学校
神様、世界をどうにかしてくれ。俺には何もできない。そう思って授業を受けていた。数学。何やら三角関数についてやっている。サイン、コサイン、タンジェント、シンコスコスシン、だから何。まあいいさ。俺という人間をより価値のあるものとするために俺は戦っているのさ。
学校の先生は楽しくてこんなことをやっているのか、お金のためなのか、俺はとにかく眠たかったよ。魔法が使いたかったよ。世界を滅ぼす魔法を一つ覚えたかった。一級魔法使いになれば良かったかな。まあそれは置いておくとして、クラスには様々な生徒がいた。
イケメン、DQN、美人、体育会系、そうやってレッテルを貼っているだけだ。俺と関係がある人は一人もいなかったかもしれない。彼らとどういう会話をしたいかということを考えるので精一杯だった。俺は孤独の中の旅人なのだ。中間期末でそこそこの点数を取っていればそれで満足なのだ。
それは真実ではなかったさ。俺は人を好きになることができない。いや、好みはあるのかもしれないが、どれがいいかなんて選べない。値踏みしていこうか、俺は左端の真ん中あたりに座っていた。女の子で可愛いのと言えば、大木星羅、伊佐冴子、遠藤歩美といったところか。
それがどうしたというんだい? 俺はハーレムでも作りたいというのか? キモいだろうね、オタクくん。そういうのがオチだったのかもしれないが、何か彼女たちのためにしてあげたいと思うのも、俺の性格だったかもしれない。いや、俺は別にオタクではないし、オタクでもいいのだが、その外にある無個性だったかもしれない。
人はどうやって人のことを知っていくのだろう。可愛い子には旅をさせろというではないか。俺は部活に入っていなかったので、自分の価値を証明する方法が最速帰宅記録を更新すること以外にない。あとは意外と可愛いなこいつと俺をそういう存在に見せかけることしかできない。格好良くありたいのだがね。
付き合ってくれといって付き合ってくれるなら苦労はしないよ、だが俺は別にセックス三昧をしたい訳ではない。キス天国に上りたい訳でもない。横にいてくれる人のために肩の力を抜きたいのだった。俺だって幸せの一つや二つ感じる権利はあるはずだ。だが証明しなければいけないのは、どうにも難しい。この世では女にモテるためには何か根拠がないといけないようだった。
イケメンには別になりたくない。俺はそこそこ普通以上の顔だから、これ以上良くすると中身のスカスカさに失望されるだけだった。だから丁度いい今で戦うべきだった。いや別に戦いたいとかそういう思いがある訳ではないのだが、もう少しだけ時間が欲しかった。彼女たちが他の男に奪われる前に。
また動き出す時の中でこれ以上に君を愛しているから、とでも言えば良かったなと思っていた。俺の中にあるものはエロースだというのか、股間を漲らせるに過ぎない矮小なものなのか、アガペーな響きを持っていても良かったのだが、まあ愛というのは役割によって分離できるものでもないはずだ。
授業はまだ続いていた。その浮遊館の中にいる先生の話など聞いていない。教科書通りの授業だ。教科書を読めばいい。俺もそういう仕事に就きたいのだが、教員採用試験に合格できるかね。まあ臨任になればまだワンチャンか。でも女は寄って来ないぞ。
だからさ、女にモテるかどうかが動機づけになるのは浅ましいって何度言えばわかるんだこいつ、と自分に言い聞かせた。こっそりスマートフォンを覗き込んだ。そこに書いてあるのは家族とのメッセージくらいだった。前進するためにはクラスメイトと連絡先を交換する他ないな、だが俺は後ろ向きに崖へ向かっている。
冗談なのだが、もっと楽しく生きたかったよ。俺の喜びを喜びとし、俺の悲しみを悲しみとしてくれる人と一緒にいたかった。だが神は俺を裁いていくだろう。聖なる方なのだ。仕方がない。それほど強く信じているという訳でもないのだが、愛とはなんだろうね。一生懸命考えておくよ。それが僕の人生の宿題さ。
休み時間に入っていった。誰にも話しかけられることはない。まあリアルというものを表現するにはこれで十分なのだが、俺はそれ以上の欲を出しているのかもしれない。トイレに篭ってゲームでもするぞ! そんな衝動に駆られた気がした。俺は爆弾のパズルゲームが好きなのだ。どこでもできるとは思うが、孤独を耐え抜くには丁度いいバランスだった。
命というのはどれほど大切なものなのだろう? そう考えていた。俺に話しかける女性というのは今後人生に現れるというのか、存在証明は簡単さ、俺がただそこに立っていればいい。そうすれば見かねて世界が憐んでくれる。世界とは何か、神とは何か、それが俺の課題かもしれない。モラトリアムを満喫しとけ。
一日はまだ終わりそうもない。今度は国語の授業が待っていた。現代文かな、どういう文章が美しいかとかではないはずだったが、読める文章というのは金になる。俺は金が欲しい訳ではない。承認欲求は強かったかもしれない。正確に言えば別に誰も認めなくてもいいが、認めるべきだと信じているというところか。
大木星羅を眺めていた。完成された横顔、高い鼻、長い髪、清楚系AV女優には向いているだろうな、なんてゲスなことを考えて、別に裸を見たいとは思わないが、見せてくれるならありがたいといったところだろうか。それで興奮するかは別問題なのだが、俺は興奮できるうちに子作りしたかったよ。
まあできなくてもいいのだが、俺の命を価値あると認められるということは、他の誰かを差し置いて、俺を選ぶものがいるということだった。そういう人のために一夫一妻で美しくエンドランを決めるというのもありだろう。ウィニングランか? まあどちらでも構わないのだが、俺は格好良いはずだった。
証明しないといけないのが辛いところだなと感じていた。誰かと話さなければ何も始まらないような世の中にいて、思えば会社員として採用されるためにも面接という通過儀礼を超えなければいけなかった。入社試験とか絶対に嫌だったが、まあ雇ってくれればどこでも良いが、それで俺の人生が正しい方向に捻じ曲げられるかというと全くもって微妙だった。
働くのは辛いかな。精神的な負担かな。かつて見た夢を思い出した。それは悪の王、偽の王が自分が持ち上げた岩に押しつぶされる中、イエス・キリストは巨大な十字架を背負って一歩一歩歩いていく、その後ろに大勢の人たちが付き従っているというものだった。どういう霊に見せられたものかは分からないが、俺はその時涙した。
救われるために信じてもいいかなと思ったりもするのだが、そもそも俺に救いなど必要あるのかも分からない。イエス・キリストがあなたの罪のために十字架につけられ、死んで墓に葬られ、三日目に復活した。今も生きている。それが本当なのだとして、俺と何の関係があるというのだろう。
何かに成功したら信じてあげてもいいですよ。っていうほど俺は打算的でもないから、心地良いところに止まっているだけかもしれない。最後には神に還る物語でありたいと願っていたのかもしれない。気がつけば現代文の授業が始まっていた。髪の長い女の先生、年齢に似つかわしくない格好をしているような人だった。
そんな人にも美女ですね、って言ってあげればフラグの一つや二つ立ったものだろうか? 俺は見境ないからな。いやそういう問題ではなく、俺と彼女の間の幸せというものを結婚やセックスという形でしか表現できないのはとても悲しいものだ。それ以上にもっと良い関係はあると信じたいものだ。
だが結局最高のところは中出しセックスに落ち着く世界だとしたら、俺は価値のあることなど永遠にできないのだと突きつけられている現状がある気がする。俺は俺の価値を証明するために生き続けなければならないというのか。毎日のように生きているだけで小さな喜びとして共感してくれる人はいないというものだったか。
俺は伊佐冴子を見た。彼女は比較的短い髪、いやなんていうんだ? 男のような感じではないのだが、俺の語彙力の限界がショートと説明しようとしている。彼女と付き合えたらどんな夜を過ごさせてもらえるのか考えた。罪深い人間の性よ。とでも言いたくなったものだったが、今日という日を共に過ごしてくれてありがとう。そこに彼女の意思なんて微塵もない訳だが。
何かが変わるといいなと俺は思っている。だから少しだけでも言葉を投げかけたいと思っている。現代文で何をしているかというとミロのヴィーナスの話、おっぱいおっぱい、揉みたい揉みたい。いやそうじゃない。失われているうからこその美しさがあるというような内容だった。そういうものかね。俺も去勢しちゃうか?
死んでもできないな。俺は俺であるために男根に執着し続けますぞ。誰かをイカせるまで、止まることのない永久機関であるように、なんて、それは俺の欲に対する弱さだとも知っている。ここいらで、俺を抱きしめてくれる女神がいないものかね、マリアがその役割を担ってはくれないものかね。
もちろんそんなやましい思いがある訳ではないが、俺は所詮勃起しながら女と話しているような惨めな存在なのだ。そんなつもりもなかったが、まあ興奮するのも無理はない。別に何をしようという訳でもない。今夜一発どうですかね、って自分の体に相談しているだけだったよ。そういうのがドン引きかね。
俺が俺という存在であるために失ってきたものの数に驚かされていた。もう少し生き方を見直したらどうかね、とも思うのだが、現代文の授業をブッチできるほど勇気がある訳でも、蛮勇に支配されている訳でもなかった。その日一日の行動のために永遠を決められるほど優れた判断力を持っている訳ではないのでね。
それはそれとして俺はどうすることで命を得ようとしているのか。救いとは何かを延々と考えていたい。何の能力もないのに救われたのだとして苦しむだけではないかとね。いやそれほど無能というつもりもないのだが、何か根本的に奪われたままの自分で戦えと強要されているようで嫌気も差すものだった。
格好良くなりたいという思いに支配されているようだった。ゲームの世界で完璧になれれば、現実でもそれなりに受け入れられたか? eスポーツというのがあるようだからな、何かをできるということは何でもできるということに近いのかもしれない。所詮俺には何もできませんよ。
国語の授業が終わった。現代文か、いやそんなことはどうでもいい。俺は学生の身分なのだが、これ以上国の方針に従いたいとは思わない。もっと根源的に自分の欲求に従って生きていたかったのだ。だとすれば何をするべきか、それが分からない。だからこの世界はつまらない。またその結論に至る。
自由になれれば良かったなとは思うなれど、自由になった先に何でもできるという束縛の中に置かれて、何もできなくなるだろう。そうなれば誰かを救うミニストリーに参加すれば良いものだったが、言葉によって救われる人というのは何ででも救われたんじゃないだろうか? そんな冷たい考えに襲われていた。
帰る時間ではなかったが、外に出たくなった。俺は自分の意思に反することはできない。だが何かに雁字搦めになっている。本当にやりたいことは何なのか? 勉強ではないはずだ。運動でもゲームでも、ない。楽しいことをしたい訳ではなく、やるべきことをしたかった。なのに何が与えられているというんだ。
タレントというのは賜物だとして、それで一山当てるのが人生なのだとしたら、俺はどれだけ無駄なことに執心しているというのだろう。少なくとも今は面白いことだけをしていたいのだが、人生というのは理不尽の連続であるものだ。女をたぶらかすことが目的ではなかったが、それくらいできないと俺という存在を否定されている気がして、負のループに戻ろうとするだけだった。
物語は成長が必須なのか、何か変わらないといけないのか。それが創作論だというのか。俺は絶対に変わらない。断言はしないが、三つ子の魂百までというように、俺はただ自分が昔から続けていることの延長線上にしかない。突然折れたり倒れたりするつもりなど更々ないのだ。
だとして真理に触れた時の反応というのは劇的なほど単純な変化をもたらすのかもしれないが、真理などあってもなくても、俺が存在しているということの鈍痛を癒せるほど愛に満ちたものではないかもしれない。聖霊が共にいてくださると主張されたって、俺の傷というものは俺を分裂させるほどに大きい。
いつものことだった。休み時間が始まった。男子が男子と話している。女子が女子と、くだらなくはないが、青春真っ盛りというほど初々しくもない。何とも言えないほどの現実に圧を掛けられていた。俺も話しかけられるのを待っていた。たまには人生を変えてみるかな、そう思って立ち上がった。
俺は教室から出て、廊下の手洗い場のようなところで、水を出して、それを飲もうとした。生きてるって感じるために。生きるってなんだ。善く生きるってなんだ。人間の生きる姿形とは何だ? それを誰が示すというのだ。様々なスタイルがある現代、これが一番良いというのはないだろう。与えられたものに忠実であれ、そう信じて生きるのだ。俺には何が与えられているというのだ。
たまには女の子と話しますかね。いやそれもできない、何もできない。勇気が欠けているのか。勇気はあっても嫌気に押し潰されているだけなのか。本当のところは分からない。早いところ完成してしまいたい人生ではあるのだが、完成した後も天に召されず、出来上がった車体で走行を続けなければいけないというのはどこか空しかった。
壊れるまで歩み続けるだけさ。そう自分に言い聞かせた。授業というのはこの後も続くのだろうが、何があったとしても、俺は教科書を読むだけの男だった。それで全てを知った気でいるのさ。先生の声で理解が促進されるほど、発せられる言葉の力を信じてもいなかったので。
とにかく不意に訪れる不安というものに対処しようと躍起になっていた。俺というもの不得の致すところ。平安というものを手に入れられればいいのだがね、それは煌めく黄金のようか。神から与えられし真の煌めきなのだとして、生きることも死ぬことも迷いがなくなればそれで良かったのだが。
今俺は死のうとしているかもしれない。生きることに意味を見出さないし、死ぬこともそうだ。だが死ななければ何か変わらない現状があると信じているのかもしれない。日常を繰り返していくことに果たしてどれだけの祝福が待っているというのか、世界を変えるだけの力を手に入れたくて仕方がなかった。
俺にとって世界を変えるとは何かと考えてみると、全てを終わりにする力を解放するに等しかった。そんなことができるのは、イエスくらいかもしれないが、イエスはイエスでこの世を愛しているのかもしれないし、最後の一人が救われるのを年甲斐もなく喜んでいるのかもしれない。二千二十数歳か。本当に生きているのかね。




