第一章 saide白銀の髪の少年―逃げ出した若君―⑥
領主は突然の闖入者たちを苦々しく眺めていたが、 ジンを見て、ユーナに視線を向け、またジンを見た。正確には彼のくたびれた外套や、泥に汚れた革靴を見た。
そして「なるほど。ならば、話は早い。」と一人ごち、すぐにまた余裕の笑みを浮かべた。
領主が威厳を取り戻すように胸を張り、ジンとユーナに向かって声を上げた。
「アルカの使者よ。報酬を出そう。」
その声に広間が静まりかえった。ジンが目を眇めて領主を見る。
ロナンが目を見開いて領主とジンを交互に見た。
領主は片手をあげてジンへ向かって広げてみせた。
「金貨五百枚、それで今回の件を忘れろ。このまま引き返し、何も見なかったことにしろ。」
ジンは無反応だった。ただ眇めた目で無表情に領主を眺めている。
その沈黙を領主は金額が足りないものと思ったようだった。
「足りないならば、もう五百枚出そう。金貨千枚でどうだ。」
金貨千枚。普通に暮らす民が、一生かかっても稼ぐのは難しい金額だ。
ユーナの表情が僅かに硬くなる。領主はこれほどの大金を積めば断られることなどない、と自信満々の様子だった。
「……領主殿」
ユーナが領主に何事かを訴えようとするが、その言葉は遮られた。
「君にもだ、少年。若いのにこんな仕事をしているのだ。金はいくらあっても困るまい」
「……。」
返す言葉が見つからず、ユーナが沈黙する。
「アルカとて慈善団体ではないだろう?黙って見逃すだけで、大金が手に入るのだ。悪い話ではあるまいよ。」
得意げな領主に、ジンが小さく息を吐いた。
そして笑った。
一見、いつもの飄々とした笑いに見えた。
けれど、その目にはハッとする程、冷たい光が宿っていた。
ジンは剣の柄に手を置く。
そしてゆっくりと口を開き、静かな低い声で告げた。
「アルカの使者なら、誰でも最初に教えられる言葉がある。」
その場にいる者たち全てがジンを見る。
ジンは領主をまっすぐに見据えた。
「――我ら、王冠に仕えず、旗に仕えず、ただ平和に仕えるのみ。」
ジンの声は決して大きくなかったが、広間全体に響き渡った。
「これが、アルカの理念だ。我々は大陸のどの国にも偏らず、どれほどの富にも屈せず、どんな力にも恐れず、争いの前に立つことを使命とする。ここにいるのも、誰か一人の利益のためじゃない。」
ジンの傍らに立つユーナが、静かに後を続けた。
「この印象が不正に使用されれば、多くの人が争いに巻き込まれるかもしれません。ローグレンの人も。ベルネシュの人も。」
「そういうことだから――」
ジンがユーナの言葉を引き継ぐ。
「悪いが、俺たちは買えない。」
広間に沈黙が広がった。
領主の顔から余裕の笑みが消えた。
「……そうか。ならば。」
手を上げて周囲の兵士たちに合図を送る。
「全員殺せ。」




