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空飛ぶシエルと、まっ白なシロ  作者: ゆも
第一章:オルフェル島の空

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第7話:絶望

 カラス団は、思っていたより統率が取れていた。


 リーダーの眼帯カラスが一声鳴くたびに、群れ全体がさっと動く。二羽が上から圧力をかけて、二羽が横から挟んで、残りが退路を塞ぐ。シエルが右に逃げると右が、左に向けると左が、すでに埋まっている。


 まるで、最初から全部決まっていたみたいな動きだった。


「上!」とシロが叫んだ。


「わかってる!」


 絨毯を急上昇させる。でも上には別の二羽がいて、すぐに挟まれる。


「左!」


「塞がれてる!」


「右!」


「右も!」


「じゃあどこに行けばいいんだニャ!」


「それを考えてるのよ!」


 シエルは歯を食いしばって、頭を動かした。


 フォーメーションを崩すには、相手の予想を外すしかない。向こうは整然と動いている。逆に言えば、整然と動けない状況に持ち込めば、隙が生まれるはずだ。


 問題は、絨毯が万全じゃないことだった。


 縫い目がなんとか持ちこたえているが、さっきから端がばたばたしている。強引な動きをすれば、また裂けるかもしれない。


「シロ、鞄はどこにある?」


「リーダーが持ってる! 一番後ろのやつ!」


 後ろ。つまり包囲の外。


 シエルはざっと状況を頭の中に描いた。自分たちの周りを囲んでいるカラスが六羽。その後方にリーダーが一羽。鞄を持って、余裕そうに見ている。


 包囲を突破するか、包囲の中でリーダーだけをなんとかするか。


 どちらも今の絨毯の状態ではきつい。


「ねえシロ」


「なに」


「ルウのカフェ、どっちの方角?」


「さっき叫んだじゃないニャ。あっちニャ」


 シロが、リーダーカラスとは逆方向を指差した。


 南西。風下。


 シエルは少し考えた。


「もう一回叫んで」


「え? でもまだルウが来るかどうか……」


「叫んで。できるだけ大きい声で」


 シロはシエルの顔を見た。何かを察したのか、それ以上聞かなかった。


 腹の底から声を出した。


「ルウーーーッ!! こっちニャーーーーーッ!!!」


 声が、風に乗って広がった。


 カラスたちがざわりと動いた。シロの声に反応したのではない。突然の大声に、隊列が一瞬だけ乱れたのだ。


 その一瞬を、シエルは逃さなかった。


「つかまって!!」


 絨毯を、真下に向けた。


 急降下。ほとんど垂直落下に近い角度だ。カラスたちが反応するより早く、包囲の底を突き破る。


「ニャーーーッ!!」


「叫ばないで! 舌噛むよ!」


「噛んでないニャ! でも噛みそうニャ!!」


 包囲を抜けた。


 でも下にはまた別の二羽がいて、挟み込もうと翼を広げてくる。


 シエルは今度は水平に転換した。二羽の間を、紙一重でくぐり抜ける。


「うわっ!」


「ぎゃっ!」と二羽のカラスが互いにぶつかった。


 少しだけ、道が開けた。


 でも、リーダーはまだ後方にいる。このまま逃げれば助かるかもしれないが、鞄は取り返せない。


 シエルは歯を食いしばった。


 荷物は、届けなければいけない。


 受取人が待っている。


「シエル、後ろ!」


 振り返る間もなかった。


 リーダーカラスが、急降下してきた。正面から突っ込んできた三話と違って、今度は背後からだ。狙いは絨毯の縫い目。さっきシエルが修理した、一番弱いところ。


 見ていたのだ。ずっと。どこが弱点か、ちゃんと把握していた。


 ズル賢い、とはこういうことか、とシエルは思った。


 思ったが、体が動かなかった。


 避けられない。


 縫い目に爪がかかった瞬間、シエルは目をつぶった。


 絨毯が、また裂ける音がした。


 今度は、さっきより大きく。


 紐を引いても、絨毯が応えない。がくん、と機体全体が傾いた。


「シエル!!」


「……っ、大丈夫」


 大丈夫ではなかった。


 絨毯がまともに動かない。ゆっくりと、しかし確実に、高度が下がっていく。


 リーダーカラスが、ゆったりと旋回しながらこちらを見下ろしていた。急ぐ様子がない。このまま落ちるのを待っている。


 残りのカラスたちも、隊列を組み直して距離を取った。包囲ではなく、観客席のように並んでいる。


「……最悪ね」


 シエルは紐を握ったまま、静かに言った。


 シロが隣に来た。シエルと並んで、前を向いた。


「ごめん」


「なんで謝るの」


「俺のせいで、こんなことに……」


「あんたのせいじゃない。絨毯がボロかったのよ、最初から」


「それでも」


「シロ」


 シエルはシロを見た。


「あんたが今日一緒に来てくれなかったら、私一人でこの状況だった。それよりはましよ」


 シロが黙った。


 高度が、じわじわと下がり続けている。


 リーダーカラスが、また一声鳴いた。

 群れ全体がそれに応えた。

 勝ち誇った声だった。




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