決闘の結末は、想定外の最悪なものだった。
激しい攻防が、続いていた。
騎士たちからどよめきが聞こえる。
兵士たちから激励が聞こえる。
技術はタイカンの方が上だ。
こっちの攻撃は、ほとんど受け流される。
ハルバードの形状を最大限に活かした巧みな技の数々は、学ぶものも多かった。
俺の方は、その差を魔法で補う。
剣を盾に変え、槍に変える。
砕ければ直して、絶え間なく攻め続ける。
「なるほど。確かに使い勝手の良い魔法だ……!」
「だが、この城塞騎士を落とすにはまだ足りない!」
俺の剣を斧の部分で絡め取り、場外に放り出す。
まただ。
いろいろ試してはいるが、どれも最後はこうして武器を奪われるか、壊される。
武器を失った隙を逃さず、追撃が飛んでくる。
盾を作って防御する。
どうしても、後手に回される。
主導権は、タイカンが常に握っていた。
「──そろそろ、息が上がってくる頃ではありませんか?」
「──っ」
──お見通しか。
確かに、俺は肩で息をし始めている。
対するタイカンは涼しい顔でハルバードを振るっている。
体力の差は、どうしても覆せない。
「さあ、まだまだ行きますよ!」
ハルバードを前に構えて、突っ込んでくる。
「──錬成!」
両手に盾を持ち、防御を固める。
猛攻を前に盾は瞬く間に傷だらけになり、その度に修復して凌ぎ続ける。
(どうする……どうすれば……)
正直、打つ手が見つからない。
こっちの間合いに入らせず、的確に体力を削ってくる。
勝負の天秤は、確実に傾き始めていた。
「はぁっ──!」
強烈な突きが飛んでくる。
盾で受けて後ずさる。
「──っ!?」
片足の踵が場外の縁を踏み損ねる。
気がつけば、端の方へと追いやられていた。
「追い詰めましたよ。黒騎士ロウ」
槍穂を眼前に突きつけられる。
後ろには退けない、前にも進めない。
詰み、か。
「ここで負けを認めれば、あなたを落とさずに済むのですが」
「……そう言われて、素直に認めると思うか?」
精一杯の虚勢を張る。
脳をフル回転させ続ける。
「そうですか。……残念です」
俺を突き落とすために得物を一瞬手前に引く。
瞬間。
俺は足に魔力を巡らせ、つま先に刃物を形成する。
「っ!」
タイカンが見逃すわけもなく、即座に足を斧で引っ掛けにかかる。
タイカンの視線が足元に落ちた。
──かかった。
「再錬成!」
盾の一つを両手剣に作り変える。
すかさず剣を斧の部分に引っ掛ける。
「はあぁ──っ!!」
タイカンがやってきたことを、同じように繰り出す。
刃を引っ掛けたまま、わずかに横に移動する。
そのまま剣で弧を描くように、捻りながら持ち上げる。
「なにっ──!?」
ハルバードがタイカンの手から離れる。
そのまま、回転しながら場外に飛んでいった。
「行くぞ──っ!」
勝機を逃すまいと、一気に間合いを詰める。
丸腰になったタイカンへ斬りかかる。
タイカンは腕甲で凌いでいるが、俺はジリジリと押し込んでいく。
「再錬成──っ!」
突きの瞬間、両手剣を細身の刀身に作り替える。
突き技に特化した、エストックと呼ばれる剣。
鎧の隙間にねじ込むように刺す。
剣を通じて、肉に食い込む感覚が伝わってきた。
「ぐっ──!」
タイカンが顔を歪める。
さすがに直撃は効いたようだ。
剣を引き、追撃に入る。
再びエストックを両手剣に作り変える。
アッシュたちとの稽古で得た経験を一心にぶつける。
「──まだ、手はあります!」
タイカンが腰の剣を抜き、華麗に捌いていく。
俺よりも重い鎧を着ているとは思えない軽やかさだった。
「さすが、剣の腕も一流か……!」
「騎士たるもの、不得意な武器などありはしません……!」
打ち合い、競り合い、鍔迫り合い。
お互い一歩も引かない。
だが、戦況は俺の方が有利だ。
タイカンは刺し傷から出血している。
力を入れるたびに痛みも出ているだろう。
俺は刺し傷周りを攻め立てる。
タイカンの動きが、少しずつ鈍っていく。
「──っ」
傷を庇うように、タイカンが剣を振る。
タイカンの剣を弾くように受け、絡めるように抑え込む。
「はっ──!」
そのまま剣ごと地面に押し付け、蹴りを叩き込む。
魔力を込めて強化した一撃は、重装備の騎士でも後ずさる威力だった。
蹴りの衝撃でタイカンが剣を手放す。
傷を押さえるその隙を逃さず、踏み込む。
エストックに作り変え、刺突にかかり──
──身体に、激痛が走った。
「がっ──!?」
姿勢を崩し、膝をつく。
痛みの元──肩の辺りに触れると、ベッタリと血がついていた。
「な……なん、だ……?」
「ロウ殿!?」
俺の様子を見て、タイカンが目を丸くして駆け寄ってくる。
「──肩を背後から射抜かれている」
「無理に動かすのは危険です。すぐに医者を呼ばなければ──!」
俺の傷を見て、助言を送るタイカン。
どうやら、彼がやったわけではないらしい。
──ということは。
『──何してやがんだテメェ──!!!』
場外から怒号が響く。
アッシュのものだ。
タイカンと共に声の方へ向かう。
──場外では、アッシュが騎士の一人を斬り伏せていた。
「──っ!?アッシュ!何してる!」
「コイツがお前に向けて風の魔法の矢を撃ち込んだ!」
「自分の大将が負けそうだからって、手ェ出しやがったんだ!」
怒りに満ちた顔で、剣についた血を払いながら叫ぶ。
「だからって斬りつけることはないだろ!そんなことしたら──」
俺の言葉をかき消すように、騎士たちの怒声が響いてくる。
騎士たちが次々と剣を抜く。
魔王軍も迎え撃つように武器を構える。
誰かが止めるには、もう遅かった。
──戦争が、始まってしまった。




