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サンドイッチが俺とアッシュの架け橋になった。

──見慣れた天井が目に入る。

また医務室に運ばれたのか。


「おはようございます、ロウ」


レインが心配そうな目で俺を見つめる。

そうだ、確かアッシュに叩きのめされて──


「……アッシュは、どうしたんだ?」


最初に出た言葉は、それだった。


「彼は現在謹慎中です」


「訓練時間外及び、私怨による暴行行為」


「営倉で一週間、頭を冷やしてもらっています」


冷たい声が、部屋に響く。

妥当と言えば妥当な処分だろうか。


「……目が覚めて開口一番に彼の心配ですか?」


「骨折などの重大な怪我はなかったとはいえ、脳震盪と全身打撲」


「半日ほど、眠っていたのですよ?」


ベッドの横に屈み、目線を合わせる。


「──アッシュを、嫌ったりしていないのですか?」


まあ、好きか嫌いかで言えば、嫌いではある。

こうしてボコボコにされたのもそうだし、日頃からちょっかいを出されてもいた。


ただ。


「──嫌いというか、怖いな」


レインの目を覗き返す。


「でも、アイツの気持ちも分かるよ」


「居場所が奪われるかも、周りから必要とされなくなるかもって焦るのも、怖がるのも」


今までの稽古での動きを思い返す。

誰よりも洗練された、無駄のない動き。

どんな攻撃にも切り返す判断力。


「──奪われたくないから、あんなに強いんだ。アッシュは」


アッシュの強さは並の鍛錬でたどり着けるものではない。

戦いのことは詳しくないが、毎日叩きのめされていれば、それくらい分かる。


「それに、レインも悪く思ってはないんだろ?」


俺の問いに、レインは少し困ったように笑って答える。


「……そうですね。少し荒っぽいところはありますが、悪い人ではありません」


「彼が強さを求めるのは守るため。国も、仲間も、リエル様も、そして私も。そう言っていました」


「私がリエル様たちと同列に扱われているのは、少し気恥ずかしいですが……」


少し目を逸らしながら、そう呟いた。


そういえば、あの時もレインについてなにか言いかけていた。

アッシュにとって、レインは特別な何かがあるのだろうか。


「……それだけ大切にしてるってことだよ」


レインは、少し照れたように笑って部屋を後にした。

俺はそれを見届けてから、一つ決め事をして眠った。


──翌日。

レインに許可を取って、営倉に向かった。

手には二人分の食事。

肉が多めに挟まった、食べ応えのありそうなサンドイッチだ。


部屋の前で立ち止まり、声をかける。


「ようアッシュ、飯の時間だぞ」


「……何の用だ」


部屋の隅から、鋭い眼光が覗く。

敵意剥き出しの唸るような声。


「今日は俺が飯番だ。自分の分貰ったついでにな」


サンドイッチを取り出して、格子越しに差し出す。

アッシュは、動かなかった。


「テメェの施しは受けねえ」


「俺のじゃなくて、リエル様のだ。こんな時にまで意地張るなよ」


アッシュが頭を掻いて息を吐く。

少し考える素振りを見せて、やはりその場から動かなかった。


「……どうしても、受け取らないってか」


「なら、俺にも考えがあるぞ」


サンドイッチを引き戻し、包み紙を開ける。

瞬間、廊下にいい匂いが広がる。


そのまま、大きく一口食べた。


「おっ、美味いな。陽の国のホットサンドよりもしっかりした味付けで、肉も柔らかい」


そのまま二口、三口。

敢えて大袈裟に、美味そうに食べる。


「……なんのつもりだ」


「いや?食堂に持ち帰って食べてたら冷めて美味さが半減するだろうなと思って」


「にしても、マジで美味いな。食う手が止まんねえ」


あっという間に半分食べ終えた。

その後は、わざとゆっくり味わう。


「……はぁ」


「……よこせ。腹が減った」


アッシュが、折れた。


「最初からそう言えば良かったのに」


開けてない方のサンドイッチを差し出すと、奪うように手から引き抜かれた。


紙を開く音の後、少しだけ静寂が空間を包み。


「──美味え」


「だろ?」


その後は、無言で食べるアッシュにペースを合わせて食べていった。


お互い完食してから、先に口を開いたのはアッシュだった。


「──なんでだ」


「お前、俺が怖くねえのか、嫌いじゃねえのか」


俺を見て、問う。

あんな目に遭って、それでもこうして顔を見にくる俺のことが理解できないと、目で語っている。


「まあ、怖かったよ。それに嫌い寄りではあった」


「なんでか毎度手加減なしでぶん投げてくるし、俺に勝つ度に得意げに鼻鳴らしてくるし」


アッシュの目を見て、小さく息を吸う。


「──でも、この前本音を喋ってくれた。だから今は嫌いじゃない」


「また稽古でボコボコにされるんじゃないかって、ビビってる部分はあるけどな」


冗談めかして、笑いながら話す。

俺もアッシュに本音を話そう。

それが昨日、寝る前に決めたことだ。


俺の言葉を聞いたアッシュが目を丸くしていた。

少し考え込み、やがて笑った。


「……俺にビビってるようじゃ、まだまだだ」


「本気のジークさんはもっと強えんだからな」


俺を見る目に、敵意はなくなっていた。


「お前に勝つのはまだ先だよ。“まだ”な」


「フン、少し調子に乗ったら挑発か。さすがは“黒騎士ロウ”様だな」


お互い挑発し合って、軽く笑う。


少しは、打ち解けたかな。


「──これ、ついでに捨てといてくれ」


アッシュにサンドイッチの包み紙を渡される。

少しだけ、俺に触れる手の感触が優しい気がした。


一言返事をして、包み紙を受け取る。


「──あ、そうだ。言い忘れてたけど、このサンドイッチ作ったのレインだぞ」


「──っ!?」


アッシュが椅子から跳ねた。

……そんなに衝撃を受けるか。


「そういうのは先に言え!」


「悪い悪い。言おうと思ってたんだが、あまりの美味さに忘れてたんだ」


「レインにも伝えておくよ。アッシュも美味すぎて食い足りないって言ってたってな」


軽く手を振りながら横目でアッシュを見る。

彼は顔を真っ赤にして俺を睨んでいた。

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