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12/29

新たな敵は、アッシュの因縁の相手だった。

アッシュとサンドイッチを食べてから約一週間。

彼が稽古場に帰ってきた。


「久しぶりだなロウ。またぶん投げにきてやったぞ」


肩を回しながら、俺に近づく。

その言葉に、以前のような敵意はなかった。


「おいおい、もう一週間経ってるんだぞ。男子三日会わざればなんとやらってな」


俺も指をパキパキと鳴らしながらアッシュに歩み寄る。

お互い、少し笑っていた。


二人で稽古場に入り、礼をして構える。

──稽古場に、風切音と乾いた音が何度か響き渡った。


結果は、三戦全敗。

アッシュは手を払いながら自信満々に鼻を鳴らした。


「まあ、肩慣らしくらいにはなったぜ」


「クッソ……イケると思ったのに……」


地面に転がったまま、俺は大きく伸びをするアッシュを見上げる。


「だがまあ、筋は良くなってる。三日は無理だろうが、三年あれば背中くらいは見えるかもな?」


アッシュが近づき、俺に手を差し伸べる。

周りから小さなどよめきが起こった。


「……首洗って、待ってろよ」


「おう、いつでも待ってるぜ」


立ち上がり、互いに顔を見合わせる。

試合が終わった後のグラウンドのような、爽やかな空気ができあがっていた。


だが、その空気はすぐに掻き消えた。


「──敵襲だ!陽の国の騎士団が来たぞ!」


──敵襲の報せの後、俺とアッシュはリエルの元に呼び出された。

他の兵士は既に防衛線に就いている。


「今回の襲撃ですが──これまでとは一線を画す事態です」


リエルが重々しく口を開く。

ただならぬ状況なのが、嫌でも伝わってくる。


「数が今までより多いとかか?だとしても、俺たちならなんとでも──」


アッシュの声を手で遮り、リエルが続ける。


「──城塞騎士、タイカン・アームストロング」


「名前は聞いたことがあるでしょう」


アッシュが目を見開く。

その反応からして、とんでもない相手であるのは分かった。


「何故、彼が来たのかは分かりませんが……本腰を入れて攻めに来た、と考えるのが妥当でしょう」


「でもよ、タイカンといや陽の国で最も防衛戦に長けた騎士だ。そんな奴をわざわざ前線に送るか?」


レインとジークの議論が白熱する。

俺とアッシュが入る隙はなかった。


「──ともかく、事態は深刻です」


「アッシュ、ロウ。他の騎士は皆がなんとかします」


「あなた達で、タイカンを止めてください」


リエルの言葉に、背筋が伸びる。

二人で返事をして、部屋を後にした。


「なあ、タイカンってのはどんな奴なんだ?」


城壁に移動しながらアッシュに聞く。

城塞騎士なんて異名を持ってるんだ、相当な猛者に違いない。


「タイカンは、剛力無双の重騎士だ」

「人間離れした筋肉で、常人の倍以上の重さの鎧を着て軽々と動き回る」

「背丈も二メートル超えの巨漢だ。しかも自分よりデカい槍みてえな武器を振り回すから、実際の攻撃範囲はもっと広い」


まるで実際に戦ったかのような口ぶりで語る。


「──陽の世界の故郷にいた頃、俺はアイツに挑んで敗けた」


「詳しいことは省くが……早い話、陽の国との戦争に負けたんだ、俺の故郷は」


「あの頃と変わってねえなら、自分から侵略なんざしなさそうなもんだが──アイツも、国に仕える騎士だからな」


ため息をついて、アッシュが走るペースを上げた。

追いつけず、置いて行かれる。

少し遅れて、城壁に到着した。


騎士の一団は、目と鼻の先まで迫っていた。

先頭に一際大きな騎士がいる。

見るからに分厚い、青い鎧。

巨大なハルバードを右手に携えている。

あれが、タイカンか。


兵士全員が警戒態勢を取る。

盾と槍を構えて、城門を守るように立ち塞がる。


「──やっぱ変わんねえな。あの野郎は」


鎧を着込みながらアッシュが呟く。

敵意と、ある種の羨望のような感情が混ざった声だった。


「お前も今のうちにあの鎧着とけよ。前みたいに戦ってる最中に徐々に着込むなんて真似、アイツには通用しないぞ」


「ああ。ちょうど最近できるようになったんだ。見てろよ」


アッシュの前で、呪文を唱える。


「──錬成(ビルドアップ)


直後。

黒い光を纏う。

光が実体を持ち、黒鉄の鎧が装着された。


「ほう?カッコいいじゃねえか」


俺の姿を見てアッシュが息を漏らす。


「じゃ、行こうぜ黒騎士」

「ああ、やってやろう」


アッシュと並んで前線に立つ。

騎士の一団が俺たちの前で止まった。


先頭の巨漢──タイカンが一歩前に出る。


「──武装(アームズアップ)


呪文を唱えて、剣を造る。

アッシュも剣を抜き、二人で構える。


張り詰めた、一触即発の空気。

最初に動きを見せたのはタイカンだった。


ハルバードを地面に突き立て、兜を脱ぐ。


「──ここに、黒騎士ロウ殿はいるか!」

「かの救世主と話がしたい!彼に会わせてはくれないか!」


「……は?」


アッシュと顔を見合わせる。

後ろの兵士たちもざわめいた。


「我々に戦意はない!その証を示す!」

「──総員、武装を解除せよ!」


タイカンが片手をあげて号令を出す。

背後の騎士達が武器を納め、地面に置く。

ホーディもまた、自身のハルバードを地面から引き抜き、横に置いた。


「どうする?」

「何かの作戦かもしれない」

「ジークさんは?」

「リエル様に伝えるべきでは」


兵士のどよめきが大きくなる。

これは、あまりよろしくないかもしれない。

ただでさえ練度に差がある状態で、もしここで不意を突かれたら瞬く間に崩壊してしまう。


「ご指名だぜ、黒騎士」


アッシュに肘でつつかれる。

そうは言っても、勝手はできない。

本来ならリエルかジークに指示を乞うべきだが──


「──黒騎士ロウは、ここにいる」


一歩前に出て、名乗りを上げる。

色々と考えてみたが、これがきっと一番丸く収まる。


リエルたちの指示を待つ時間はない。

名乗らなければ痺れを切らして攻撃するかもしれない。

いないと誤魔化しても、同じ結果になるだろう。


俺が出れば済む話だ。

それで犠牲者が減るなら、安いものだ。


「──貴殿が黒騎士ロウか。なるほど、確かに異名通りの黒い鎧だ」


タイカンが俺に近づいてくる。

手を突き出して制止する。


「それ以上は近づくな。目的はなんだ」


できるだけ淡々と、低い声を出して威圧する。

ここで舐められたらダメだ。


「貴殿と話がしたい。端的に言うと、我ら陽の国に戻ってほしいのだ、救世主殿」


「……何を言っているんだ?お前たちが追い出したんだろう」


「何を言いますか。貴殿の力が必要だから召喚したのですよ?」

「城を追われたと聞いた時は耳を疑いました。ましてや魔王に手を貸すなど──」


タイカンの言葉が途中で止まった。

背後から鋭い敵意を感じる。


アッシュが、凄まじい剣幕でタイカンを睨んでいた。


「リエル様が、魔王だと?」


今にも飛びかかりそうな気迫。

まずい、ここで斬りかかられたら全面衝突になりかねない。


「待てアッシュ!今は戦う時じゃない!」


「──アッシュ?」


タイカンがアッシュの方を見る。


「おお、君はあの時の獣人か!」

「生きていたとは驚きだ!」


顔を見て、嬉しそうな声をあげる。

だが、すぐに険しい顔になった。


「あの場から生き延びたにも関わらず魔王軍に下るとは……君の実力ならば陽の国の騎士を率いることもできただろうに」


悲しそうな声。

彼も、アッシュの実力を買っていたようだ。


タイカンの言葉を聞いて、アッシュがついに飛び出した。


「──どっちが魔王か、この場で分からせてやるよ!」


「っ!やめろアッシュ!相手は武装してないんだぞ!」


俺の制止も聞かず、ホーディに突っ込む。


瞬間。

鋼を掴む鈍い音が響く。

ジークがタイカンとアッシュの間に割り込み、アッシュの剣を掴んで止めていた。


「悪いな、ウチの若いモンが」

「話は聞かせてもらった。条件付きだが、ウチで詳しく聞いてやるよ」

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