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エルフ狩りを狩る者

マリーの家を後にして、普段着に着替えてから集落の出入り口へと向かう。


改めて、フォレスタの街並みを見る。

美しく幻想的な街並みだが、違和感もある。


街に活気がない。

家族、友人が攫われているのだから当然ではあるのだが、それにしたって人が少なすぎる。


「ローズさん。ここには元々何人のエルフがいたんですか?」


疑問をそのままローズにぶつけてみる。


「元々は三百人ほどいたんだがな」

「森の外へ食料や資源の確保に行く者は、皆攫われてしまった」

「護衛もつけたが、結果は変わらなかった。それどころか護衛ごと攫われる始末だった」


「今残っているのは、子供と病人、怪我人。それに集落の中で働く者だけだ」

「人口は既に半分を切っている」


──既に相当数が攫われている。

それに、相手はかなりの手練のようだ。

まだ、エルフ狩りの拠点から連れ出されていないと良いのだが。


「──ここから集落を出る」

「私から離れるなよ。一歩はぐれればそのまま迷うことになる」


なんの変哲もない道に立ち、俺たちを横目に警告する。


「さあ、私の手を握れ」


レインと並んでローズの手を握り、一歩前に出る。

薄い膜のようなものをすり抜ける感覚と共に、周りの景色がガラッと変わる。


周囲は草木に覆われ、道が消えた。

背後にあるはずのフォレスタも、森の中に消えた。


「今のは、結界でしょうか」


レインが周囲を見渡しながら呟く。

ローズが前を向いたまま、答える。


「詳しいことは明かせないが、そんなところだ」


「姿隠しの結界と森の迷宮化」

「この二つがフォレスタの守りの要だ」


「では行くぞ。奴らの拠点の場所は、ある程度目星はつけてある」


ローズが道なき道を進んでいく。

俺とレインはローズの後をついていく。


「──なぜ、エルフ狩りの方々はエルフを見つけられるのでしょうか?」


俯いたまま、レインがふと口を開いた。


「どういうことだ?レイン」


「この迷いの森の中で、どうやってエルフを居場所を突き止めているのかと思いまして」


メガネの位置を直して、レインが続ける。


「例えば、魔力探知で探し当てる」

「エルフの方々は他の種族よりも保有する魔力量が多いですから、ある程度そこで見極めることができるはず」


「……でも仮に見つけられても、一歩歩けば道が変わるんだから辿り着けないんじゃないか?」


レインの推理の気になる点を指摘する。


それに、この森にはエルフだけがいるわけじゃない。

同じくらい強い魔力を持った魔獣なんかもいるはずだ。


「エルフの特徴を利用して探ってるんじゃないか?」

「例えば匂いとか、森に残した痕跡とか」


「森の迷宮化と一緒に、五感と方向感覚を狂わせる魔法も併用している」

「魔力以外の方法で我々を探すのも一苦労のはずだ」


俺の推理も、ローズが一蹴する。


要するに、普通ならエルフを捕えるのはおろか、見つけることすら不可能に近い。

それを可能にする方法は──


「──私は、フォレスタの誰かが手引きをしていると踏んでいる」


「あまり、考えたくはないがな」


ローズが複雑そうな顔を見せる。


裏切り者。

確かに、エルフの防衛網の仕組みを知っている存在がエルフ狩りに手を貸しているとすれば、矛盾はない。

防備の穴を突くくらい簡単にできるだろう。


──でも、だとすれば何のために。


「──あれだ」


ローズが歩みを止め、俺たちを手で静止する。

その場で姿勢を低くして、茂みの向こうの開けた空間を伺う。


小さなテントが二つ。

その奥に、石造の建物が一つ。


背の小さな緑肌の人らしきものが、テントの周りを忙しなく動き回っている。


「あれは……ゴブリンですね」


レインが小さな声で呟く。


ゴブリン。

ゲームで見たまんまの姿なんだな、本物も。


「何してるんだ、あいつら」


ゴブリンたちの動きを観察する。

紐で口を縛った麻袋や、レンガや角材を石の建物の中に運んだり、受け取ったりしている。

他にも何か書類を書いているやつもいる。


「エルフ狩りの雑務担当ってところか?」

「ゲームで見たゴブリンと違って、えらく組織立ってるんだな……」


俺の勝手なイメージでは、集団で人を襲う小さな怪物のイメージしかなかった。

それだけに余計にギャップを感じる。


「──静かに。建物の中から、誰か出てくる」


レインが口元に指を立てる。

息を潜めて観察を続けていると、石の建物から、影が現れた。


「……人間か、あれ」


「はい。男性が二人。どちらも騎士などではなさそうですが」


恰幅のいい中背の男と、背の高い細身の男。

どちらも森の中には似合わない、それなりに金を持ってそうな服装だ。


「あの人間たちを捕らえられれば色々話が聞けるのだが……」


ローズが考え込むように眉間に皺を寄せる。


あの男二人だけなら手はあるが、取り巻きのゴブリンが厄介だ。

十体以上いるゴブリン全てを欺くのは難しい。

かと言って正面から突っ込めば大ごとになって、さらに厳しい状況に追い込まれかねない。


「……私に、考えがあります」


レインが静かに口を開く。

視線は目の前のゴブリンたちに向けたまま。

俺とローズは、レインの作戦に耳を傾けた。


「──なるほど。それならば奴らを捕縛できるな」


「でもスケールがデカい。下手したら仲間を呼ばれるかもしれないぞ」


「大丈夫。私たちならできます」


俺の懸念に、レインは自信満々に言い切った。


「では、ロウ」

「お前に姿隠しの魔法をかける。一分後に効果が切れるから、それまでに仕込みを頼む」


「──分かった。やってみる」


ローズが俺の肩に触れて、魔力を流す。

レインが興味深そうに俺の方を見る。


「すごい、本当に姿が見えなくなりました」

「魔力も全く感じられません」


「さあ、急げ。時間がない」


ローズの手が離れると同時に、森の中を駆ける。


「──錬成」


小声で呪文を唱え、細いワイヤーを作る。

木々の間に張り巡らせて、即席トラップのトリガーを仕掛けていく。


(……すごいな。こんなに派手に走り回ってるのに、全く気付かれてない)


ゴブリンたちは武器を片手に見回りを続けている。

何度か視線がこちらを掠めたが、気付かれることはなかった。


(そろそろ隠れないと……!)


魔力を脚に流し、目についた木の枝に飛び乗る。


直後、一体のゴブリンが俺の方を見た。


(っ!……遅かったか?)


冷や汗を流しながら息を潜める。

ゴブリンは首を傾げた後、視線を戻した。


胸を撫で下ろし、ワイヤーを軽く引っ張る。

このワイヤーはレインたちへの連絡用だ。


「ロウの準備が終わったようです」


「では、次は我々の番だな」


ローズが懐から取り出した仮面を被り、自分とレインに姿隠しの魔法をかける。


ローズの手が離れたレインが一言、呪文を唱える。


「──そよげ(ブリッサ)」


呪文の直後、風が吹いた。

枝葉を揺らす、弱い風。

ザワザワと森がざわめきだす。


ゴブリンたちが周りを見渡す。

一体が武器を構えた直後。


一本の矢が、そのゴブリンの胸を射抜いた。


『ギャッ……!』


短い断末魔をあげて、ゴブリンが倒れる。

他のゴブリンたちが一斉に武器を構えて警戒態勢に入る。


「──今だ」


一本のワイヤーを引っ張り、罠を発動する。

朽ちかけていた木の幹がワイヤーで切断され、音を立ててゴブリンたちへ倒れ込む。


『ナンダッ!?』

『ツブサレル!ニゲロ!』

『ギャアァッ!!』


何体かのゴブリンが大木の下敷きになる。

逃れた連中も、ローズが矢で仕留めていく。


「な、なんだ!?何が起きた!?」

「森が、襲ってきている!?」


突然の出来事に慌てふためく男二人。

それを見たレインがさらに呪文を唱える。


「泥濘よ、乾きを満たせ(ロド・オンドラシオン)」


地面に手をつき、魔力の線を奔らせる。

ゴブリンと男たちを分断し、追い立てるように足元を泥濘に変えていく。


「うわっ!」

「どうなってる!急に足元が……!」


誘導されるように森の方へと駆ける。

その先に何があるかなど、知る由もないだろう。


「──かかった!」


男二人がワイヤーに足を引っ掛けた直後、真っ逆さまに吊し上げられた。

二人は何が何だか分からないといった顔で、ただ口をパクパクさせるだけだった。


「──沈め(フォンディール)」


レインが呪文を唱えると、ゴブリンたちの足元に穴が空いた。

追い立てられたゴブリンたちが、穴に落ちていく。

それほど深くはないが、かといって這い出ることもできない絶妙な深さ。


「だ、誰か助け──!」


「騒ぐな、森を荒らす不届き者ども」

「死にたくなければ我々に従え」


ローズが大声をあげようとした細身の男の首元に短剣を突きつける。

恰幅のいい男の方は、俺が剣で脅しをかける。

顔を見られると色々困るので、即席で般若の面を錬成して被っておいた。


「わ、分かった……従う、従うから……」


男二人は観念した様子で首を横に振り続ける。


「これで、話が聞けますね」


レインがフードで顔を隠して現れる。

ゴブリンたちが落ちた穴も、泥まみれの地面も、何もなかったように元通りになっていた。


──これで制圧は完了した。

ゴブリンを無力化し、人間を捕縛した。

あとは、情報を聞き出すだけだ。

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