尋問、そして地下へ
木に吊るされていた二人の男を地面に下ろし、手を縛る。
そのまま二人を茂みに連れ込み、俺たちは尋問を始めた。
念のため、ローズが隠蔽魔法の結界を張った。
しばらくは、俺たちの姿も発する音も外からは感知できないそうだ。
「何者だ、ここで何をしている」
「あのゴブリンどもはお前たちの仲間か」
ローズが矢継ぎ早に質問をぶつける。
独特な模様と、人とも獣ともつかない生物を模した仮面は、見るものに言いしれぬ威圧感を与える。
「わ、我々は道に迷っただけだ。たまたまあのゴブリンたちに助けてもらったんだよ」
「お、俺はガリアンっていうんだ。こっちの細いのはデイヴ」
大柄なガリアンと細身のデイヴ。
……こういっちゃなんだが、見た目と名前が一致しないな。
「嘘をつくな。この森にゴブリンは元々住んでいない」
「それに彷徨っていた割には随分と身綺麗ではないか」
「先ほどのゴブリン共とのやり取りを見るに、付き合いは昨日今日のものでもあるまい」
「お前たちが連れてきたのだろう。でなければ説明がつかない」
二人の供述をローズが一蹴する。
今までもこういう輩の相手をしてきたのだろう。
随分と慣れている様子だった。
ガリアンとデイヴは目を伏せて黙り込んでしまった。
観念したのか、黙秘する気か。
おそらくは後者だ。
「……黙っていてもあなた方が解放されることはありません」
「ああ、素直に話したほうがアンタらのためにもなる」
俺とレインの説得にも、黙秘。
ローズがため息混じりに、質問を投げかける。
「──最後の質問だ」
「話す気は、あるか?」
少し強めの語気と共に、二人に詰め寄る。
ガリアンとデイヴは、顔を伏せたまま答えない。
「──そうか。なら、仕方ないな」
ローズが、懐から何かを取り出した。
細い筒に、丁字の持ち手が付いた小さな道具。
「あまり、こういうことはしたくないのだが」
ローズがデイヴの人差し指に筒をセットする。
そのまま持ち手をゆっくりと押し込んだ。
「……待てローズ、それまさか」
「──っ!!ぎゃあああああ!!!」
言い終わる前に、デイヴの絶叫が響き渡る。
結界がなければ、間違いなく俺たちの居場所がバレていた。
「……爪の中に、針を通す器具ですか」
レインが嫌そうな顔でデイヴの指を見る。
ローズも顔は隠しているが、明らかに声に覇気がない。
「そうだ。命には関わらないが、最大限の痛みを与える。我々に古くから伝わる拷問器具だ」
「……使わずに済むなら、それに越したことはなかったのだがな」
ローズが器具をはずすと、爪の中に血が滲んでいた。
見ているだけで痛々しい。
思わず爪を守るように拳を握り込んだ。
「……どうする。今なら指一本で済むぞ」
ローズがデイヴの中指に器具をセットしようとする。
デイヴが大きく首を振って泣き叫ぶ。
「分かった!全部話す!だからやめてくれ!」
「なっ……デイヴ、貴様……!」
デイヴを睨みつけるガリアンを、ローズが睨む。
「……ほう、お前はこいつを体験してみたいようだな」
「後悔するなよ?」
刺すような視線をガリアンに向けながら、器具を指にセットする。
持ち手に指を添えて、ゆっくりと押し込もうとする。
ガリアンの顔が、みるみる真っ青になっていった。
「ひっ!わ、悪かった!話すから勘弁してくれ……!」
「──最初からそうしていれば良かったのだ、たわけめ」
そこからは、比較的スムーズに話が運んだ。
数ヶ月前からこの森にゴブリンと共に入り、ここに拠点を構えたこと。
富豪たちに売りつけるために、エルフを攫っていたこと。
買い手がつくまでは石造の建物の中で“飼育”していること。
まだ中には数十人ほど残っていること。
判明したのは、この程度だった。
「──聞けば聞くほどクソ野郎だな、アンタら」
「金のためなら他人の尊厳なんざ知ったこっちゃないってか」
最大限の侮蔑を込めて、息も絶え絶えに項垂れる二人を見下す。
金のために売る方もだが、買う方もクソ野郎だ。
機会があれば、必ず叩き潰してやる。
それにしても、思いのほか口が固い。
なんでも話すと言った割には、話さなかった事柄もいくつかあった。
エルフを攫う具体的な手口。
エルフたちの買い手。
そして、どうやってこの迷いの森で迷わずにいられるのか。
特に三つ目は、推理の材料になりそうな情報すら一つも出てこなかった。
結局、片手の爪全てが血に染まっても、二人とも喋らなかった。
「……これ以上は無意味だな」
「残りの疑問はあの建物の中で探すとしよう」
ローズが筒を布で包んで懐にしまう。
「──サニー。いるんだろう」
「……はい。ローズさん」
ローズが声をかけると、茂みの中から浮かない顔のサニーが出てきた。
様子を見るに、さっきの尋問を見てしまったのだろう。
「この二人をフォレスタの地下牢に連れて行け」
「まっすぐ戻れ。寄り道はするなよ」
「……分かりました」
ガリアンとデイヴに目隠しと耳栓、さらに鼻も塞いで手足を固く拘束する。
サニーが両手でサインのようなものを出すと、蔦や葉が一人でに動き出した。
そのまま編み込まれ、二人を運ぶ緑色の寝袋のようなものが作られた。
「みんな、お願い」
言葉と共に、地面から二本の木が生えてくる。
みるみるうちに成長し、腕の生えた樹木の魔人が現れた。
そして地面から根を引っこ抜き、立ち上がった。
「──皆さん、お気をつけて」
それだけ言い残して、魔人に男二人を抱えさせて森の中に消えていった。
「……嫌なもん見せちまったな……」
「……はい。私たちですら寒気を覚えるのに、サニーちゃんくらいの年頃では……」
レインと二人で肩を落とす。
ローズも仮面を取り、大きなため息をついた。
「……やはり、気持ちのいいものではないな」
「サニーにも見せたくはなかったのだが……」
視線を落としてポツポツと呟く。
彼女もかなり精神的にダメージを受けている。
「……あのまま黙秘されてても話は進まなかったし、ある程度はしょうがなかったと思う」
「とにかく、あの中に入ろう」
気持ちを切り替えようと、茂みの向こうの建物を指差す。
数十人のエルフが詰め込まれていると聞くと、違和感を覚える小ささだ。
「──あの中に、我々の家族や友人がいる」
「二人とも、手伝ってくれるか?」
ローズが俺たちの方を向く。
俺もレインも、答えは変わらない。
「もちろんだ」
「一刻も早く助けましょう」
石の建物に入ると、いきなり階段があった。
地上に見えていたのはただの飾りで、本命は地下だった。
「──行くぞ」
ローズが短く呟き、階段を降りる。
俺とレインも続いて降りていく。
階段に灯りはなく、レインが小さな火の玉を浮かべて足元を照らす。
下りきると、扉があった。
ボロボロの木製の扉に、閂で封をしている。
「わざわざ閂で門を閉じるとは、律儀な連中だ」
ローズが閂を抜き、扉を開ける。
扉の向こうから、ひんやりとした冷たい空気が流れてくる。
目の前にあるのは、三つの通路。
レインが目を閉じて、魔力を探る。
「──この三方向全てから、微弱ですが魔力を感じます」
「何人かが同じ部屋に詰められているようです。エルフと思しき魔力反応が固まっている箇所が複数あります」
レインが目を開き、感じたままを話す。
どこに何があるのかまで分かるとは、レインの探知魔法は素人目で見てもかなり高度だ。
「……敵の懐中で別行動は、本来なら避けるべきなのだが」
「レインの魔力探知なら救助対象の位置も把握できる。ここは時間を優先すべきか」
ローズが顎に指を添えて考え込む。
だが、結論はすぐに出た。
「何かあっても、俺たちなら大丈夫ですよ」
「退路の確保だけは、気をつけないといけませんね」
俺とレインがそれぞれ別の方向を向く。
時間が惜しい今は、全員で固まるよりバラけた方が効率がいい。
「──そうか」
「では全員、生きてここに戻ろう」
「我々の仲間を、どうか頼む」
「了解!」
「はい!」
三人がそれぞれ別の道を歩む。
俺は左、レインが右、ローズが正面。
ここからは、一人だ。




