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紳士な騎士は視野が狭い

ジークの監視の下、タイカンを城壁の内側に入れる。


リエルとジークの出した条件は二つ。

城壁の外に、こちらの兵士の監視下で部下全員を待機させること。

タイカン自身は鎧も込みで武装の全てを解除すること。


彼ははそれで対話ができるならとあっさり承諾した。


応接間に入ると、レインが待機していた。


「どうぞ、座ってください」


レインの言葉に、礼をしてからタイカンが座る。

人を見た目で判断してはいけないが、荒っぽそうな外見で見習わなければと思うほど礼儀作法が身についている。

俺やアッシュなんかよりよっぽど礼儀正しい。


タイカンの後に、俺も座る。

俺の隣にレインが、タイカンの隣にはジークが立つ。


「では、改めて確認します」

「あなたの目的は黒騎士ロウを説得し、陽の国へ連れ戻すこと」

「武力をもって連行する意図はない、ということで良いですね?」


レインが進行役を務め、タイカンに問う。

彼は頷き、背筋を伸ばしたまま口を開く。


「その通り。これはテオドール卿の依頼です。それ以上は望まれませんでした」

「私も武力を行使することは望みません。我々の同志となる相手ですから」


タイカンがまっすぐな瞳で答える。

──この人は、俺が陽の国を出た経緯とかを知っているのだろうか。


もしも知った上で連れ戻そうとしているのなら、正直笑えない。


「では、ロウ。あなたの意見を聞かせてください」


レインが俺を見て、話を進める。


「──戻るはずがないだろう。そもそも俺はそのテオドールに殺されそうになったんだ」


「──なんですと?」


俺の言葉を聞いて、タイカンが眉をひそめる。

初めて、彼の表情が揺らいだ。


「あのテオドール卿が理由もなく他者を手にかけるわけがない。何か理由があるはずです」


「──アイツは俺を“失敗”と言った」

「多分、思ってたのと違う奴が召喚されたからだろうな」


信じられないといった顔をするタイカンに、淡々と続ける。

俺が見て、聞いて、体験したことを。


「召喚直後の俺は、呼ばれた理由も分かってなかったし、まともに戦えるだけの戦闘技術も魔法も持ってなかった」


「だから俺を消して、もう一度救世主を召喚しようとしたんだ」

「救世主の召喚に失敗したと知られれば、自分の名前に傷がつくからってな」


「これが、俺が召喚直後に受けた仕打ちだ」


部屋にいる全員が、静かに聞いていた。

最初に口を開いたのはタイカンだった。


「では、なぜあなたは今も生きているのです?」

「卿は陽の国随一の大魔法使い。卿がその気になれば殺す手段はいくらでもある」


眉をひそめたまま、疑問を口にする。


「──殺されずに済んだのは、俺が少しだけ魔法が使えたからだ」


腕に力を込めて、あの時使った盾を造る。

小さくて丸い、頼りない盾。

だが、こいつのおかげで今の俺がある。


「殺されそうになった時、俺は偶然これを造り出した」

「テオドールも見たことがなかった、古い魔法らしくてな」

「こいつを見て、少しは役に立つだろうと思ったんだろうな。おかげで王様への謁見を許された」


「──まあ、期待に応えられなかったから、王様もため息混じりに俺を追い出したんだが」


盾を消して、タイカンの顔を伺う。

彼の表情は晴れていなかった。

少し考え込むように目を伏せ、やがて顔を上げる。


「──やはり、腑に落ちません」

「確かに我が王は少々厳格すぎるきらいはありますが、それでも食客を無碍に追い出すなど考えられません」


疑念の篭った目で、俺を見る。


「──もしや、あなたがテオドール卿やユーゴ王を手にかけようとしたのでは?」


「──は?」


予想外の推理。

いくらなんでも飛躍しすぎだ。

何がどうなって、そうなるんだ。


「ちょっと待て、俺が王様たちを殺す理由がないだろ」

「こっちは呼ばれた理由も分からなかったって言ったはずだ」


なるべく冷静に反論する。

が、動揺で声音が少し強くなる。


「あなたの語るテオドール卿は、私の知るテオドール卿とはまるで別人なのですよ」


「私の知る卿は常に他者を気遣い、慮る紳士です」

「人々に智慧を授け、誰よりも人々の声に耳を傾けて、国の発展に大きく寄与している」

「そのような方がそんな暴挙に出るとは考えられない。とすれば──」


「記憶操作、あるいはあなた自身が操られていたと考えるのが自然でしょう」


唖然とする俺たちなど意にも介さず、さらに続ける。


「例えば、もしもあなた方魔王軍が召喚術に干渉していたとしたら?」

「あなたの記憶を、あるいはあなた自体を操作することは造作もない」


「あなたはこの世界の外から来たのですから、魔法に対しても無防備でしょう」


「あなたを一時的に乗っ取り、最大の脅威であるテオドール卿とユーゴ王を殺害して、あとは救世主として自陣営に招き入れれば──」


「そんなバカな話があるかよ!!」


タイカンの推理を、ジークが大声で遮る。


「何から何まで成り立ってねえ!推理ですらない妄想だ!」


「第一、どうやって俺たちがお前らの救世主召喚の日時を察知して干渉するってんだ!」


レインもジークの言葉に頷く。


確かに、戦争を終わらせる切り札の召喚なんて一大事に干渉できるだけの情報網と技術があれば、それこそ影の国が影から支配して終わりだろう。


ジークの反論に、タイカンは顔色を変えずに返す。


「しかし、あなた方影の国の住人が我が国に入り込んでいることも、我々は掴んでいます」


「街に潜ませて情報収集をしているのでしょう?」

「街だけでなく、城にも紛れ込ませて──」


パンッと、乾いた破裂音。

レインが手を叩いた音だった。


「タイカン・アームストロング。あなたは少々思い込みが過ぎるようです」

「そんな都合よく事が進むなら、お互い苦労はしないでしょう」


「それはそちらも同じでしょう。我らの救世主を引き込むなんて都合の良いことを成しているのですから」

「何か、隠し事があるのでは?」


レインとタイカンが睨み合う。

ジークは気づかれないように、静かに爪を立てて臨戦態勢を整えている。


「──話は平行線ですね」

「では、こうしましょう」


背後のジークを一瞥してから、タイカンが静かに立ち上がる。


「生憎手袋がありませんので、代わりにこれを」


白いハンカチを取り出し、俺の目の前に投げる。


「──黒騎士ロウ。貴殿に決闘を申し込む」

「貴殿の目を覚まさせ、我らと共に来ていただきます」


──なんで、こうなるんだ。

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