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城砦騎士 対 錬鉄の魔法使い

応接間を出て、城壁に戻る。


あの後、ハンカチを拾って決闘を受けることにした。

断れば俺やリエルたちの名誉に関わる。

俺はともかく、リエルの名前に泥は塗れない。


城壁の外は、物々しい雰囲気だった。

タイカンの部下も影の国の兵士たちも、武器こそ構えていなかったが互いに睨み合っていた。


俺たちが戻ってきたことで、両陣営ともざわつく。


「タイカンさんが戻ってきた」

「話はついたんだろうか」

「救世主はどうするんだ?」


「ロウ、話し合いはどうなったんだ?」

「何もされなかったか?」

「お前はどこにも行かないよな?」


タイカンは片手を上げて、部下を鎮める。

俺はというと、全員の声に一言ずつ返していった。


「大丈夫だ」

「何もされてない」

「俺はどこにも行かない」


俺の返答に、兵士たちは安堵したり、笑っていた。


俺を囲む兵士たちの先に、アッシュがいた。


「よう。どうだったよ、話し合いは」


「どうも何も、完全に俺たちが悪役だよ」

「決闘で俺の目を覚まさせてやるってさ」


呆れたような俺の物言いに、アッシュが軽く笑う。


「ハハッ、そりゃあ良い。逆にその鼻っ柱へし折ってやれ」


アッシュが拳を差し出す。

俺も拳を出して、突き合わせた。


騎士と兵士たちに囲まれるように、タイカンと向かい合わせに立つ。


タイカンが右手を掲げ、声高に宣誓する。


「諸君、我々はこれより、使命を賭けた決闘を行う!」

「私が勝てば、救世主は我らの下に帰ってくる!」

「救世主、黒騎士ロウが勝てばこの話は無し!我々は救世主を連れ帰れぬまま帰還し、陽の国最大の脅威の誕生を、ユーゴ王に伝えなければならない!」


……この条件、改めて考えると俺たちが不利すぎないか?

ジークは“どうせこっちの条件なんざ聞きゃしねえよ”なんて言っていたが、本当にそうだっただろうか。

少なくとも、タイカンは話くらいは聞いてくれたと思うが。


そんなことを考えている間にも、タイカンは話を続ける。


「決闘のルールは一対一の白兵戦!」

「指定の範囲の外に出るか、倒れた方が敗者となる!」


「では、レイン殿!よろしく頼む!」


タイカンの声の後、レインが地面に手をつき、呪文を唱える。


「──隆起せよ(ブルート)」


レインの手から光が走り、俺とタイカンを囲み円状に広がる。


地響きと共に、地面が隆起する。

三メートルほど迫り上がったところで、隆起が止まる。


「……思ったより高いぞ。大丈夫なのか?」


一メートルは一命取る、なんて格言もある。

いくら鎧を着込んでいても、これは──


「ご心配なく。万が一のことがあっても、私が安全に受け止めますから」


レインの声はどこか自信に満ちていた。

胸元で小さくガッツポーズまで作っている。


「……まあ、なんだ。ありがたいけど、落ちたら負けだから落ちないことを祈っててくれ」


俺の苦笑いに、レインがルールを思い出したようにハッとした顔をする。

思えば、レインも随分コロコロと表情を変えるようになった。

彼女の顔を見ると、不思議と肩の力が抜ける。


「随分と、魔王軍の方々と仲が良いのですね」


タイカンが俺の様子を見て口を開く。

少々トゲを感じる口調だ。


「まあな。少なくとも、そっちのお偉方よりよっぽど手厚い歓迎をしてくれたからな」


少しばかり皮肉を込めて言い返す。

事実、陽の国で死にかけて影の国で命を繋いだわけだし、嘘は言っていない。

だが、タイカンはまだ疑っているようだった。


「やはり妙です」

「我らの救世主が、自ら魔王軍に肩入れするなど考えられない」


「……よほど、強い洗脳か記憶操作をされたのでしょう」

「大抵のものは叩けば治る。テオドール卿の言葉、ここで実践する時です」


「──あの爺さん、サラッとなんてこと教えてんだ……!」


タイカンが気合いを入れるように脇を締める。

彼は、本気で俺を叩いて正気に戻す気だ。


俺は家電製品じゃないぞ。

そのツッコミは、ここでは通じないから飲み込んだ。


ホーディが両手を広げ、呪文を唱える。

着装(アレガート)


呪文の直後、彼の身体を鎧が纏う。

背中には、彼のハルバードが背負われている。

頭上に兜が現れ、それを両手で掴み、被る。


「さあ、あなたも武装なさい」


兜の位置を合わせて、俺に手を差し出す。

言葉に従い、俺も呪文を唱える。


「──錬成(ビルドアップ)!」


呪文と同時に、光を纏う。

光が鎧として実体を持った後、背中にマントがたなびく。

少しだけ、カッコつけに追加してみたものだ。


武装錬成(アームズアップ)


もう一つ呪文を唱え、大ぶりな両手剣を造る。

重心を剣先に寄せ、より叩き斬る用途に特化させた剣だ。


「ほう。先ほどと様相が変わりましたね」


「アンタに合わせた特別製だからな」


言葉を交え、武器を構える。


鳥人の兵士が一人、笛を加えて空に羽ばたく。

俺たちの姿を見て、思い切り笛を吹き鳴らした。


「──ッ!」


先に仕掛けたのは俺だった。

姿勢を低くし、一気に懐へ潜り込む。

そのまま身体を跳ね上げ、斬り上げる。


「甘いっ!」


一歩下がり、ハルバードの斧で剣を受け止められる。

そのまま柄を捻られ、俺の剣が弾き上げられた。


「はっ──!」


間髪入れずに槍穂が胴体を狙って突き出される。

大股の踏み込みとタイカンの腕力が合わさった、一瞬にも思える速さの突き。


「──っ!再錬成(リビルド)──!」


咄嗟に剣を大型の盾に作り替え、無理やり腕を振り下ろして防御する。

直撃は避けたが、吹き飛ばされた。


「が──っ!」


姿勢をどうにか保ったまま着地し、後ずさる。

再び盾を剣に戻して構え直す──


「っ!?」


タイカンが身体を捻りつつ、肩口から大きくハルバードを振り回し、横薙ぎに振り抜いていた。

遠心力とテコの原理を用いた、強烈な一撃。


「ぬんっ──!」


刃が胴体めがけて振り抜かれる。

剣で受け止めるが、危うく吹き飛ばされそうになる。


再錬成(リビルド)──っ」


腰から下の鎧を増設し、重量を加えて無理やり留まる。

だが、それでも俺を弾き出そうとする力は受けきれず、横に数センチほどズラされた。


「ぐぅっ──!?」


「どうしました!?黒騎士とはこの程度ですか!?」


ギリギリと刃が擦れる音がする。

横目に剣を見ると、わずかにハルバードの刃が俺の剣に食い込んでいた。


「──まだ、まだぁ──っ!!」


剣に魔力を巡らせ、力を乗せる。

魔力で刀身を強化して、少しずつハルバードを押し返す。

それでも、刃がさらに剣に食い込んでくる。

砕ける寸前、身体を捻って強引に前へ踏み込む。

剣は真っ二つに折れたが──


「──修復(リペア)!!」


呪文を唱えて、剣を直す。

折れた刀身が砕け、新たな刀身が形成される。

傷一つない真新しい剣を、タイカンに向けて振り抜く。


「──ほう!」


瞬時に柄を引き、グルリと回して俺の剣を受け止める。


「これは、簡単には終わりませんね……!」

「当たり前だ、影の国の名誉がかかってるからな……!」


鍔迫り合いの中、言葉を交わす。

まだ、決闘は始まったばかりだ。

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