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王子と姫


(え……?迎えに来た……?)


「神風さん?何を言って……。」


「ゆめきちゃん、僕は君がサークルに入った時から気付いていたよ。でも、君はまだ僕の存在に気付いていない様だったから、本当は、ゆっくり時間をかけて思い出してもらおうと思っていたんだけど……今の僕には余裕がない。」


神風はそう言うと、抱きしめていた力を緩め、夢姫の手を取った。……そう、黒子のある手を。


「『ゆめきちゃん、僕、サッカー選手になる。お金もたくさん稼いで、あらゆる事からゆめきちゃんを守れるような強い男になる。そして、ゆめきちゃんをお嫁さんにするために迎えに行くから、それまで待っててくれる?』…その『約束』、もう忘れちゃったかな?」


(……その、フレーズ!!)


夢姫の頭の中にブワッと小さい時の情景が浮かんだ。

小学生だった頃の夢姫と、小さい男の子『ミツ君』と遊んだ、楽しかった記憶。

そして、彼がいなくなる前にした、あの『約束』。


「ま……さか……、ミツ君?」


神風は夢姫の手に、あの黒子に、優しく唇を落とした。

柔らかい感触と共に伝わる熱。

夢姫はびっくりして咄嗟に手を引こうとするも、神風は力を込めて夢姫の手を離さない。

そして、神風は恭しく手の甲に口付けた後、まるで恋人を見るかのようなトロッとした甘さを宿した薄茶色の双眼で夢姫の瞳を捉えた。

神風から伝わる熱に浮かされて、夢姫の頭はボーッとする。


「そうだよ。思い出してくれた?ゆめきちゃん」


「うそ……あの小さかった、ミツ君?本当に?」


「本当だよ。サッカー選手にはなれなかったけど、君を守れるだけの力は手に入れてきたつもりだ。だから、君を僕のお嫁さんにするために迎えに来た。……そう『約束』したでしょ?」


「あ、あの時はお互い子供だったし……っ!」


夢姫のその言葉に、途端に神風の瞳の色が変わる。

甘くトロッとした瞳は、途端に氷のように冷たく変わる。そして、瞳の奥には燃え盛る業火のような強い激情が宿っていた。


(こ、これは、何かマズい事を言ってしまった…!?)


神風の瞳から感じた殺気とも取れる激情に、夢姫は本能的に身の危機を感じて、神風から距離を取ろうと後すざった。

しかし、神風は夢姫を逃すまいと恭しく掲げていた手を強く引き、再び夢姫を抱きしめた。


「あっ!」


「子供だったから……?その約束は無効とでも言いたいの?僕は、一度した約束は最後まで守り通すよ。」


「そ、そんな!いきなり、そんな事言われても……。も、もしかして、私の事、からかってます?」


「僕はいつだって本気だ。どうしたら僕の気持ちを信じてくれる?……あの時にやった『王子と姫ごっこ』でもやったら信じてくれるかな?」



『王子と姫ごっこ』。

あれは昔、神風と遊んでいた時に夢姫が小虫の大群に襲われた時があり、神風が身を呈して守ってくれた事があった。

その後、夢姫が『守ってくれてありがとう!王子様みたいでカッコ良かった。』と言ったら、神風が『僕が王子ならゆめきちゃんは姫だね。王子と姫は仲良くしなきゃね。……姫、愛してます。』とほっぺにチューをしてきた事があった。

それ以来、虫が夢姫に近づくと決まって神風が『姫、お守りします!』と言って虫を退けて、最後は『ご褒美に姫の愛を下さい』と半ば強引に神風に迫られて必ずキスをしていたのだ。


「んなっ!?あ、あれは……っ!」


「試しにやってみようか。」


神風はそのまま強めに夢姫の手を引いて歩き出した。


「あっ!神風さん、何を!」


「安心して、痛い事はしない。それに、嫌なら殴って逃げればいい。」


神風は半ば強引に夢姫を連れて歩くと、ちょうどパーテーションと壁の間に挟まれた死角になる場所までやってきた。

そして、壁際に夢姫を追いやると壁に片腕を突いて夢姫の退路を奪った。


「ちょ!か、神風さん……っ!」


「さっき段差から姫をお守りしました。ご褒美に姫の愛を下さい。」


神風はそう言うと、夢姫の顎をくいっと持ち上げた。

色素の薄い綺麗な瞳の奥に、真っ赤に燃え盛る炎のような熱の篭った眼差し。

神風の双眼に見つめられた夢姫は、虫ピンで止められた蝶のように身動きが取れなくなった。


「かみ、か、ぜ……さ……。」


「ミツ君と、呼んで?」


「ミツ……くん……。」


(あ、ダメ。このまま、流されちゃう……。)


「そうだよ。……ゆめきちゃん、愛してます。」


神風はゆっくり角度を変えながら、顔を落として行く。

そして、夢姫の唇に自身の唇を押し当てた。



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