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旅立ち

影の国の城内は、慌ただしくなっていた。


国が興ってから初めての遠征任務が始まろうとしていた。

とはいえ、いつ陽の国が攻めてくるか分からない状況だ。

それに、あくまで目的は同盟締結のための話し合い。


ゆえに、俺とレインの二人が代表として各国を巡ることになった。


アッシュも行きたがっていたが、ジークとレインに止められた。

まあ、あいつは喧嘩っ早いところもある。

話し合いには不向きだとは俺も思う。


俺も準備を進めていた。

荷物をまとめ、荷室に積んでいく。

礼服を含めた着替えに保存食。

調理器具や、万が一に備えた医療品。

そしてリエルに持たされた、各国への土産。


『キュ!』


「おっと、そうだな。お前も一緒だ、翠」


翠が背中を小突いてくる。

俺とレインが乗るコリエントも一緒だ。

徒歩じゃ厳しい距離や険しい道も、翠たちが入れば乗り越えられる。


荷室と客車を引くのは、馬ではなく四つ足のドラゴンだった。

“モンタナドラ”というらしい。

馬車ならぬ、竜車だ。


「いよいよ出発ですね、ロウ」


大きなリュックを背負ったレインが城から出てくる。

その目は期待感に輝いていた。


「ああ。俺にとっても、こっちに来て初めての出張みたいなもんだ。正直、緊張してるよ」


「シュッチョウ……?」


聞き慣れない言葉に、レインが首を傾げる。

何でもないと、俺は軽く手を振った。


レインの荷物を預かり、荷室に積む。

思ったより重くて腰を痛めそうになったが、なんとか持ち堪えた。


「そろそろリエル様による出立の挨拶があります。広場に行きましょう」


モンタナドラの手綱を引き、広場に向かう。

リエルの挨拶のあと、広場で外に繋がる“穴”を開けて、そこから旅に出る。


広場には、すでに多くの人が俺たちの出発を見送ろうと集まっていた。

多くの激励の言葉に迎えられ、出発前から胸が熱くなる。


「皆さん、私たちに期待しているようです」


「そりゃあな。俺たちの仕事次第で、国の行く末が決まると言ってもいい」

「それに、俺とレインのことを信じてくれてるんだ。しっかり、応えないとな!」


ヴェネーノに向けて救世主を名乗った時から、俺の中で何かが変わった。

人を守り、国を守る。

救世主としての自覚を持った、そんな感じだった。


俺たちが到着した少し後、リエルたちも広場に着いた。

側には、ジークとアッシュがいた。


「羨ましいぜ黒騎士。代わってやりてえくらいだ」


アッシュが近づき肩をどつく。

視線は何度もレインの方を向いている。

……分かりやすいやつめ。


「……余計なこと考えて影の国の守りを抜かったりしないでくれよ?」

「帰る場所がなくなったら、俺もレインも悲しむぞ」


「……ああ。わかってる。そこは心配いらねえよ」

「お前こそ、レインに何かあったら許さねえからな」


二人で軽く拳を突き合わせる。

言われなくても、守ってみせる。


アッシュが持ち場に戻った後、リエルが登壇した。

広場に集う全ての視線がリエルに向く。


「──今日、我々影の国は大きな一歩を踏み出します」

「行き場のない者たちの寄り合いが、気がつけば国を名乗るまでになった」


「しかし、我々は未だ国として認められていません」

「陽の国が本格的に攻めてきた今、これまでのような孤独な国家では明日にでも呑まれてしまうでしょう」


「これから我々は、同じく陽の国と戦う国と手を結びます」

「正式な国家として認められ、対等に並び立つために」

「その極めて重大な役割を、皆のために身を粉にしてきた二名に任せます」


リエルの合図で、俺とレインも登壇する。


「まずは、街と城の橋渡しとして、また影の国随一の魔導士として名高い、レイン・レイシス」


「そして──」

「異なる世界の住人でありながら、私たちのために立ち上がってくれた救世主、黒騎士ロウ」


「両名が私たちに、この月光以上の希望の光を与えてくれることを願い、ここに盛大に送り出しましょう」


リエルが両手を上げると、大歓声が上がった。

今までなかった経験に、思わず腰が低くなりそうになる。

レインにさりげなく背中を叩かれて慌てて姿勢を正す。


「それではこれより、外に出るための穴を開けます!」


ローブを纏った、羊のようなツノが生えた女性が声を上げる。

同じ服装の魔法使い二人が呪文を唱えて地面に手をつく。


白い光の線が地面と空中に走り、四角を描く。


「──開け(アビエルト)


四角を等分するように、中心に光が走る。

光の線が徐々に広がり、やがて眩く輝く穴が開いた。


「穴というより、扉みたいだ」


「今回だけの特別仕様です」


モンタナドラの背に乗り、レインの手を取り彼女も乗せる。

手綱を引くと、モンタナドラが穴に向けて歩き出す。


「行ってらっしゃい!ロウ!レイン様!」


「怪我や病気には気をつけろよ!」


「何かあったらいつでも帰ってきていいからね!」


街で仲良くなった人々の声援を受ける。

みんなに笑顔で手を振って、俺たちは光に消えた。


──出てきた先は、平野だった。


真っ青な空。

それを彩る白い雲。

肌を焼くような眩しい陽光。

それらを少しでも受けようと背を伸ばす草花。


「──外に、出たんだな」


「はい。──やはり、影の国に長くいる身には慣れない光の強さです」


レインが眩しそうに手で庇を作る。


こうして実際に外に立って、あの白い穴の意味を理解した。


あれは、外に出る前にある程度目を慣らすための処置だったのか。


「最初に向かう場所は──」


「エルフたちの治める小国、“フォレスタ”」

「ここの近くに大きな森があるはず。その奥にフォレスタは存在するそうです」


レインが地図を開き、辺りを見る。


街はもちろん、目立つ大木も少ない草原の向こうに、一際大きな森が見えた。


「──あれか」


「そのようですね。行きましょう、ロウ」


モンタナドラの手綱を引いて、森のある方向に歩き出す。


陽の国と影の国以外の国。

全くの未知の世界。


恐怖が半分、好奇心が半分。

それらを包み込むような、期待感。

心が少年に戻った気分だ。


──レインの顔を改めて見る。

さっきと変わらず、目を輝かせている。


「ふふ。楽しそうですね、ロウ」


「えっ?そんな顔してたか?」


「ええ。目が輝いてますよ」


少年の心が顔に出ていたみたいだ。

恥ずかしくなってつい目を逸らす。


──それでも。

どうしようもなく心は躍っていた。

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