表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
16/29

瓦礫の街と、新しい相棒

「どうしてだよ……」

「こうなるのを避けるための、決闘だったのに」


目の前の惨状に、目を覆いたくなる。

陽の国の騎士と、魔王軍の兵団が命の奪い合いをしている。


「ロウ!無事ですか!」


レインが土の足場を浮かせて俺の元に飛んでくる。


「ああ。無事かといわれると、微妙だな……」


「レイン殿、どうかロウ殿の治療を」

「肩を射抜かれています。失血もひどく、筋をやられています。このままでは腕が──」


レインの顔がみるみる青ざめていく。

慌てて傷口に手を当てて、呪文を唱える。


「ここで完治できる傷ではありません。応急処置で失礼します」

「ロウの次はあなたです、タイカン。この戦争を止めるには、あなたの力も必要です」


「私の事は気になさらず。専門家ほどではありませんが、治癒魔法の心得はあります」


タイカンが自分の傷口に手を添え、淡い緑色の光を灯す。

出血が止まり、傷が塞がっていく。


「私は先に行って皆を止めます」


「……ロウ殿。此度の横槍、騎士団を率いる代表としてお詫びします」


タイカンが俺たちの方に向き直り、深々と頭を下げる。


「言ってる場合かよ。治療が済んだら俺たちも行くから」


「……ありがとう」


──そういえば。


「タイカン、これ持ってけよ」

「普段使ってるやつとは違うだろうが、探しに行くのも手間だろ」


錬鉄魔法で、彼の使っていたハルバードを作り出す。

見た目から分かる範囲しか再現していないが、それなりに出来は良いつもりだ。


「──感謝します、ロウ殿」


一言感謝を述べてからハルバードを手に取り、決闘場から飛び降りる。


少しして処置が終わり、俺もレインと共に立ち上がる。


「では、私たちも行きましょう」


「ああ」


二人で駆け出し、レインの用意した足場に乗って下に降りる。


決闘場の周りにいた兵士たちは、いなくなっていた。


「──レイン。これマズいんじゃないか」


顔から血の気が引くのが分かる。

もう、城砦の内側──街で戦闘が始まってしまっている。


「既に被害が出ているかもしれません。急ぎましょう!」


足場を浮かせ、空から街に入る。

あちこちから黒煙が上がり、怒号と悲鳴が聞こえてくる。


──心臓の鼓動が速くなる。

呼吸が浅く、早くなる。

汗が吹き出し、吐き気が込み上げてくる。


視界に、獣人を襲う騎士が入った。


「──武装錬成(アームズアップ)!!」


剣と盾を作り、獣人と騎士の間に割って入るように飛び降りる。

盾で騎士の剣を受け、そのまま騎士の足に剣を突き刺す。


「民間人に、手を出すな──!!」


身体全てを使って騎士を押し退ける。

騎士がバランスを崩してよろけたところに、さらに盾を構えてタックルする。


「──っ!」


錬成(ビルドアップ)!」


倒れ込んだ騎士に馬乗りになり、両手を刺股状の拘束具で固定する。

片足には剣も刺さっている。

これなら動けないだろう。


兜を解いて、獣人に近づく。

以前、魚の串焼きを売っていた小さな猫族の女の子。

ミケだ。


「ミケ!無事か!」


「……!黒騎士さん!」


目に大粒の涙を溜めてミケが駆け寄ってくる。

見たところ、目立った怪我がないようで安堵する。


「無事で良かった。怖かっただろ」


「うん……でも、家が……お店が……」


胸元に顔をうずめて、泣きじゃくるミケ。

焼け焦げた木材の臭いが鼻を突く。

辺りを見渡すと、無惨に破壊された建物がいくつかあった。


ミケの家だけじゃない。

この辺り一帯が、大なり小なり破壊されていた。


「……」


目の前の光景に言葉を失う。

テレビの中でしか見たことのなかった瓦礫の街の中に、今俺は立っている。


心にズキリと痛みが走る。


「──大丈夫だ。俺たちがなんとかする」

「……必ず」


ミケの頭を撫でながら、自分に言い聞かせるように何度も呟く。

恐怖を、怒りを。

胸の奥にしまい込むように。


「ロウ!ミケ!」


少し遅れて、レインが降り立つ。

手には小さな水晶を持っている。

水晶にはリエルの顔が映っていた。


「レイン!ミケは無事だ!」

「早く安全な場所に連れて行ってやってくれ!」


レインに駆け寄り、ミケを預ける。

ミケの顔を見たレインは、安堵と悲しみが混ざり合ったような目をしていた。


「ミケ……良かった」

「ロウ、あなたは──?」


「──これ以上、好き勝手はさせない」

「俺は陽の騎士たちを止める」


兜を纏い、瓦礫の街に目を向ける。


「──それが、俺の役目だ」


《ロウ。この街を走り回って戦うのは消耗が激しすぎます》


駆け出そうとする俺を、リエルの声が止める。

水晶から発せられる声は、そこに本人がいると思わせるほどクリアだった。


《そちらにもうすぐ“コリエント”が到着します》

《その子に乗って、みんなを助けてください》


「コリエント?」


俺の疑問は、すぐに解決した。

ドタドタと、力強く地面を蹴り抜く足音。


『ケエェェ──!!』


レインと俺の頭上を跳び越え、目の前に着地する。

群青の鱗に翡翠色の羽根。

細くしなやかな後脚に、さらに細く繊細な前脚。

その四肢には鋭い爪。

背中には鞍が備えられ、口元には轡と手綱が繋がれている。

まるで恐竜のような、ドラゴンのようなモンスター。


「この子が、コリエント?」


《はい。厩舎で育てている私たちの足の一つです》


《その子は特に勇敢です》

《きっと、あなたと気が合いますよ》


ノシノシと俺に近づき、脚を畳んで屈む。

乗れと言わんばかりに鼻を鳴らす。


「よし、それじゃあ頼むぞ──」


「……この子、名前は?」


鐙に足をかけた時に、気になった。

ただのコリエント、では締まらないだろう。


《その子はまだ名前がありません》

《よければ名付けてあげてください。ロウ》


少しだけ、緊張の和らいだ声。


名前が無いなら、そうだな──


「よし、お前の名前は“(スイ)”だ」

「綺麗な翡翠色の羽根だからな!」


顔を撫でながら名付ける。

キュルルルと、高い鳴き声をあげる翠。

多分、喜んでるんだろう。


「──よし、それじゃ改めて」


「行くぞ翠!頼んだぞ!」


翠の背に乗り、手綱を握る。

手綱を振ると、勢いよく走り出した。


『ケケェェ──!!』


翠の雄叫びと地響きのような足音と共に、瓦礫の街を往く。


まずは、陽の騎士たちの制圧だ。

もう、誰にも何も壊させない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ