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第40話 照魔石

グランソワ 議事堂 深夜

学院の最深部にある議事堂は、煌々と灯りがついていた。


天井の高い広間に、石柱が一本ずつ影の中に立っている。長卓が中央を横切り、燭台が一台また一台と並んで、年老いた幾つもの顔を照らしていた。


ロウェンは長卓の端に立って、軽く頭を下げた。


「こんな夜遅くにお集まりいただいて、申し訳ありません」


フラカは脇に立ったまま、無造作に小箱を卓上へ置いた。


「まずこれを」


一番近くにいた老人が目を落として箱の中の石を一瞥し、眉がわずかに動いた。


「フラカ嬢、これをどこで?」


別の一人も視線を向けた。


「察するに、これが照魔石というものでは?」


「今日、ロウェン様とロワク城東郊の村へ行きました」フラカが箱の中の照魔石を指した。「そこで、これが光りました」


卓の端でやっと片目を上げた者がいた。


「照魔石は……悪魔が近くにいると光る」


「そうです。私たちは——」


言い終わる前に、卓の中程に座った中年の男がゆっくり遮った。


「悪魔程度であれば、それは逐憲者ちくけんしゃの管轄だ。夜明け後にロワクに一番近い逐憲者に連絡して、現地を確認させればいい」


「『程度』とは何ですか」フラカがとうとう抑えきれなくなった。


「まだ話が終わっていません——」


「他にも何かあるのかね?」中年の男がフラカを見た。声は淡々としていた。


「フラカ嬢、物事は順を追って話すものだ」


フラカが歯を食いしばった。


「普通の悪魔ではありません」


いくつかの視線が一斉に向いた。


彼女は卓の上の照魔石を見つめ、一語一語区切るように言った。


「あの石が放った光は明るすぎました。普通の悪魔では絶対にない」


卓の端が一瞬静まった。


すぐに、誰かが淡々と口を開いた。


「照魔石が悪魔に反応して光るのは確かに間違いない。ただし光の強さと悪魔の格が比例するかどうかについては、いまだ統一した見解がない」


「師匠が言っていました——」


「師匠?」


中年の男の声に、明らかな嘲りが混じった。


「フラカ嬢の師匠とは、どちらの方かな?」


「ヘランド・青嵐せいらんです」


中年の男はそれを聞いてから、ゆっくりと椅子の背に体を預け、目の中の侮りを隠しもしなかった。


「ヘランドか。それならまあ、仕方ないな」


フラカの目が鋭くなった。


「バゼル、何を言っているんですか」


バゼルはフラカを見もせず言った。


「石が一つ光ったくらいで、学院中を叩き起こすとは」


フラカの手の甲に青筋が浮いた。


「気軽に人を派遣してはいけません。危険すぎる」


「危険?」バゼルがやっと視線をフラカへ向けた。


「ヘランド一人の言葉が、学院の判断の代わりにはならない」


フラカが目を上げた。


「ヘランド閣下がご覧になってきたものは、あなたの書庫に書かれたものより遥かに多いはずです」


「フラカ嬢、若いうちに年長者への礼儀を覚えた方がいい」


「何ですって」


別の一人も静かに続けた。


「フラカ嬢、あなたの師承は尊重している。ただ光の強さと格の相関については、現時点で公証がない」


「だったら今すぐ自分で見に行ってくださいよ!」


バゼルが極めて軽い嗤いを漏らした。


「フラカ嬢、わかっておいてもらいたい。この時間に各位がここに座っているのは、ロウェン様への礼儀であって、あなたへの礼儀ではない」


フラカの肩と背が一度に張り、卓の縁を掴んだ指が白くなった。次の瞬間にでも卓ごとひっくり返しそうだった。


「あなた——」


「もういい」


別の老人が取りなした。


「フラカ嬢の危機感が鋭いのは良いことだ。だが敏感さを結論と混同するのは、また別の話だ」


照魔石を一瞥して、淡々と言った。


「この場の大半はこの石を噂でしか知らない。そもそも目の前のこれが本物かどうか、それさえ定かではない」


フラカは呼吸まで乱れていた。


脇でロウェンがちらりと見た。


「落ち着け、フラカ」


口を開いた途端、広間の雑音がすっと低くなった。


フラカが振り向いた。目の中に抑えきれない怒りと、どこかやり場のない感情が混在していた。


ロウェンは長卓の向こうにいる面々を見て、口調は変わらず穏やかだった。


「仮にそうだとして。

皆さんは今すぐ何をしてほしいんでしょうか」


バゼルが頷き、顔にやっと満足の色が浮かんだ。


「さすがロウェン様は落ち着いておられる。父君そっくりだ」


フラカは拳を固めてロウェンを睨んでいた。しかし彼はすでに卓の向こうの面々を見ていた。


「この照魔石は、私のものです」


バゼルが少し止まった。


「ロウェン様の?」


「もし父がここにいたなら」ロウェンがわずかに目を上げ、視線をバゼルの顔に静かに置いた。「信じるに越したことはないと、必ずそう言うでしょう」


バゼルの表情が一瞬固まった。


ロウェンは続けた。


「照魔石は私のものですが、私の知識は在座の皆さんより多いわけではない。院長は現在王都にいる。騒ぎを大きくする必要はありません。」


少し間を置いた。


「ただ、フラカの言う通りであれば、高位の悪魔です。可能性があるだけでも、学院が全く準備しないというのは避けた方がいいかと思います」


老人たちがしばらく誰も口を開かなかった。


ロウェンが静かに笑った。


「提案があります。今夜の学院内の当番学生を、三年生以上に切り替えてください」


「ロウェン様、それは——」バゼルが口を開きかけたところで遮られた。


「私は学院の生徒として、一年生が夜間当番で何をしているか、皆さんより把握しています。首席監察官の御立場でいらっしゃるあなたも、もちろんよくご存知でしょう」


バゼルの顔色が沈んだ。


「その後の対応は夜明け後に、皆さんが天衡会てんこうかいと連携してから改めて判断してください。今夜は最低限の準備だけで十分です」


少し間を置いた。


「皆さんにはご面倒をおかけします」


バゼルが数息ほど見てから、何も言わなかった。


先ほどまで他人事のような顔をしていた何人かも、今は表情がわずかに変わっていた。


ロウェンが続けた。「東郊の調査については——」


「そちらは、私の者を行かせましょう」


声が、脇の暗がりから静かに落ちてきた。


一同がそちらを見ると、ユリアンが柱の影から歩み出てきた。


居合わせた何人かが即座に立ち上がった。


「第三皇子殿下」


ユリアンが軽く手を上げた。


「皆さん、どうかお座りください。学院の先輩方であり、私の師でもある方々です。お気遣いなく」


ロウェンがユリアンを見て、軽く頭を下げた。


「殿下」


フラカもそれに続いて半歩退いて礼をした。


「かしこまらないでください、ロウェン先輩」


ユリアンが小さく笑った。視線が照魔石に落ちてから、ロウェンの顔に戻った。


「しばらく聞いていました。先輩の仰る通りです。東郊の確認は私の者に任せてください」


背後の老人が頭を下げた。


「はい、殿下」


「よろしくお願いします」ロウェンが言った。


ユリアンが半歩近づいた。声は高くなかったが、在座の全員に届くには十分だった。


「公爵閣下からも、学院でロウェン先輩のことをよく気にかけるようにと言われていましたので」


卓の端に座っていた何人かが目を見合わせた。


ユリアンが一同を見渡した。


「ロウェン先輩のご提案、私も良いと思います。今夜はその方向で」


少し間を置いて、穏やかに笑った。「深夜にご足労いただき、ありがとうございました。これで解散にいたしましょう」


——————


解散後、広い広間にはフラカとロウェンだけが残った。彼女はまだ怒っていた。


「あの人たちどうかしてる!頭の中に何が詰まってるの!?」


ロウェンが笑って言った。


「石でも詰まってるんじゃないか?」


「え?」


フラカが一瞬固まり、あやうく怒りのまま笑い出しそうになった。


「今それを言う?」


ロウェンが肩を叩いた。


「高い椅子に座れば座るほど、怖くなるものだ。悪魔が来なければ、自分たちの空振りになる。本当に来たら、それは逐憲者の仕事だ。賭けに出ることを期待するのは難しいよ。


しかも、自分たちの理解を超えた悪魔となればなおさらだ」


フラカが歯を食いしばった。


「でもあれは確かに普通じゃない」


「わかってる」


「わかってない」


わざとロウェンを睨み上げた。


「さっきなんで止めたの」


「あのまま話し続けたら、今夜みんなが覚えるのは『悪魔がいる』じゃなくて『フラカが暴れた』になるから」


フラカは黙った。


二人は広間を出た。回廊の下を風が抜けて、彼女の額の髪を少し乱した。


ロウェンが足を止めた。


「信じてる」


フラカが一瞬止まった。


「俺は悪魔のことも、あの石のことも、お前ほど知らない。

でも、お前のことは知ってる」


彼女がしぶとく一言絞り出した。


「……許した」


ロウェンが笑い出した。


「珍しく素直じゃないか、今日」


「黙って」


「それで、これからどうする?」


フラカが眉を寄せた。


「まず師匠を探す」


「爺さん、今どこにいるか知ってるのか?」


「知るわけない」苛立たしそうに前髪を掻いた。


ロウェンが笑い声を上げた。


「家に連絡するよ」


フラカの足が止まった。


「え? もし外れだったら?」


「外れじゃない」


ロウェンは前を見たまま、口調はのんびりしていた。


「言っただろ、信じてるって」


フラカがかえって自信をなくした顔になった。


「……急にそう言われると余計に不安なんだけど」


「それにしても、あの石を爺さんに貰ったとはいえ……正直なところ、あれだけの代物を惜しげもなく渡すとは思えないんだよな」


彼女が瞬きした。


「どういう意味?」


「つまり」ロウェンがのんびり言った。「あの石は十中八九、爺さんが送ったものじゃない。岩帝がんていからのものだと思う」


「岩帝様が?」


「俺の誕生日のころ、岩帝がちょうど来たことがあっただろ。あのときに紛れ込ませたんじゃないかと踏んでる」


フラカがじっと見た。


「何でも勘で決めるんだから」


ロウェンが肩をすくめた。


「自分が信じられる理由を先に作っておきたいだけだ。

そうじゃないと、お前の肩を持つときに、胸を張れない。」


フラカの耳が少し熱くなって、顔を横に向けた。


「……ありがとう」


「え?」


ロウェンがわざと耳をフラカの方に傾けた。


「風が強くて聞こえなかった」


「うるさい!」

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