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カラパン 喋るパンダは着ぐるみではない  作者: 在江
第六章 六言六蔽の巻
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パンダ多様

 人間の巣にあった皮のお陰で、大輔はやっと服を手に入れた。

 裁縫を習ったこと、自分で縫い物をしたことも記憶になかった。(おぼろ)な記憶を頼りに作ったそれは、自分でもひどい出来だった。


 「おお、俺たちに近付いたな」


 「暖かそうで、良かった」


 服を着た大輔を見たパンダ達は、もちろん誰も(けな)さなかった。比べる物がないのだ。

 大輔は、冬眠までの寒い日々を、これまでになく快適に過ごした。



 春先に目覚めた彼を待ち受けていたのは、初めて見るピンクのパンダだった。


 「あたし、シャンシャン。ムームーの子を産むのや。よろしゅうな」


 「あ、おめでとう」


 大輔は空腹を堪えて祝福した。


 シャンシャンは、ロウロウの集落に住むパンダだった。大輔が冬眠している間に、ムームーとの婚姻が整ったらしい。

 大輔としては初対面だが、彼が寝ている間に随分と観察されていたようで、一方的に打ち解けた様子を見せられた。


 警戒されるよりは余程良い。彼も、他のパンダと同じように接するよう心掛けた。

 シャンシャンは好奇心旺盛で、器用でもあった。大輔の道具を全て使えるようになるまで、大した時間はかからなかった。


 「ダイスケ、これ便利やな。葉っぱだけ、さくさく取れるわ」


 「ダイスケ、見てみい。上手に編めたやろ」


 彼女は大輔の道具を使いこなすだけでなく、工夫して自分に合った道具まで作り出した。

 彼にとっては、自力で道具を作ってもらえるのは、ありがたいことだった。

 その分、他の作業に労力を回せた。


 嫁に来た、と言っても、シャンシャンは自由に二つの集落を出入りしていた。

 そのうち、彼女の友達である、他の雌パンダも姿を見せ始めた。


 「うわ、ほんまや。こんなん見たことない」


 「立派なもんやねえ」


 「ウチらにも、やり方教えてえな」


 類は友を呼ぶのか、他の雌パンダも皆器用で、道具を作れるパンダがたちまち増えた。


 そのうち、シャンシャンは子供を産んで、育児にかかりきりとなった。

 熊みたいに大きなパンダの赤ん坊が、手のひらに載るほど小さいことは、大輔も前世のテレビで見て知っていた。


 そんなに小さいのに産むのは大変苦しい、ということは、初めて知った。

 彼には、育児の本当の大変さはどうせわからないが、うっかりすると見失って踏み潰す可能性がある、という意味で、目が離せないのは理解できた。


 道具の作り手が減った分、大輔の仕事はまた増えた。

 しかし、以前ほどには大変でもなかった。シャンシャンが作った道具のストックを使わせてもらえたし、彼女の友達も手伝ってくれたからである。


 彼女たちは、ミョミョやチャンチャンなどとも親しく話し、中には恋仲のように見える組もあった。

 故郷を出て以来、ムームーたちは雄だけで過ごしてきた。居場所を得た上、伴侶をも得られたら、ここが新しい故郷になるだろう。



 ロウロウが訪ねてきた。ムームーとの会談に、大輔も呼ばれた。

 個室などはないから、聞きたい者は勝手に側へ来る。大輔が行ってみると、全員揃っていた。

 赤ん坊を腕に抱いたシャンシャンが、ムームーの隣に陣取っていた。


 「隣の奴らと、揉めている」


 ロウロウ側が隣のパンダの縄張りへ食い込み過ぎたのが、元々の原因らしい。この世界には、地図もなければ、きっちりとした境界線もない。多少の凸凹はお互い様、と暗黙の了解になっていた。


 「うっかり取り過ぎたんだな」


 ロウロウ達は、石器を使う。作業が(はかど)るから、夢中になって過剰に食料を持ち帰ることがしばしばあった。

 それはムームーたちも一緒で、これまでにも、大輔や出産前のシャンシャンが、保存食に仕立てていた。


 「(とが)められた時に、持っていた食料を全部渡したんだが、道具もよこせと言われた」


 今となっては、渡せば良かったのだろう。

 ムームーのところと同様に、ロウロウの集落にも予備の道具はあった筈だ。


 だが、折角集めた食べ物を全部引き渡した上に、道具も取られては、手ぶらで戻らねばならない。

 それに、初回から上手く使える物でもない。八つ当たりで捨てられるかも、と思うと、手間暇かけて作った道具を、はいそうですか、と渡せない気持ちは、大輔にも理解できた。


 「で、嫌だと答えたら、険悪(けんあく)になった」


 「そりゃあ、そうだろうな」


 ムームーが合いの手を入れる。

 そこで取っ組み合っていたら、その後の展開は違っていたかもしれないし、変わらなかったかもしれない。

 ともかく、相手は攻撃してこなかった。


 両腕いっぱいに、貰ったばかりの食料を抱えていたこともあるだろう。ロウロウ側のパンダは、相手が動かないのを見てとり、立ち去った。


 「その後、向こうの使者が来た」


 「何か、偉そうだな」


 野次馬で集まったチャンチャンが呟く。


 「そうなんだ」


 ロウロウが頷いた。

 聞けば、使者は、縄張りを侵した代償として、道具をいくつかよこせ、と主張したそうだ。


 ロウロウたちは、前に仲間が考えたように、ただ譲っても、宝の持ち腐れになるだけだから、作り方と使い方を教える、と提案した。


 道具の作り方も使い方も、大輔達から教わった時に、好きなように教えて良い、という許可を得ていた。

 著作権などという観念は、持ち合わせていないパンダだったが、大輔が先回りして、話をそのように持っていったのだ。

 いつか形になって、パンダ達に新しい文化をもたらすかもしれない。


 「それだけ親切にしたのに、何で揉めるの?」


 ミョミョも口出しする。彼も、呼ばれていないのに集まった口である。


 「断られた」


 ロウロウが続ける。


 「お前たちに教わるまでもない、だってさ」


 「うわ、自信あるねえ」


 「俺たちだって、最初は上手くできなかったのに」


 大輔の周りに集うパンダたちが、口々に言う。

 皆、話の先が見えていて、その上で続きを聞きたがっていた。まるで、昔話を聞く子供達のようだった。


 ロウロウ達は相談して、二種類の道具を渡した。石刃と竹籠である。どちらも自分達が苦労して作った品で、愛着があった。


 「大切に扱ってください、と添えて渡したんだ」


 使者は満足そうに受け取った。

 しばらくの間、ロウロウ達が注意していたこともあり、隣の縄張りのパンダ達を見かけることもなかった。


 それだけに、ある日突然、自分達の縄張りで他のパンダと出くわした時には驚いた。しかも、彼らは逃げたり謝ったりするどころか、いきなり襲いかかってきたという。


 「まるで人間みたいだった、と言っていたよ。あ、ダイスケのことじゃないよ」


 「わかっている」


 襲われたパンダはびっくり仰天(ぎょうてん)し、集めた食料を放り出して逃げ帰った。

 事件は一回で済まなかった。

 ロウロウ達は、少し遠出する度に、パンダに襲われるようになった。


 集めた話をまとめると、どうも彼らは、道具を奪おうとしているようだった。


 「便利だとわかって、もっと欲しくなったのかな」


 「もしかして、上手く使えなくて、壊しちゃったのかも」


 「俺たちも、同じように考えた」


 かつて対面した使者の様子から、いずれにしても頭を下げて頼むのが嫌で、手っ取り早く新たな道具を得ようとしているのではないか、と推測した。


 この度はロウロウたちも、作り方を教えましょうか、と御用聞きに行くほど親切ではなかった。

 相手が非礼なのだ。


 「これまでは何とかかわしているんだが、いつまでも続けられない。冬に入るし」


 「止めろって、使者を送る?」


 ムームーの言い方は、懐疑的だ。ロウロウも首を振った。


 「考えたんだが、質に取られそうでな」


 「行ったが最後、道具も仲間も帰ってこなさそうだよね」


 そこで沈黙が落ちた。

 大輔は、カラーパンダにも身勝手な手合いが存在したことに、密かに驚いていた。


 彼がこれまで出会った喋る生物は、ロウロウにせよ、ムームーにせよ、もっと言えばパンダ以外の鳥でさえ、いわゆるまともな存在ばかりだった。

 彼は、改めて、自分が幸運だったのだ、と感じたのだった。

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