俺の魔法は、特殊で特異なものらしいです。
「聞きたいのは、この腕の鎧のことだな?」
フーウェルが俺に近づき、鎧に触れる。
「はい。俺がこっちに召喚されてから使えるようになったんですけど──」
口に出して、思い出す。
そういえば、みんなにはまだ俺が異世界から呼ばれた事を教えてなかった。
「──召喚?もしかして、ロウは異世界から呼び出されたのですか?」
レインが俺に近づいてくる。
上司を思い出して、身体が震える。
「す、すいません!隠すつもりはなくて!」
つい、上司に言い訳する時と同じテンションで謝ってしまう。
「……?なぜ謝るのです?ロウは何も悪いことをしていないじゃないですか」
「……えっ?」
キョトンとした顔で、レインが俺を見る。
「むしろ納得がいきました。ロウは、本当に魔法が存在しない世界で生まれたのですね」
目を輝かせて、俺を見る。
予想外の反応に、身体が固まった。
後で詳しく教えてくださいねと、耳打ちされた。
「……となると、なおさら不思議です。なぜ魔法が無い世界の住人が魔法を使えるのか」
リエルが少し俯いて考え込む。
ジークはお手上げと言った感じで、そっぽを向いていた。
「──まず、お前さんが使っている魔法は、“錬鉄魔法”と呼ばれる魔法の一種だ」
フーウェルが指を鳴らして口を開く。
宙に氷の板が浮かび上がり、そこに図が表示される。
まるで、こっちで言うところのスクリーンのようだ。
「かつて、地属性魔法を派生させて金属加工に特化した魔法を修めた、マクリール家というのがいてな」
「錬鉄魔法はそのマクリール一族しか使えない、いわゆる血統魔法なのだ」
「鉄を錬成し、自在に武器や道具を生成する。既存の鉄製品を意のままに作り変える。それが錬鉄魔法の基本だ」
スクリーンに鉄のブロックと剣とピッケルが、粘土のように形を変える様子が映し出されている。
「……なるほど。俺が敵の剣を作り変えたのも、この魔法の一部だったのか」
装備を即座に揃えられるだけならまだしも、既製品まで作り替えられるとは、なかなかに無法な魔法だ。
「だが、もちろん弱点もある。まず錬鉄魔法は個人の才能に大きく依存する」
「天才が使えば神殺しすら達成し得る武器をも作れるが、凡人が使ってもナマクラしか作れない」
ピカピカの剣と、ボロボロの剣が映る。
「あー……製品として売るなら大問題だな。それじゃ信頼性が低すぎる」
仕事だったらなおさらだ。
誰でも同じものが使えるようにしないと。
「それと、大物や複雑な機構の生成や変形には膨大な時間と魔力を消費する。例えばバリスタを作ろうとすれば、天才でも一基作るのに三〜四日はかかる」
「その場で即座に作れるのがこの魔法の強みなのに、これでは普通に作るのとさほど変わらん」
「確かに、平時はともかく戦の最中じゃ使いづらいな」
「そもそも、錬鉄魔法を扱える人がここまで限られていると、数を揃えるのは厳しいですね」
ジークとレインが口を開く。
国を守る立場として、だいぶ思うところがあるようだ。
フーウェルが指を二本、三本と立てていく。
「あとは……技術革新だな」
「製造技術が発展して、規格の統一と大量生産が可能になった。オーダーメイドも腕のいい職人が増えていた」
「そして運悪く、それらが達成された頃の当主には才能が無かった」
「時代の流れに取り残され、錬鉄魔法は廃れていったというわけだ」
指を畳むと、氷のスクリーンも消えた。
「本に記載されていないのも納得ですね……血統魔法というだけでも使い手が限られる上に、実用性も怪しいとなれば後世に残そうと考える方も少ないはずです」
レインがメガネに手を添え呟く。
「でもよ、それは坊主が魔法を使える理由にはならねえ。坊主はそのマクなんとかの一族じゃないだろ」
ジークが腕を組んだまま声を出す。
そうだ。
俺はただの日本人だし、この世界の生まれじゃない。
腕の鎧を眺める。
この力の正体は、なんなんだ。
「そこはあくまでわしの推測だが」
フーウェルが再び指を立てる。
「おそらく、初代錬鉄魔法使いの“マカ・マクリール”が絡んでいる」
「初代?さっきの口ぶりだと、既に亡くなってるんじゃ?」
思わず眉をひそめた。
死者が生者に干渉するなんて、いくら魔法でも可能なのか?
「ああ。彼女は既に死んでいる。五百年ほど前にな」
フーウェルが指をクルクルと回しながら答える。
「マカは魔法使いの中でも指折りの天才で、霊体化を修めていたとも言われている」
「霊体化!?禁術ではないですか!」
レインが突然大声を出す。
全員の視線がレインに集まる。
「あっ……すみません。つい」
レインがシュンと肩を縮める。
フーウェルがカラカラと笑った。
「良い良い。驚いて当然だからな」
「話を戻すが、その霊体化でマカの魂はこの世に留まった。そして、自分の一族が没落する様を見てしまった」
「マカはおそらく、一族の再興を望んだだろう」
フーウェルが俺を見る。
「そこに救世主の召喚という願ってもない機会が訪れた」
「救世主が錬鉄魔法を使って世界を救えば、一族の評価は覆される」
「そこで、召喚術に割り込んで救世主に自分の魂を同化させようと考えた」
「──その結果が、今のお前さんだ」
フーウェルが俺を指差す。
「一族の者ではないが、初代の魂を持つゆえに魔法が使える」
「それも初代の持っていた、並外れた量と質の魔力でな」
「これなら合点がいく。あくまで噂を前提にした、不確実すぎる推論だがな」
──フーウェルの推理を聞いても、俺にはピンと来なかった。
つまり、俺の中にその魔法使いがいるってことか?
「本当は、お前さんの中にいる本人に聞ければ早いのだが」
もう一度、俺の鎧に触れる。
反応を伺うように、軽く撫でる。
「やはり、今は寝ているようだ」
フーウェルが鎧から手を離す。
力を抜いて、鎧を解く。
「……俺に、そんな事情が」
理解が追いつかない。
俺は、その初代の思惑の駒なのか?
「何はともあれ、不明だった部分は分かりました。ありがとうございます、フーウェル」
「うむ。だが、もしもマカが目覚めた時はしっかり問い詰めておけよ。古い時代の魔法使いは大体ロクデナシだからな」
レインとフーウェルが手を振り合う。
フーウェルは水槽に戻り、俺たちは部屋を後にした。
「浮かない顔ですね、ロウ」
レインが俺の顔を覗き込む。
心配してくれているようだ。
「……まあ、な。色々聞いたせいで頭が混乱してる」
「自分がマカとかいう魔法使いの駒にされてるとか考えてそうだな、ロウ」
ジークが俺のそばに近づいてくる。
そのまま肩をバシバシと叩いた。
「そんなもん気にすんな。お前はお前のやりたいようにやればいい」
「いざとなったら、俺たちでマカを黙らせてやるからよ」
ニカッと笑う。
その笑顔に、元気を分けてもらえた。
「そう、だな」
俺のやることは変わらない。
「ここを守るために、この魔法を使わせてもらおう」
「いつものロウらしくなりましたね。先ほどよりも、良い顔です」
リエルが俺の表情を見て微笑む。
「それじゃ、明日からは鍛錬だな!黒騎士名乗るからには戦闘術は学んでおかないと、格好もつかないしな!」
「私が座学を教えます。魔法の知識を深めれば、きっとできることが増えるはずです」
ジークとリエルが張り切った顔で俺を見る。
明日から、忙しくなりそうだ。
──不思議と、悪い気はしなかった。




