俺は本当に黒騎士ロウだったようです
城壁の上へ出ると、ジークが忙しなく兵士たちに指示を出していた。
遠くには、こちらに迫ってくる軍隊が見えた。
「ジークさん!」
「あぁ!?さっきの坊主じゃねえか!なんでここにいる!」
ジークが俺を見て驚きの声を上げる。
「俺も戦います!できることは、少ないかもしれませんが……!」
覚悟は決めたつもりだった。
だが、どうしても声が震えて、小さくなる。
「──いや、人手は多い方がいい。覚悟と健康な身体があれば、ウチの兵団は誰でも歓迎だ!」
ジークが俺の肩を叩く。
俺の目をしっかり見据え、嬉しそうに口を開いた。
「これを持ってけ!正直気休め程度だが、無いよりはずっとマシだ!」
鳥人の兵士と同じ装備を一式渡される。
鎧の方は、紐である程度身体にフィットできる構造だ。
「装備を使わせてくれるんですか!?」
思わず声を出す。
陽の国では剣の一本も貸してくれなかった。
武器どころか、鎧まで渡されるとは。
「はあ?何言ってんだ!いくら黒騎士様でも丸腰じゃ戦えねえだろ!」
ジークの正論が刺さる。
その正論すら許してくれなかったのが、陽の国だったんだが。
ジークに教わりながら、鎧を着る。
思ったより重いが、動きやすい。
「いいか、一人で突っ込むな!周りの奴らとその盾で守りあえ!あとは槍で突くだけでいい!」
「陣形が崩れたら撤退しろ!後ろの奴が代わる!怪我をしたらすぐに門の中に退け!医療班が待機してる!」
俺を含めた兵士たちに、簡潔に戦い方を伝える。
そして最後。
「俺たちの仕事は“死ぬまで戦うこと”じゃない!」
「“生きて皆で明日を迎えること”だ!」
一際大きな声で、一番大事なことを伝える。
全員で城壁を降り、門の前で盾を構える。
遠くから、大地を踏み鳴らす轟音が聞こえる。
音が近づくたび、味方の間に緊張が走る。
盾を持つ手が震える。
槍を握る力が強くなる。
だが、誰も逃げようとはしなかった。
「来たぞ──!!」
城壁の上から声が上がる。
屈強な騎士たちが、一糸乱れぬ隊列を組んで進軍してくる。
最前列の騎士たちが、一斉に槍を構えた。
──来る。
盾で隠すように身体を丸める。
鎧の重量と、それを纏った騎士の突進。
二つの重みが、盾越しに叩きつけられる。
「ぐっ──がぁっ──!」
後ろの兵士たちのおかげで吹き飛ばされるのは免れた。
だが、かなり押し込まれた。
「突け──!!」
叫ぶような号令が響く。
可能な限り関節を狙って、槍を突く。
だが、いきなり上手くいくはずもなく。
槍は鎧に阻まれ、先端が欠けた。
騎士たちは意にも介さず、そのまま押し込んでくる。
それも下から、盾ごとかち上げるように。
──まずい。
誰もがそう感じた。
だが、遅かった。
「うわっ──!!」
最前列の俺たちが、下から持ち上げられて飛ばされる。
成す術なく、地面に叩きつけられる。
「がはっ──!」
衝撃で肺の空気が全部吐き出される。
背中の傷が痛む。
身体が、動かない。
周りの味方も呻き声を上げながら転がっている。
気を失ったのか、動かない者もいる。
金属の擦れる音がする。
後方に待機していた騎士たちが、俺たちを始末しようと剣を持って近づいてくる。
「──っ!やっべぇ……!!」
必死に呼吸して、肺から全身に酸素を送る。
どうにか身体を動かす。
転がりながら、どうにか盾は回収できた。
槍は柄の部分が折れた、もう使えない。
周りを見渡すと、既にトドメを刺された仲間が出始めていた。
もがく仲間の、心臓を一撃。
すぐに、動かなくなる。
──血の気が引く。
初めて、人が死ぬところを見た。
人を殺すところを見た。
簡単に、命が消える。
そんな現実を目の当たりにした。
「やめろ……!くるな……!」
味方の怯える声。
槍も盾も捨てて、丸腰で命乞いをしている。
その姿を見ても、騎士は迷わず剣を振り上げる。
「──っ!待ちやがれ──!」
無理やり身体を動かして、駆け出す。
全身が痛い。
だが、脚は絶対に止めない。
味方の前に立ち、盾を構える。
一撃は防いだが、盾を真っ二つにされた。
「うおおおお──っ!!」
盾を投げ捨て、殴りかかる。
必死に拳を叩き込む。
次の瞬間、金属同士がぶつかる激音がした。
反射的に、拳の方を見る。
腕に、黒鉄色の鎧が装着されていた。
騎士は脇腹を押さえて後ずさっている。
「──!?変わった!?」
今までは盾だったのが、今回は鎧。
どちらも身を守るために必要だが──
今は、鎧を優先した。
「はあああっ──!」
立て続けに殴り、蹴る。
その度に鎧が装着されていく。
右腕、両脚、胴体──
顔面を殴り飛ばすと、兜が装着された。
「あ、アンタ……一体……」
声の方を振り返る。
味方の兵士が俺を見ていた。
恐怖と驚き、困惑が混ざったような表情。
味方が助けに来たと思ったら、いきなり鎧を纏って敵を殴り倒したんだ。
そんな顔もする。
──俺も驚いている。
今までのあの頼りない円盾から、いきなり全身鎧。
ますます、この能力のことが分からなくなった。
騒ぎを聞きつけた他の騎士が取り囲むように寄ってくる。
「囲まれる!ここから離れるぞ!動けるか!」
味方に声をかける。
彼は無言で何度も頷き、ジタバタと城壁の方へ走り去った。
「──これ、借りるぞ」
倒した騎士から剣を取る。
重いが、重心のバランスが良くて振りやすい。
これは、良いモノだ。
「──ふっ!!」
脚に力を込めて跳ぶように駆け出す。
目指すはまだ無事な仲間の元。
自分でも驚くほど、速く走れた。
ルート上の敵を剣で叩く。
斬れなくてもいい、怯んでくれれば十分だ。
一人、また一人。
仲間を助けて逃す。
やがて城門の前まで到達した。
剣はすでにボロボロで、もはや斬れる状態ではなかった。
「オラッ──!」
剣を騎士に投げつけ、転がっていた別の剣を拾う。
俺に気づいた騎士たちが、一斉に襲いかかってくる。
剣を構えて、力を込める。
拾った剣が鎧と同じ黒鉄色に変わっていく。
「はっ──!」
思いっきり跳び、騎士たちの頭を飛び越える。
仲間の前に着地して──
「はぁっ──!!!」
剣を思いっきり振り抜く。
斬撃が、黒い奔流となって飛んでいく。
剣は斬撃を飛ばした直後、ボロボロと崩れて消え去った。
騎士たちが黒い奔流に押し流され、吹き飛ばされた。
「今のうちだ!みんな城門の中へ!!」
仲間を戦線から退かせる。
この姿なら、足止めできる。
また別の剣を拾い、構える。
黒鉄の剣に変えて、周囲を伺う。
──敵が近づいてくる気配はなかった。
「敵、撤退を確認──!」
城壁の上から声が響く。
味方の間から、安堵と勝鬨の声が上がる。
俺も、同じように声を上げた。
恐怖も痛みも、まだ消えていない。
だが、それでも──生き延びた。




