翡翠の鳥竜と黒騎士の戦い
翠と共に街を駆ける。
想像以上のスピードに少し面食らったが、慣れるとかなり楽だ。
左手で手綱を握り、右手に槍を持つ。
先端の刃を無くして円柱状にし、刺突よりも打突に寄せた馬上槍。
すれ違いざまに胴体に叩き込み、一撃で戦闘不能にしていく。
翠の速度も乗った槍は、陽の騎士の鎧を凹ませて吹き飛ばすには十分な威力だった。
翠もよく頑張ってくれている。
この子はとても賢く勇敢だ。
瓦礫や障害物を乗り越えられるか、迂回すべきかを自分で判断するし、武器を持った騎士相手に臆せず立ち向かう。
おかげで、俺も迷いなく攻撃ができる。
騎士と対峙していた兵士には、民間人の避難を優先させた。
犠牲者は、これ以上出させない。
「翠。そろそろ休憩にしよう」
騎士を十人ほど倒した辺りで、翠の手綱を引いて足を止める。
物陰に移動して、翠を座らせて俺も降りる。
バケツを作り出し、鞍袋に入っていた水を注いで翠の口元に置いてやると、勢いよく飲み始めた。
「よく頑張ったな。ありがとう翠」
頭を撫でながら、翠を褒める。
目を細めて、嬉しそうな声をあげる。
一人で走ってたらこんなに早く倒して回れなかった。
この子を用意してくれたリエルにも、あとで感謝しないとな。
「この辺りにいるはずだ」
「仲間も随分やられた。必ず捕えるぞ」
「ああ。上手くやればタイカン隊長やユーゴ様から褒賞間違いなしだ」
人の声と、金属のぶつかる音。
陽の騎士たちが俺を探しにきたようだ。
「翠。ここを動くなよ。危ないからな」
翠の顔を撫でて、物陰から顔を出す。
数は、五人か。
全身鎧の騎士が三人に、鎧に腰布とフードを加えた魔法使いのような騎士が二人。
「……流石に、分が悪いか」
二対一でも辛いのに、五対一なんて袋叩き確定だ。
どうしたものか。
『──キュルル』
翠が肩の上に頭を乗せる。
瞳には強い意志のようなものが見えた。
「……翠。もしかして、やる気か?」
『キュ!』
元気のいい返事。
肩から頭を離すと小さく手の爪で引っ掻くような動作をした。
まるで任せてくれと言っているようだった。
「──よし、やってやろうか」
翠と拳の代わりに、頭を軽く突き合わせる。
「──いないな」
「そんなわけあるか、よく探せ」
「探知魔法の反応は?」
騎士たちが散開して、俺たちを探す。
あちこちから鎧の擦れる音が聞こえ、近づいたり遠のいたりする。
なかなか獲物が見つからないことに、皆イライラしているようだった。
「──面倒だな。おい、この辺全部火球でぶっ壊しちまえよ」
ハンマーを持った騎士の一人が苛立った声でフードの騎士に声をかける。
声をかけられた方は嫌がる素振りを見せた。
「勘弁してくれよ。流石に街を壊すのは規律違反だ」
「今さら何言ってんだ。それにここはあの影の国だぞ、誰も文句なんざ言わねえよ」
ハンマーの騎士がさっさとやれと手で示す。
フードの騎士がため息混じりに杖を構えた。
直後。
『ケケェェ──ッ!』
「っ!?なんだ!?」
翠が物陰から飛び出す。
頭と胸、太ももに鉄板を貼り付けて、防御を固めた姿で。
「クソッここで飼われてる魔獣か!」
「おい!丸焼きにしてやれ!」
「了解!──火球!」
フードの騎士の杖からいくつもの火の玉が飛び出す。
だが、翠は恐れず走り続け、右に左に回避する。
『ケェェェ──ッ!』
躱しきったところで、フードの騎士めがけて飛びかかる。
「なっ──!?やめろ!くるな!」
騎士が悲鳴を上げながら杖を掲げる。
だが、もう手遅れだった。
抵抗も虚しく、そのまま全体重で押し潰される。
「ぐえっ!?」
潰れたカエルのような声を出して、フードの騎士が地面に沈んだ。
「こいつ──!」
「殺せ!俺たちに手を出したことを後悔させてやる!」
「──後悔するのは、お前らだ!」
翠に視線が集中したところで、俺も物陰から飛び出す。
手にバットサイズの棍棒を作り出す。
俺の声に驚き、振り向いた騎士の脇腹にフルスイングを叩き込む。
「がはっ──!?」
直撃を喰らった騎士がそのまま吹き飛び、瓦礫に突っ込む。
残りの騎士が状況を飲み込みきれず狼狽える。
「な、救世主!?」
「マズイ、仲間が!」
「貴様ら、よくもやってくれたな──!」
杖を持った魔法使いが杖の先に火の玉を作る。
「散開火球!」
火の玉から小さな火球が無数に撃ち出される。
「翠!」
『ケェェェ──ッ!』
翠呼んで一か所に集まり、棍棒と鎧の一部を大盾に変えて無数の火球を凌ぐ。
次第に杖の先の火の玉が小さくなり、火球の数も減っていく。
「──今だ!行け!」
『キュ!』
合図と同時に翠が盾を飛び越すようにジャンプする。
俺の方も即座に大盾を鎧とバックラーに作り変え、背後にいたハンマー使いの一撃を防ぐ。
「おのれ救世主!何故我らの邪魔をする!」
「──アンタらがこの街を壊すからだ!」
「武装錬成──!」
空いた右手に剣を作り、足に刺突する。
深々と刺さった剣は、地面に騎士を縫い付ける。
「ぐあぁっ──!」
「再錬成!」
バックラーを大きな拳に作り変え、胴体に一発叩き込む。
剣を引き抜き、こちらも拳に変えて一撃を加えてから、両拳を同時に打ち込む。
騎士の胴を守る鎧は大きく凹み、そのまま騎士は吹き飛ばされた。
「ひ、ひぃぃ──!」
怯えた最後の一人が武器を捨てて逃げようとする。
だが、翠が先回りして逃げ道を塞いだ。
『グルルル……!』
「ま、待って……!喰わないで……!」
睨みつける翠に腰を抜かして後ずさる騎士。
その隙に手錠を作り、背後に忍び寄る。
「悪いが、おとなしくしててもらう」
「俺に命をどうこうする権利はない。だから、この国の法に決めてもらう。いいな」
後ろ手に手錠を嵌める。
騎士は観念した様子でうなだれた。
「──ロウ殿!」
ひと段落したところで、タイカンが走ってきた。
俺の渡したハルバードは、刃先から柄まで傷だらけだった。
見ただけでどれほどの戦い続けてきたのか伝わってくる。
「タイカン!そっちはどうだ!」
「ええ。あなたの武器のおかげで不殺を貫けました。皆捕縛してレイン殿とその配下に引き渡しています」
少し息を切らせながら話すタイカン。
決闘であれだけの大立ち回りを演じた彼も、さすがに疲弊していた。
「こっちもどうにかやってるよ。骨折くらいはしてるだろうが、死んでは──」
言葉の最中、手錠を嵌めた騎士がうめき出した。
身体が異常に震え、歯を鳴らしている。
「っ!?おい、どうした!」
俺の呼びかけに答える余裕もなく、騎士はそのまま横に倒れ込んだ。
弾みで兜が外れると、騎士は白目を剥いて泡を吹いていた。
「かっ……はっ……!」
「隊長……!助、け……!」
虚空に向けて助けを求め、そのまま騎士は息絶えた。
タイカンが動揺しつつも、騎士の目を優しく撫でて瞼を下す。
「……タイカン。これは……?」
「毒、ですね……一体誰がこんな……」
言葉を交わした直後、不意に背筋の凍るような冷たい風が吹いた。
「──!?なん──」
嫌な予感に、思わず振り向く。
振り向いた先には、タイカンがいた。
その胴を、血に濡れた剣が貫いていた。




