Ⅲ 秒針
2025年9月19日
遥の動きがおかしい
夏休みが明け、2学期に入った
休み中は沈黙していた高梨遥が動きだした
毎日のように相馬を尾行し、行動を監視している
僕は週3日の桜庭さんの訪問に加え、遥にも目を配らなくてはならない
10月16,17日には学園祭が控えている
その様子を見ていた桜庭が神崎に語り掛ける
「大丈夫?」
「何が?」
「なんか、疲れてそうだから。」
疲れが表に出てたか?
「いや、大丈夫だよ。学園祭の準備も忙しくなってきたかな。」
「生徒会はもう大変でさ。何とか智也と、他のメンバーも協力して作業してるんだけど、予算申請が止まらなくてさ、、、」
「学園祭前だからそれは避けられないでしょ。人手が足りないの?」
「うーん、足りない。予算申請だけじゃなくて、各クラスの出し物の審査とか?部活の出し物の審査も。もうね、、、」
桜庭さんは僕の前で随分と弱い所を見せるようになった
流石に慣れはするか。
週3日、もう5か月も続けてるんだよな
遥はもっと高いペースで来てたけど
遥か
アレももう止まる気配がない
何とか智也と桜庭さんの2人を同時に相手できる方法はないだろうか
あぁ、生徒会か
「生徒会の仕事さ、良ければお手伝いいたしましょうか?」
「へ? 神崎くんが?」
「そう。去年、親しかった生徒会所属の先輩を手伝ってたし。」
「いいの!?」
食い気味
「あぁ、良いよ。週明けから行こうかな。」
「ありがどう~だずがる~」
余程困ってたらしい
生徒会室には相馬もいるし、僕が中にいれば遥も手を出しては来ないだろう
「あ、でも、月水金のこれはどうするの?」
「帰れないときは仕方ないよ。帰れる日だけにしよう。別に会うことには変わりないんだから。あ、でも、智也の前であんまり僕に馴れ馴れしくするなよ?」
「そうか、そうだよね。智也は私と神崎くんが喋ったことが無いと思ってるんだった。」
後々智也から探りを入れられたけどな
『副会長とは少し話す仲なんだって?』
『え、桜庭さんと?』
『そう。前に副会長に聞いたときに、同じクラスになったことはないけど、、、とか、何か誰かさんみたいにはぐらかされたからさ。』
『あぁ、まあ、話さなくはないかな。』
聞いてた話と違うぞ桜庭
もう面倒だからアドリブだ
自分らしくはないがそこにまでリソースを使ってられん
「でしょ。じゃあ上手くやってください。」
「上手くやってって、なんか神崎くんらしくないセリフ。」
妙に察しが良い女だ
誰に似たんだ
「じゃあ今日はここまでで、週明け、生徒会室で。」
「はーい、ばいばーい。」
『ばいばーい』か
随分馴れ馴れしくなったな
まあ、保険には好都合かな
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2025年9月22日
放課後、生徒会室
神崎颯が訪れる
「颯、ありがとな。副会長から聞いたよ、手伝ってくれるってさ。」
「あぁ、生徒会室が大変だと聞いてさ。僕は去年も手伝ったからやり方は分かる。とりあえず予算申請書を全部くれ。」
「おう。」
智也と神崎くんって、あんな感じで喋ってるんだ
うん、イメージ通りかな
智也はいつもの感じだし、神崎くんは相変わらず感情が読めない
「智也、終わった。」
「え、早くないか?」
「去年やってるし、こういうのは得意な方なんだよ。これって1日何件来るんだ?」
「分からん。手が付けられないうちに溜まってる。」
「お前なぁ、、、」
一般生徒って容赦ないんだよね、、、
助っ人の参戦に生徒会室の空気も明るくなる
そんな雰囲気の中、驚くほど和気あいあいと作業に没頭していた
ふと気になって、神崎くんと智也の話に聞き耳を立てる
「颯、なんか昔に少し戻ったか?」
昔の神崎くん、どんな感じだったんだろう
「何が。」
「なんか、雰囲気が、もっと覇気があった頃にさ。」
「そんなのは忘れた。智也がやかましいからじゃない?」
「懐かしいな。あの件が会って以来、颯は別人になったように感じた。」
あの件。高梨さんの件と関係あるのかな。
「あんまりその話はするな。聞き耳を立ててる奴がいるかもしれんぞ。」
すみませんでした。
「手を動かせ、手を。」
作業はいつもより1時間早く終わった。
皆それぞれ帰り始めたころ、神崎くんからメッセージが来た。
同じ部屋にいるんだけど?
『今日は帰って良い。というか、ここまで伸びる日は自己判断で帰って良い。』
了解しました
生徒会室を出ると、角に人影が見えた
私の知ってる人だった
近づいて声を掛ける
「高梨遥さん、だよね?」
物陰から顔を出す
「そうだけど、アンタは桜庭さん?」
「そう。1年の時同じクラスだったよね。ところで何をしてるのかな?」
「ちょっとこっちの部屋(倉庫)に用事。学祭の準備。」
「そっか。」
何か隠れてなかった?
「ところで、高梨さん、、、元気?」
「まあ、ぼちぼち。アンタは元気そうで何より。じゃあもう行くわ。」
高梨さんは去って行った。
「副会長。」
智也の声
「はいっ!」
「早く帰りなさい。」
「あぁ会長、どうもお気遣いありがとうございます。」
「うん。」
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~生徒会室~
相馬も帰った
そろそろ別件だな
生徒会室のドアを開け、顔を出す。
「いた。」
遥だ
「あ」
「遥、食堂。」
「はい。」
食堂に向かう道中はお互い沈黙だった。
2年近くまともに喋ってない。
食堂につき、座る。
「遥、久しぶり。」
「うん、久しぶり、颯。なんか、雰囲気変わったね。」
「そりゃ変わるさ。いつまでも子供のままじゃいられない。」
「子供か。あの時はお互い子供だったね。」
「あぁ。あんなバカップル丸出しでな。」
「ホントに。でも楽しかったなぁ。」
「僕も楽しかった。」
腐っても好き合った元恋人同士。遥はあの日々を思い出にできてるのかな。
「遥、智也を付け回すのは、やめてくれない?」
「なんで?」
遥の雰囲気が変わった。
「どうして?なんで?颯も分ってるんじゃないの?相馬と、あの副会長が付き合ってるかもしれないんだよ? アタシたちに講釈垂れて引き裂いたあの相馬が。」
「あぁ、ある程度知ってるよ。だからやめろと言ってるんだ。」
「憎くないの?悔しくないの?アタシたちは壊された。アイツの幸せは、壊さないと。」
「遥、遥!」
「、、、!」
「落ち着いてくれ。僕は壊す気はない。まだ何も言えないけど、少なくとも僕は壊したいと思ってない。」
「なんでよ、、、颯はアタシの味方じゃないの、、、?」
遥の声は少し震えている
「2年前だったら即答してたな。でも今は、答えられない。」
「優しいんだね、颯は。変わってない。」
「でも、答えてくれないならアタシは壊す。相馬が幸せになるなんて許せない。」
そう言って遥は立ち去って行った。
何て声を掛ければいいのか。
冷静に徹してても、遥は僕の事を分かってる。
「はぁ、、、疲れた」
自販機で買ったコーヒーを飲み干し、僕は帰った。
第三章『残響』、これにて終了です。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
過去を引きずる高梨、疲弊していく神崎。
それぞれの想いは、少しずつ学園祭へと向かい始めます。
次章では、それぞれが抱えてきた想いと過去が、少しずつ交わり始めます。
次回第四章『Ⅰ 疲弊』、8月12日13:00公開予定です。
引き続き、お付き合いいただけますと幸いです。




