
僕は遥を連れて、見つけておいた隠れスポットへと案内した
「ここなら誰も来ないよ。」
「、、、うん、颯、好き。」
唇を重ねる
「遥、遥。」
僕も我慢していたのか、止まらない
長いような短いような、そんな時間
遥が僕のズボンに手を掛けた
「遥、ここではキスまで。このまま一緒に帰ろうか。」
「うん。」
遥を連れ家に帰る。
遥は日曜日まで僕の家に泊まり、一緒に料理もした
何もかもが幸せだった
--------------------
2023年10月16日
学園祭の様相もすっかりなくなり、いつも通りの学校
1日授業を受け、残って課題を片付けた放課後
帰ろうと廊下に出た瞬間、2つ隣のクラスから何やら口論のような声が聞こえてきた
「遥のクラスからだ。」
嫌な予感がした
虫の知らせというのか
恐る恐る教室をのぞくと、遥とクラスメイトが言い争っていた
僕は少し迷った
ここで彼女を助けに出ていったら、僕たちの関係が露見するのではないか
しかし、教室から聞こえた次の言葉に戦慄した
「お前が学祭の時キスしてたのバラすぞ」
僕は気付けばその教室に入り、遥とクラスメイトの間に割って入っていた
男は僕の顔を見て
「あ、お前だよな。高梨とキスしてたの。」
僕は震えた
遥に攻撃的な態度をとるこの男への怒り
遥との関係が露見してしまった恐怖
どちらもあるのだろう
「ち、違う、あ、あれは、、、」
僕は反論しようと試みるが、声が震えて上手く言葉が出ない
「校則違反なんだよ、知ってた?」
「あーどうしよっかなー先生にチクっちゃおうかなー」
反論できない
それもそう、悪いのは僕たちだ
後ろで遥が泣いている声が聞こえる
小さな声で
「、、、颯、、、、、」
僕には選択肢が無かった
「この、このことは言わないで欲しい、、、何でもする。僕は何でもする。だから遥をこれ以上、攻撃しないで欲しい、、、」
敗北宣言
しかし、全てを相手に委ねたのは悪手だった
「じゃあさ、今ここで高梨と別れろ。高梨は俺も気になってたんだよな。」
死刑宣告
その要求は到底受け入れられなかった
「できないなら、チクる。お前らは停学、下手したら退学かもな。学校であんなことしてさ。」
次の瞬間、僕の両腕は目の前の男の胸ぐらを掴んでいた
「じゃあ、チクれないようにしてやろうか?」
怒りに震えた声
「テメエに遥はやらねえよ。二度と喋れねえようにしてやる。」
そのまま彼を壁に押し付けた。
悪辣な男は、まだ余裕だった
「学校内でキスした上に暴力ですか。横暴だねえ! いいか、一発でも殴ってみろ。高梨との関係も暴力もチクる。テメエは退学だぞ!」
「んうわあああああああああ!!!!!!!!!!!!」
俺はどうなってもいい
遥だけは
遥だけは守らないと
拳を振り上げたその時
「颯くん!!!」
右腕を誰かが掴み、次の行動へは移せなかった。
「智也、くん、、」
相馬智也、僕のクラスの委員長である
「颯くん、もう、やめてくれ。」
僕はその場に崩れ落ちた
涙が止まらない
遥は僕の元に駆け寄っていた
遥の邪悪なクラスメイトの名前は塚田 研吾というらしい。
どうやら彼もまたクラスの女子生徒と交際をしており、それがバレそうになったところで僕たちのあの姿を目撃
ヘイトを僕たちに向け、自分は助かろうとしていたようだ
智也くんは、それを知っていた
知っていたから、僕たちのことを口外しない交渉材料にしたのだった
智也くんの交渉はこうだった
塚田は僕と遥の関係を口外しない。口外した場合、塚田と彼女の関係も智也くんが同時に公開する、とのこと。
なんだ、結局自分の為か。学校の規則を本心からお題目にしてくれてた方がまだマシだった
「智也くん、ありがとう。」
「君たちの件は、誰にも言わない。俺が塚田の鎖になるから。だから安心していい。でも、学校内でキス、、、とか、そういうのはもうしないで。それは約束してほしい。本心を言えば、君たちも卒業までは一度離れてくれれば安心なんだが、まあ、バレないようにできるなら、俺は何も言わない」
「分かった。」
「さあ、帰ろう。」
僕は遥を連れて家に帰った
「颯、一緒にいたい。」
遥はそう言った。
遥を自宅へと連れて帰り、2人で泣いた。
--------------------
次の日から3日も学校休んだ。
2人でひたすら泣いた。
さんざん泣いた後、僕は遥に告げる
「遥、別れよう。」
「え、、。?なんで?相馬くんが解決してくれたのに?」
「このまま付き合っていたら、また誰かにバレるかもしれない。僕は、智也くんの言う通りだと思う。一度離れた方が良い。」
「なんで?嫌だ!!別れたくない!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。嘘って言ってよ、、、嘘だって、、、」
遥も本当はわかっている
別れた方が、同じことは繰り返さない
僕の嘘嫌いも知ってる
暫くして
「颯、アタシのこと嫌い?」
「好きだよ。でも、もう一緒にはいられない。分かってよ、遥。」
「嫌だ。嫌だよ、、、、颯、、、、、」
その日は遥をなだめ続けて、朝を迎えた。
「遥、家まで送る。」
「、、、嫌だ、帰りたくない。颯と一緒にいる。」
「ダメだ。帰ろう。」
「うーん、、、グスッ」
僕は泣きじゃくる遥を家まで送り届けた
そのまま学校へ行き、授業を受ける
遥は、来ていない
一週間が過ぎても
二週間が過ぎても
三週間が過ぎても
遥は来なかった
毎日クラスの前に行っては、遥がいないと分かると戻っていた
家にも行った
「ごめんね、あの子会いたくないってきかなくて、、、」
「ケンカでもしちゃった?」
「はい、そんな感じです、、、」
僕は力なく家に帰った
--------------------
あの事件から1か月後
ようやく遥が学校に登校した
以前と変わらない、明るい、明るく振舞っている
僕は様子を見に遥のクラスへ向かった
でも入ることはできなかった
教室の前に立っていると、後ろから声を掛けられた
「高梨さん、学校に来てよかったですね。」
声の主へ振り返った
確か、桜庭結衣さんだったか。
「ずっと見に来てましたよね、高梨さんがいないと分かると、寂しそうに戻って行ってて。」
「この学校では付き合うのダメですけど、卒業したら、一緒になれると良いですね。」
そういって教室へ入って行った。
卒業したら
本当にそうなれるのだろうか
また遥と付き合う資格が僕にあるのだろうか
--------------------
放課後、遥は教室に残っていた。
示し合わせたわけでもなく、僕は遥の教室に入った。
「遥。」
「どしたの?颯。」
「あの、ごめん。」
「良いんだよ。規則だもんね。でも、アタシ、卒業してからまた颯と、とは考えられないかな。」
そうだよな
あんな別れ方をして
傷ついてないはずがない
僕のことを嫌いになってても
文句は言えない
「そう、か。」
「あれから1ヵ月さ、泣きながら考えたんだよね。」
「アタシが我儘を言ったら颯が困っちゃう。でも、まだ颯を愛してる。」
「ずっとそんなことを考えてたらさ、何かいつの間にか吹っ切れた。」
「アタシ達を別れさせた奴は許せないけど、あの塚田ってやつ、あいつ結局交際バレして退学したらしいよ。いい気味だわ本当に。あとは、相馬、だっけ。アイツもむかつくけど、まあ規則だからね。仕方ない。颯と別れることになって悲しいし、今でも颯は好きだよ。でもさ、なんかそれもだんだん薄れていくんだろうな、って思っちゃった。」
「そうか。」
「だから颯さ、もし、もし万が一高校の間に誰かと付き合うことになったら、その時はちゃんとしてよね。アタシが浮かばれないから。」
「僕はもう、この学校では誰とも付き合わないよ。」
「そ、ならいいわ。卒業式の後もまだアタシの気持ちが残ってたら、その時はまた話に来るよ。でも多分、その時には残ってないかもしれないけどさ、、、」
見れば分かる。遥は強がってる。必死に自分を納得させている。
遥の事は分かる。こんな状態にした奴らが許せない気持ちを持ってるのも、分かる。
でも、今の僕には何もできない。
ただ、お互いを思い出として過去にしていくことしか、もう2人にできることはなかった。
--------------------
2025年8月11日
あの後のことは憶えている
次の日、智也に、遥と完全に別れたことを報告した
何故か智也は悲しそうな顔をしていた
「そうか、颯くん、いや、颯、お前は強いんだな。」
「別に、もうお互いに思い出になろう、って、そんな感じ。」
「そうか。これからどうするんだ?」
「少なくとも高校の間は誰とも付き合わない。規則だろ、智也?」
「そうだな。」
智也はまた悲しそうな顔をしていた
僕はもう僕と同じ思いをする人間を見たくはない
特に、助けてくれた智也
アイツに限っては無いとは思うが、もし智也に彼女ができて、それを知ることができたら、その時は、僕が守る
去る智也の背を見て、そう誓ったことを
よく憶えている
「遥、お前は智也を恨んでるだろうな。よくわかる。半年も付き合ってたんだ。」
枕のシミは、前よりも増えていた
第二章『あの日』、最後までお読みいただきありがとうございました。
神崎と高梨、二人の過去はいかがだったでしょうか。
次章では再び現在へ戻り、高梨の現在の心境、そして少しずつ疲弊していく神崎の姿が描かれます。
第三章『残響』、8月6日13時公開です。
引き続き、お付き合いいただけますと幸いです。




