第二章 saide白銀の髪の少年―過去の影―⑦
南の倉庫街は夜になると静かだった。
日中は荷馬車と人足で溢れているが、この時間に灯りのついている建物はほとんどない。
三人は暗い路地を進んだ。
ジンが先頭、その後ろにユーナ、最後尾をアルバが歩く。
問題の染物工房に模した建物は大通りから一本離れた場所にあった。
ぼんやりと灯りがともされている入口には、見張りが二人立っていた。
先頭のジンが足を止めて振り返るなり、アルバに向かってこう言った。
「中に入ったら、俺の指示に従え。」
その指示に反対する気はなかったアルバだったが、思わず「なぜだ。」と聞き返してしまった。ジンはその質問に答える。
「俺の方がお前より強いから。」
アルバの顔が引きつった。
ジンは至極当然の顔をしている。自慢げでも誇らしげでもなく、ただ事実を述べただけ、そんな表情だ。
「……ずいぶんな自信だな。」低い声で言うアルバに、他人の技量ぐらい見りゃ分かるだろ。とあっさりと返して、もうこちらを見ようともしなかった。
そこまで言うなら見せてもらおう。
アルバがジンの後ろ姿に向かって囁く。
「突入の策はあるのか?」
ジンが前を見つめたまま「ある。」と答える。
「どんな策だ。」
「突入する。」
「それは策ではない!」
アルバがそう言い終わる前にジンは歩き出していた。
近づいてくる不審な人影に、「おい!」と見張りが声を上げる。
足を止めない不審者に、見張りが剣を抜くより早く、ジンが間合いへ入った。
アルバには最初、何が起こったのか分からなかった。
一人目の見張りの手首が返され、握ろうとしていた剣が石畳へ落とされる。
その一瞬後には、そのまま男の身体が回転し、壁へ叩きつけられていた。
それを見て、もう一人が短剣を抜いた。
ジンは鞘に入れたままの剣で相手の手首を打った。
短剣が飛ぶ。驚く相手の後ろに回り込んで、後頭部に一撃を入れた。
男が膝をついて倒れる。
アルバが息を吸って、吐く。その間に すべてが終わっていた。
「……今、何が。」
起きたのか。アルバが呻くようにつぶやいた。
その直後、「師匠、まだ来ます!」 ユーナの声が鋭く響く。
騒ぎに気付いたのか、建物の扉が開き、中から剣を構えた男が三人飛び出してきた。
ジンはそこで初めて剣を抜いた。刃が灯りを反射して不穏に輝く。
アルバは騎士団の副団長だ。数々の剣士出会い、その太刀筋を見て来た。
その上で、自分の剣の腕にはそこそこの自信があった。
だからこそ分かった。ジンの剣は尋常なものではない。
ただ速い、というだけではなかった。
無駄がない。さらに、相手の僅かな動きから次の行動を読み取っている。
だからこそ、相手が剣を振り上げる前から、次に何をするか知っているように動く。
一撃目を受け流し、その勢いを利用して二人目の進路を塞ぐ。
三人目が後ろへ回り込もうとした瞬間には、すでに身体の向きが変わっている。
しかも、ジンは剣を深く斬り込まない。手首、肩、太腿。戦闘不能にする最低限の傷だけを与える。……手加減している。
それなのに、相手は何一つさせてもらえない。
「アルバ!」
呼ばれて我に返った。横合いから男が迫っていた。
「くっ!」
なんとか相手の攻撃をかわし、斬り伏せる。
その間にジンはさらに四人倒していた。
ユーナも背後から近づいた男の足を払い、短剣を蹴り飛ばしている。
少年の剣技はまだ荒削りだったが、相手を倒すことより、自分と仲間を守ることに重きを置いた的確な動きだった。
きっとジンの教えなのだろう。
それから間もなくして、建物の地上部分は制圧された。




