表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
6/28

どうやら、俺の魔法は普通じゃないようです

「なんだぁその格好は!?」


城門の内側、医療区画で再会したジークの第一声が、これだった。


「正直俺も聞きたいくらいだよ!必死に戦ってたらこうなったんだから!」


黒鉄色の鎧。

俺の手に馴染むよう、形を変えた敵の剣。

黒い奔流として飛んだ斬撃。

直後に崩れた剣。


これが、テオドリックが俺に言っていた“スキル”というものだろうか。


「……まあいいか。とにかく、よく生き延びた。それにたくさんの仲間を助けてくれた」


ジークが俺の肩を叩く。


「“黒騎士”の異名は、伊達じゃなかったな!」


気持ちのいい笑顔。


……黒騎士になったの、今日が初めてなんだが。


「ロウ!ジーク!無事でしたか!?」


レインとリエルが駆け寄ってくる。

二人の顔を見て、嬉しさが込み上げてきた。


この街を、この国を守れた。

ようやく、その実感が湧いてきた。


「……って、ロウ!?どうしたんですかその格好!?」


レインが今まで聞いたことのない声を上げる。

リエルの方は、俺を見て目を丸くしている。


「おう!ほとんどの兵士は帰ってきたぜ!この黒騎士ロウのおかげでな!」


ジークが背中をバンバン叩く。

鎧越しなのに力が伝わってくる。


「ありがとうございます、ロウ。あなたのおかげで、多くの命が救われました」


リエルが俺の手を取り、感謝を伝える。

俺は兜を解いて、彼女の目を見る。


「俺は、俺にできることをしただけです。こんなことまで出来るとは、思いませんでしたが……」


全身の鎧が砕けるように崩れて消える。

同時に、膝から力が抜けていった。


「ロウ!?」

「坊主!?」


三人の声が遠くから聞こえる。

そのまま倒れ、眠るように意識が飛んだ。


目が覚めると、前にも見た天井が広がっていた。


「起きたか、ロウ。急に倒れるから心配したぞ」


ジークがベッドのそばに立って、俺を見ていた。

隣にはレインもいる。

心配そうに、お椀を持っていた。


「怪我もありましたが、それ以上に魔力を一気に消費したのが倒れた原因のようでした」


レインが屈み、お椀の中を見せる。

薬草をすり潰したと思しき緑の粉が、袋に小分けにされていた。


「この薬を飲めば、魔力の回復速度が増します。魔力が回復すれば、傷の治りも早くなるでしょう」


「……苦そうだな」


見た目もそうだが、臭いもキツい。

薬品とは違う、漢方のような臭さ。

飲む前から顔をしかめたくなる。


「良薬口に苦し、ですよ。飲めば楽になりますから」


レインに手伝ってもらい、薬を全て一気に飲む。

十分ほど、苦味で呻くことになった。


翌日には、かなり身体が楽になった。


朝食のあと、リエルに会いに広間へ向かう。

扉を開けると、いつもの顔がそこにいた。


「おはようございます、ロウ」


「もう歩けるようになったか、さすがレインの薬だな」


「身体の調子はどうですか?副作用などはありませんでしたか?」


三人が俺を見て口を開く。

三人とも、どこかほっとした顔をしていた。


温かな空気が、俺を包んでくれた。


「おはようございます。見ての通り、元気です」


両手を広げ、笑顔で返す。

少しだけ痛みが走ったが、顔には出さない。


「よかった……改めて、皆を助けていただき、ありがとうございます。ロウ」


リエルが俺に歩み寄る。

俺もリエルたちの方に向かっていく。


「ジークや他の兵士たちから、あなたの活躍を聞きました。まるで、救世主のような大立ち回りだったと」


「救世主だなんて、そんな……」


恥ずかしさでつい目を逸らす。

役目を果たせそうにないと追い出された先で、まさか救世主と呼ばれるとは。


「いいや、立派すぎる働きだったぜ。自分の命だけじゃなく、仲間の命まで救ったんだ。みんなお前に感謝してるよ」


ジークが近づき、控えめに肩を叩く。

普段は力一杯やってくる印象だったが、こちらの容体を気遣ってくれたようだ。


「それで、あなたの使った魔法についてなんですが」


レインが俺を見る。


「ロウが寝ている間、診察と一緒に調べさせてもらいました」


「率直に言って、ロウの持つ魔力量は少なすぎます」

「まるで魔法が存在しない世界で生きてきたかのように、魔力の量も質も極端に低いのです」


「にも関わらず、あの強固な鎧を作り出し、騎士たちをまとめて吹き飛ばすほどの魔力の奔流を放った」


「──あの時、あなたの身に何があったんですか?」


真剣な瞳で、レインが問いかけてくる。


「……ごめん。俺にも分からないんだ」


嘘は言えない。

期待外れだと思われても、正直に向き合うのが誠意というものだろう。


「ただ、分かったこともある」


右腕に軽く力を込める。

少し遅れて、鎧が装着された。


「今まで分からなかった鎧の出し方が、昨日の戦いの後から掴めたんだ」


さらに目を閉じて、盾をイメージする。

もう一度右腕に力を込めると、鎧は円盾に形を変えた。


「それと、変形のさせ方も」


俺の技を見て、ジークがほうと声を出す。

リエルとレインは俺の腕を見て考え込んでいる。


「……そんな魔法、見たことありません」


俺の腕を見たまま、リエルが口を開く。


「私も、このような魔法は本で見た記憶がありません。これは一体……?」


レインもお手上げのようだ。

この場の誰も、俺の魔法のような何かの正体を知らなかった。


「──彼女に聞いてみましょうか」


リエルが顔を上げる。

扉の方に向かい、俺の手を取る。


「フーウェルのところに行きましょう。彼女なら、何か知っているかもしれません」


──案内されたのは、水と氷の部屋だった。

石材で作られた床材や柱が、上から氷で覆われている。

窓のあるべき場所には、水槽が嵌め込まれている。

かなり広く、深い。


「フーウェル、起きてますか?」


水槽に向けてリエルが声をかける。


「──起きておるよ」


水槽の上の方から、ゆっくり影が降りてきた。


イルカのように滑らかな肌。

黒い結膜に蒼い瞳。

腰の辺りにはベールのような薄く青い布。

手首の辺りには、着物の袖のようにヒレがたなびいている。

頭髪の代わりに、クジラの身体のようなものが後頭部から伸びていた。


「声が寝起きですよフーウェル。寝過ぎも身体に毒なんですからね」


水槽に近づき、指を立てて注意する。


「歳を取ると事あるごとに眠くなるんだ。多少は目を瞑って欲しいんだがの」


クジラのような魚人──フーウェルも、水槽のガラスに近づいて手をつく。


「ちょっと待っておれ。今そっちに行く」


言うや否や、水槽の上の方へ泳いでいく。

直後、氷の滑り台が天井から降りてきた。


そこを、アザラシのようにうつ伏せに滑り降りてくる。


「ほ──っと。さて、見ない顔もいるし、自己紹介が必要だな」


滑り台の終わり際で跳ね、足を揃えて着地する。


「わしはフーウェル。陽の世界の陸と海の全てを巡った、魚人族だ」


後頭部から伸びたクジラの尾のような部位を手前に流しながら、自己紹介する。

風呂上がりに髪を梳かす女性のような仕草。


「彼女は長い時を生き、多くの智慧を得てきた賢人です」


「陸と海、双方を制覇した唯一の魚人族でもあるんですよ」


氷の椅子をフーウェルの元へ滑らせながら、リエルが話す。


「うむ。そして友人のよしみとして、ここで相談役を請け負っておる。陽の世界もそろそろ飽きてきたからな」


「それで要件は──お前さんみたいだな」


椅子に座り、再び鎧を纏わせた俺の腕を見て、フーウェルが頷く。


不思議な雰囲気と、俺の秘密を知れるかもという期待。


背筋が、伸びた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ