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第43話 弔歌《ちょうか》

マリアンが床に倒れていた。


散らばった赤い髪が顔の半分を覆っていた。

金色の瞳だけが、まだ開いている。

けれど、その中にはもう何もなかった。


イノはその場に立ち尽くし、目を見開いた。


喉を何かに掴まれたようだった。

息が胸の奥で詰まり、吐き出すことも、飲み込むこともできなかった。


耳に届くすべてが、一枚の膜を隔てたように遠かった。

くぐもっていた。

何も聞こえなかった。


「……あ……」


マリアンを見た。


顔を上げてセイラスを見た。


また頭を下げてマリアンを見た。


次に顔を上げたとき、二人の背中はすでに外へ向かっていた。


「……あ……」


壊れた機械のように、意味のない動作を繰り返すだけだった。


周りの雑音が少しずつ戻ってきた。


杯のぶつかる音、椅子が床を引きずる音、低いざわめき、抑えきれていない笑い声さえあった。


すべてが戻ってきた。


イノはゆっくりと膝をついた。視線がマリアンの顔に貼りついて離れなかった。


手を伸ばした。マリアンの冷えた指を握ろうとして、空中で止まった。


指先が震えたまま、最後に拳に握り込まれた。


「イノ?大丈夫?」


ローナが駆け寄って、まず顔を見て、次に肩と腕を確かめた。傷一つなかった。


イノはローナを見なかった。ただマリアンの目を見ていた。


ローナは口を動かしかけて、結局何も聞かずに、しゃがんでそっとマリアンの目を閉じてやった。


酒場の店主がゆっくり歩いてきた。手に古い鉄スコップを持っていた。


「ここでは誰も助けてやれない……」


床に横たわるマリアンを一瞥して、スコップをイノに差し出した。


低く言った。


「どこか場所を見つけて、ちゃんと埋めてやれ」


イノは手を伸ばして受け取った。


何も言わなかった。ただ腰をかがめて、マリアンを抱き上げた。


思っていたより、ずっと軽かった。


彼女を抱いて、酒場の裏口から出ていった。


ローナは戸口に立ったまま、その背中を見送った。

何か言いたげに唇を動かしたが、声にはならなかった。


「帰れ、ローナ」店主が低く言った。声に諦めが混じっていた。


ローナはしばらく立っていてから、ゆっくりと振り返った。


——————


「ざく。」


イノは頭を下げたまま、一度、また一度と掘り続けた。


どのくらい掘り続けたか、わからなかった。


ただ機械的に振り上げ、落とす。


また振り上げ、また落とす。


土が跳ね、靴先と裾にかかった。何も感じなかった。


秋風が枝葉を抜けて、低いざわめきを立てた。


イノは、あの見慣れた大きな木の下に一人で立っていた。月明かりが枝の隙間から落ち、地面にまだらに散っていた。


手が痺れたとき、やっと止まった。


掘った穴を見下ろした。


長い時間が経ってから。


かすれた声で、言った。


「もう、いい」


——————


膝をついて、マリアンをそっと穴の中に下ろした。


動作はごく静かだった。


まるで——


まるで、目を覚ましてしまわないように。


土がわずかに崩れ、彼女の肩のまわりを包んだ。


それからイノは動かなくなった。


跪いたまま、両手を地面についた。

頭が少しずつ下がっていく。

それでも視線だけは、彼女の顔から離れなかった。


長かった。


風が向きを変えるほど。


月明かりが少しずれるほど。


一滴が落ちた。


彼女の額に落ちた。


二滴目。


三滴目。


——————


「マリアン……ごめん……」


イノがやっと口を開いた。


声が途中で切れた。


頭を下げた。肩が震え始めた。


「……ごめん」


もう彼女の名前を繰り返すことさえできなかった。


——————


手を伸ばして、マリアンの顔に散らばった赤い髪を一筋ずつ払いのけた。


蒼白な顔があらわになった。


それからスコップを手に取った。


土をかけ始めた。


一回目。


二回目。


三回目。


土が少しずつ落ちていく。


肩が隠れた。


手が隠れた。


首が隠れた。


土が彼女の顔を覆ったとき、イノはふいに止まった。


風の中で、何かが囁いた気がした。


(なぜ、救えると思った?)


(結果はもう見ていたはずだ)


「……」


スコップを握る手に、力がこもっていく。


背後で足音がした。


軽い。


なじみのある香りが風に乗って届いた。


セレイナがそこに立っていた。


新しい土盛りを見ていた。


その前に跪く少年を見ていた。


誰も何も言わなかった。


——————


しばらくして。


イノが言った。


「ずっと、そこにいたんですね」


頭を下げたまま自分の腕を見た。


皮膚はもう塞がっていた。砕けた骨も、最初から折れてなどいなかったように戻っていた。袖口に血がこびりついているだけだった。


返事はなかった。


「どうして、彼女を救わなかったんですか」


「できたはずです……あなたなら、できたはずなのに……」


声が少しずつ高くなった。


「見ていたんでしょう」


「俺が何もできなかったのも」


「彼女が殺されたのも」


「全部、見ていたんでしょう」


「それなのに……」


セレイナの方へ勢いよく振り返った。


「あなたは、動こうともしなかった!」


マントが軽く揺れた。


セレイナは一言も返さなかった。


イノの声が止まった。


——————


(そうだ。どうして、救う必要がある?)


「くそ……」


イノが目を閉じた。歯を食いしばった。涙と泥が顔で混ざっていた。


「ごめんなさい」


誰に向けて言っているのか、自分でもわからなかった。


マリアン。


セレイナ。


それとも今、すべての怒りを別の人間にぶつけた自分に。


セレイナは静かに見ていた。


「あなたが苦しいのはわかる。けれど、私にはわからない」


「彼女が死んだから?」

「それとも、救えなかったから?」


イノの指先がかすかに震えた。


セレイナがゆっくりと一歩近づいた。


「彼女のことだけを悲しんでいるわけではない」


イノは反論しなかった。


「でも私にはわからない」


セレイナは、膝をついたままの少年を静かに見下ろした。


「その場にいた誰もが見ていた。動いたのはあなただけだった」


「その場の誰よりも多くのことをした」


「なのに、なぜ最後に一番苦しんでいるのが、あなたなの?」


「なぜ?」


今度の声には、皮肉はなかった。

ただ、困惑だけがあった。


返事はなかった。


(なぜ救えなかった?)

(弱すぎたからだ)

(お前に罪はない)

(ただ、弱すぎた)

(このままなら)

(次は……)

(エリーナだ)


ゆっくりと顔を上げた。


「そうだ……」


声が、苦しみの底で、少しずつ憎しみに変わっていく。


(セイラスを止められる力があれば)


(イレーナの笑みを消せる力があれば)


「そうだ」


顔が歪んだ。


「力があれば……」


歯を食いしばり、一語ずつ、低く絞り出した。


「俺に、力があれば……」

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