影の国の復興と、今後について
陽の騎士とタイカンたちとの戦いの後、俺はしばらくの間、街の復興を手伝っていた。
瓦礫を撤去し、家を建て直す。
俺は持てる知識と技術で、できる限りのことをした。
図面を引いて、魔法で道具を作り出す。
工作機で資材を加工して、より丈夫な建物を作り上げる。
流石に魔法で家を建てることはできなかった。
魔力が切れれば全て消える。
そんな不安定な代物、とても扱えない。
だから、みんなで作る。
資材を集めて、加工して、組み立てる。
元の世界と同じ、チームでの仕事。
だが、会社での仕事よりも余程やり甲斐はあったし、楽しかった。
「にしても、ロウさんはすごいな」
「そうそう。戦いの後で疲れてるだろうに、復興のお手伝いまでしてくれるなんて」
「しかも自分で図面引いて資材の加工までできるなんてなぁ。まるで何でも屋だ」
街の人から称賛の声をもらうことも多い。
俺としては、戦いよりもこういう仕事の方が慣れてるんだが。
「何もしないのが嫌なんですよ。少しでも役に立ちたいんです」
ネコ車に瓦礫を積みながら、答える。
幸い、俺は怪我の具合がそれほどひどくなかったおかげで、入院もせずに済んだ。
それに、街のみんなが頑張ってるのに自分が何もしないのも申し訳なく思った。
「皆、そろそろ食事にしよう」
「今日は魚のテリヤキと野菜のカキアゲだよ」
「ロウさんに教わった“オニギリ”もあるわよ」
街で食材や飲食を営んでいた人たちが炊き出しを持ってくる。
魚はミケが、野菜はケンタウロスのマーゴンが、米は鴨族のアイーダが用意したものだ。
「それにしても、ロウさんには本当に感謝しなきゃねぇ。あなたのおかげでウチのお米が本当によく売れちゃって!」
「ああ、それにこのカキアゲというのもとても良い。余らせた野菜を刻んで油にくぐらせるだけで、こんな美味いものができるとは」
アイーダとマーゴンが楽しげに話す。
街の復興ついでに、元の世界の料理も色んな人に教えていた。
さすがに醤油や味噌なんかはすぐに用意できなかったが、一応作り方を伝えておいた。
そう遠くないうちに味噌汁なんかも食べられるだろう。
元の世界で暇つぶしに調べていたことが、こんなところで役に立つとは。
塩味の効いたおにぎりをみんなで食べる。
労働で汗をかいた身体に塩がよく沁みる。
「黒騎士さま!ここにいたのですね!」
城の方向からコリエントに乗った白衣の女性が駆けてくる。
レインの部下の看護師だ。
「レイン様からの言伝です。タイカン・アームストロングが目を覚ましました」
「本当か!?」
陽の騎士の一人──ヴェネーノに刺され、生死の境を彷徨っていたタイカン。
一時は助からないとまで言われていたが、どうにか一命はとりとめたようだ。
「悪いみんな!ちょっと城の方に戻る!」
「翠!頼む!」
食べかけのおにぎりを一口で頬張り、翠を呼び寄せる。
背中に乗って、城に向けて走り出す。
城内の病室に行くと、レインが眠っているタイカンのそばに立っていた。
「意識は戻りましたが、まだ動ける状態ではありません」
「それと、内臓を損傷していて完治は不可能です。戦線に立つことは、もう叶わないかと」
少し目を伏せながら、レインが話す。
「生きてるだけで儲けものだ。ありがとう、レイン」
「いえ、ロウの応急処置のおかげで、間に合った部分もありますから」
二人で、感謝を伝え合う。
「──本当に、仲が良いのですね」
「うわっ起きてたのか!」
タイカンがうっすら目を開けて、こちらを見ていた。
「……皆様には、感謝してもしきれません」
「なし崩しとはいえ影の国に危害を加えたにも関わらず、命を救ってもらうとは」
「──タイカン。あなたは重要参考人です」
「あなたには、話してもらうべきことがたくさんありますから」
レインがさっきとはうって変わって、ツンとした声を出す。
怪我人とはいえ、敵は敵。
思うところもあるだろう。
「ええ。もう少し休んだら、話せることは話しましょう」
「それが、今の私にできる贖罪のひとつですから」
そう言って、またタイカンは目を閉じた。
街の復興もだいぶ進んだ頃、リエルに呼び出された。
王の間にいたのは、リエルとレイン、ジーク。
そしてタイカンだった。
「──まずは、快復おめでとうございます。タイカン・アームストロング」
リエルが玉座に座ったまま、跪つくタイカンに声をかける。
彼は頭を下げたままだ。
「──皆様のご尽力のおかげです」
「この感謝の意を、どう表せばよいか──」
「まあ、その辺はこれから話そうや、城塞騎士」
タイカンの言葉に、ジークが被せるように声を上げる。
まどろっこしいのは抜きにしようと、言外に伝えている。
「正直なことを言うと、今のお前の立場は相当危うい」
「影の国じゃお前は危険な侵略者」
「だが、陽の国じゃ王を裏切り味方を手にかけて死んだ売国奴だ」
ジークがそのまま話を続ける。
だが、彼の話に違和感を覚えた。
「待ってくれジーク。ホーディは味方殺しはしてない。彼の部下の死因は──」
「毒殺、ですよね」
「それは私たちも分かっています」
俺の抗議に、レインが割り込む。
「彼の部下は皆、毒によって亡くなりました」
「ロウとタイカンの話で、犯人は陽の国の筆頭騎士の一人、紫毒騎士ヴェネーノ・メフィストであることも分かっています」
「──ですがそれは、影の国から見た話」
レインは少し息を吸い、ジークに目配せする。
視線を受けたジークが再び口を開く。
「陽の国がわざわざ裏切り者の味方を始末した、なんて民衆に伝えると思うか?」
「少なくとも、俺やリエルはやらねえって結論を出した」
「下手を打てば粛清される、なんて伝えたら統治者側に不信感が募る」
「それなら責任を一人に押し付けて、死んだことにした方が色々都合が良いだろ」
ジークが腕を組みながら淡々と話す。
タイカンは変わらず、頭を下げたままだった。
「そこで、だ」
「これからの身の振り方をどうするか、ってのを話し合うために呼んだんだ。タイカンさんよ」
「どっちに転んでも地獄だろうが──どうするね?」
タイカンを見据え、ジークが問う。
少し厳しい言い方だが、俺が彼の立場だったら同じ物言いをしただろう。
「少なくとも、影の国に留まるならば衣食住と命は保証します」
「民の意思は──あなた次第ですが」
リエルが静かにジークに続く。
タイカンが、ようやく顔を上げた。
「──病室で、色々話を聞きました」
「影の国での暮らし、国の成り立ち、国民の出自」
「私の生存を喜ぶ者と、恨み言をぶつける者」
「窓から見える人々の営み」
「……正直、誤解していました」
「ここに暮らす者たちは、悪魔などではない」
「今を必死に生きている、陽の国の民と同じ存在」
瞳に、強い意志が宿る。
「──この身体は、もう戦いには出られない」
「だから、それ以外の方法で、償わせてほしい」
「命をもって償えと言うのなら、喜んでこの身を投げ出しましょう」
タイカンの言葉のあと、沈黙が続く。
最初に沈黙を破ったのは、リエルだった。
諌めるような、少しばかり怒りのこもった声。
「せっかく拾った命を、無駄にするものではありません」
「あなたには、協力してもらいたいのです」
「……何を、お望みですか」
タイカンの問いに、リエルが小さく深呼吸する。
「一つは、国防の強化への協力」
「あなたの城塞騎士としての知識と技術を、私たちの兵団に伝えてください」
「もう一つは?」
「──現在、陽の国に攻め込まれている、あるいは侵攻の予定のある国を教えてください」
「陽の国の騎士、それも防衛を司る立場にいたのであれば、作戦計画にも触れているはずです」
二つ目の条件にタイカンが目を丸くする。
「……それは、どう言う意味ですか」
「前者はともかく、後者は機密情報です」
「私たちの協力者を増やすのです」
リエルの声音は変わらない。
自室で見せる柔らかさは無く、王としての毅然とした態度。
「私たちは陽の国に狙われる立場にある」
「加えて、我々は正式に国家として認められていません」
「陽の国の侵略に対抗するには我々の力では足りません」
「故に、同じく陽の国に狙われる国家と協力関係を結びたいのです」
こっちがリエルの本命か。
陽の国と対抗するための土台作り。
「──なるほど」
タイカンが深く考え込む。
「やっぱり、祖国を敵には回せねえか?」
ジークの声が玉座に響く。
これは、難しい選択だ。
自分の命か、故郷の興亡か。
捨てられたも同然とはいえ、簡単に情は捨てられないのも当然だ。
長い沈黙の末、タイカンが答えを出す。
「──分かりました。私の知る範囲ではありますが、お伝えします」
タイカンの口から、影の国の外の事情が語られる。
どこに、どんな国があるのか。
誰が、どことの争いを指揮しているのか。
今後の動きも、徐々に話し合われた。
陽の国との戦いは終わっていない。
だが、影の国は確かに前に進み始めていた。




