表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
25/29

リエルの過去と、フォレスタでの仕事

地下牢に入れられた翌日。

ローズが再び現れた。


「お前たちの処遇が決まった」

「喜べ。我々の王、マリー様が謁見を許した」


「本当か!?」


レインの言う通り、良い方向に話が進んだ。

最悪の事態は回避できた。


「ついては、お前たちの持ち物にあった礼服に着替えてもらう」

「これからすぐに謁見だ。出るぞ」


まずレインの牢が開けられ、腰紐を引かれる。

次に、俺も連れ出された。


「ね?言った通りでしょう?」


「ああ。ありがとな、レイン」


「──私語は慎め。お前たちはまだ許されたわけではない」


ローズの後ろでコソッと話したが、怒られてしまった。


階段を登って、地下室から出る。

木造の簡素な内装の部屋に出た。


廊下を歩き、少し大きな部屋に出る。

真ん中に衝立が置かれ、両端に俺たちの服が置かれている。


「ここで着替えろ。生憎、用意できた部屋がここだけでな」


「……マジで?」


レインは何も言わずに服の方に歩き出す。

俺も慌てて自分の礼服の元に向かう。


──衝立の向こうが気になる。

微かに聞こえる衣擦れの音。

この薄い衝立一枚を隔てた先で、レインが着替えている。


(……ダメだダメだ、考えるな!)


頭を横に振って、煩悩を払う。

油断しすぎだ。

まだローズたちが味方になると決まったわけじゃないんだぞ。


いそいそと礼服に着替える。

以前、俺の新しい作業着を仕立ててくれた羊の獣人によるオーダーメイド品。

サイズもぴったりだ。


「よし、両方とも着替えたな」

「これからマリー様の元に向かう。無礼のないようにな」


衝立の向こうから、レインが現れる。

凛としたパンツスタイルに、ワンポイントの白が可愛らしい。

彼女のスタイルも相まって、見惚れる美しさだ。


(……似合ってるな)

(ロウもですよ)


小声で褒め合うと、二人で少しだけ笑った。


ローズに連れられ、建物の外に出る。

そこは、幻想的な光に包まれた集落だった。


淡い光を発する大小様々なキノコが、街灯代わりに街を彩る。

藁葺き屋根の家の軒先には、蛍のような虫を入れたカゴが吊るされている。


「ここが、フォレスタ……」


「なんて、幻想的な景色なんでしょう……」


レインと二人で息を呑む。

見たことのない現実離れした光景に、言葉を失う。


「あれがマリー様の家だ。行くぞ」


ローズが指し示した方向には、一際大きな樹木があった。

この集落全体を覆い隠そうとするような枝ぶり。

根に近い部分には、観音開きの扉が取り付けられている。


そう遠くもなく、少し歩くとすぐに着いた。

木製のノッカーで扉を叩き、ローズが背筋を伸ばす。


「マリー様。例の侵入者二名をお連れしました」


ローズの言葉の後、内側から鍵の開く音がした。


「良いぞ、入れ」


扉がゆっくり開かれる。


そこには、一人のエルフが膝を崩して絨毯の上に座っていた。


一際長く、少し垂れ下がった耳。

美しい銀髪は、身長の倍以上はありそうな長さで、丁寧にまとめて背中に流している。

見るものを吸い込んでしまいそうな、深い紫水晶のような瞳。

王として玉座にいるときのリエルとよく似た、ドレスのような服。


「すまないな、このような場所で」

「さあ、座りなさい」


手で座布団を示される。

レインと並んで正座で座る。

ローズは俺たちの背後に立って、睨みを効かせている。


「私はマリーゴールド・フレグランサ」

「このフォレスタの首長をやっている」


「マリーゴールドでは長いだろう。マリーで良い」


「私はレイン・レイシスです」

「おっ──私は、黒木志郎。影の国からの使節として、参りました」


レインが布に包まれた箱を取り出す。

おそらく、レインの方の着替えと一緒に置いてあったのだろう。


「こちら、リエル様からの土産となります」


「これはこれは、ご丁寧に」


丁寧に布を解き、箱を開ける。

中に入っていたのは、複雑な模様の描かれた磁器の皿とカップ。

それと、影の国で採れるノーチェ・ディアマンテと呼ばれる黒いダイヤの指輪だった。


「……この模様」

「やはり、リエルなのだな」


「──!やはり、生きていたのですか!」


皿に描かれた模様を、マリーが懐かしそうに眺める。

ローズも食器を見て、驚いたような声を上げる。


「やはり、リエル様のことをご存知なのですね?」


レインが背筋を伸ばしたままマリーに問う。

マリーは視線を食器から俺たちの方に移した。


「ああ。何を隠そう、リエルは元々ここの民だったのだ」

「この食器に描かれた模様は、リエルが考えたものでな。風に揺れる木々を表している」


「二十年前にエルフ狩りに遭って、行方不明になっていたのだが……生きていてくれたとは」


マリーが愛おしそうに皿を撫でる。

ローズもマリーのそばに寄り、カップを手に取った。


「ああ……リエル。本当に良かった……」

「──今までの非礼を、詫びさせてくれ」


「それと、礼を」

「私の友を──リエルの生存を伝えてくれて、ありがとう」


カップを胸元に寄せて、ローズが俺たちを見る。


「いえ。ローズさんの対応は国を守る者として真っ当なものでした。謝ることではありませんよ」


俺は背筋を伸ばしたまま答えた。

実際、検品から拘束までの手際の良さは見習いたいものだったし、取り調べでも暴力的な手段は取らなかった。


「──マリー様。質問、よろしいでしょうか」


「ああ。どうした?」


レインが手を挙げて質問する。


「森の中でも、私たちに向けてローズ様が言っていました」

「エルフ狩りとは、なんでしょうか」


レインの質問に、マリーとローズが眉を寄せる。

最初に口を開いたのは、ローズだった。


「我々エルフを捕えて、奴隷として売る」

「それを稼業とする下劣な連中がいるのだ」


「──人身売買……!」


思わず声が漏れてしまう。

人の尊厳を踏みにじる、最低の行為。

しかもそれを業として行うなんて。


「我々エルフは、他の種族と比べて数が少ない」


「普通のエルフはもちろん、リエルのようなダークエルフや、長い年月を生きたアークエルフともなればさらに高く売れる」


「だからこうして森の中に身を隠し、魔法で侵入者を迷わせて都度捕えてはいるのだが……」


マリーが視線を落とす。

この様子では、まだ完全に解決はしていないらしい。


「近ごろ、この森の中にエルフ狩りの拠点を作った連中がいるようでな」

「行方不明者が増えてきている。おかげで狩りや採集に行く者が減り、食料不足に陥っている」


「我々成人はまだ良いが、子供たちの食料が減っているのは死活問題だ」


ローズも深刻な顔で続く。


人が攫われ、国が回らなくなる。

これは、確かに大問題だ。


「──我々に、手伝えることはありますか」


前に乗り出し、マリーの目を見る。

リエルの故郷が無くなるかもしれない。

そもそも人身売買なんて非道、見逃すことなんてできるわけがない。


「──手を貸してくれるのか、二人とも」


「もちろん。このまま去るなんてできませんから」


レインも強い意志を宿した瞳で答える。


「──ありがとう。助かる」


ここでの俺たちの仕事が決まった。

エルフ狩りの拠点を見つけて、連中をこの森から叩き出す。

エルフ狩りを狩る、それが俺たちの仕事だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ