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カラパン 喋るパンダは着ぐるみではない  作者: 在江
第六章 六言六蔽の巻
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コロニー襲撃 *

 ムームー達が食べ物のついでに人間の巣を探し歩く間、大輔は新たな拠点に残り、整備に努めた。


 笹藪を一部残して引き抜き、広い空間を作る。洞窟を広げ、内部の壁を整える。不要な木を切り倒して、木材にする。


 ログハウスを作るのが、大輔の当面の目標だった。合間に石を研いで道具を作り、自分の食料も確保した。

 基本的に、日が落ちれば活動停止である。なかなかに忙しい。


 この世界へ来てからあまりお腹が空かないのは、相変わらずだった。冬眠することも関係するかもしれない。

 だから、さほど食料関係に時間を割かずに済むのは、助かった。


 「ダイスケ。俺たち、(いくさ)することになった」


 昼の熱気が残る夜、暗い中でムームーが切り出した。見れば、暗がりの中で五対の目がきらきらと光っている。

 大輔は、一旦横になっていたのを、起き直った。


 「誰と戦うの?」


 「人間。奴らの巣を探したら、ロウロウの住処の近くに、三つもあった。しょっちゅう出くわす訳だ。しかも、そのうちの一つは大きくて、赤ん坊まで入れたら、二十人ぐらいいる」


 「すごいね」


 それだけの人数がひとところで生活するなら、何らかの社会性が出現している可能性がある。


 「そこの人たちも、誰も喋らないの?」


 「見ていた限り、喋らないな。大体、相手に用がある時は、まず殴っていた」


 それはもう絶望的だ、と大輔は思った。唸り声は出せる筈なのに、それすら惜しむ性質ということである。


 「ロウロウたちと協力して、小さい二つを潰す。ここはまだ人間に見つかっていないが、もしかしたら、取り逃した人間が逃げ込むかもしれない。警戒してくれ」


 「わかった。大きいところは、残すの?」


 「ひとまずは。二つ潰して、人間共がどういう動きを取るか観察する。問題がなくても、あれ以上大きくなるようだったら、いずれ潰すことになるとは思うが、簡単にはいかないだろう。その時は、ダイスケの手を借りる。考えておいてくれ」


 「うん」


 パンダ達が横になったので、大輔も(なら)った。彼はかつてパンダ達の前で人間を殺したし、彼らは大輔と人間を完全に別物と認識している。


 だからムームーは、大輔に人間を殺す手伝いを頼んだのだ。彼も、ここの世界の人間がどういう生き物かは、よく知っている。

 いずれ人間とは対立する関係で、ひとたび対立が表面化すれば、話し合いが不可能である以上、殺さざるを得ない。


 それでも大輔は、自分と似た形の生き物を、直接手にかけずに済めば、と願っていた。

 カラーパンダも普段は、動物殺しを躊躇(ちゅうちょ)する性質である。大輔が人間を殺した時も、引いていた。

 彼らが人間を排除しなければならない、と判断したなら、よほどのことである。従うのが正しい、と自分に言い聞かせた。



 ムームーや大輔が予想した通り、二つの小集団を潰した後、大きくなりすぎた人間の住処を叩くことになった。

 大輔は、人間の間に立ち入ると、誤って殺される可能性もあるため、後方から弓矢による援護射撃に回った。


 人間の住処を見るのは、久しぶりで、これほど大規模なものは初めてだった。

 彼らは、動物の骨と皮を使って住居を作っていた。


 それは、大輔やパンダ達が川の側で作った風除けにも(おと)稚拙(ちせつ)な代物ではあったが、確かに住居であった。


 この人間達は、骨と皮を道具として利用する知能を有していた。

 もし、もう少し長い目で見ることができたなら、いつか、何万年後かもしれないが、言葉を獲得したかもしれない。


 そう考えると、ここでこの集団を潰すのは、大輔の良心に(とが)める行為だった。しかし、彼に断るという選択肢はない。


 骨や皮を再利用する人間は、当然石器も使用していた。大輔のように研いだり磨いたりはせず、ひたすら割り欠き、適度な大きさや形になった石を直接手で握って使うだけである。

 それでも尖った石を持った人間の攻撃力は格段に上がり、カラーパンダ達を傷つけた。


 少し距離をとって見る立場だった大輔は、パンダと人間が殺し合う様に、なまじ戦闘の渦中にいるよりも凄惨(せいさん)さを感じた。

 もし自分も直接戦っていたら、殺すか殺されるかという瞬時の判断の連続に、むごさを感じる暇もなかったろう。


 石を持った腕ごと、パンダの胴体に突き刺す人間。振りかぶって殴りかかろうとする人間の、腕を折るパンダ。

 倒れた人間の上に馬乗りになり、最後の打撃を与えるパンダ。群がる人間に埋もれ、息も苦しそうなパンダ。


 パンダ同士の戦いとは違い、美しいどころか、血みどろの大虐殺だった。

 その最中へ大輔自身も弓をつがえ、矢を打ち込んでいるのだ。彼もこの殲滅(せんめつ)作戦の一翼を担っていた。


 全ての人間から命を奪うまでに、丸一日かかった。最後に残った人間が倒れて動かなくなる頃には、長い昼の光が夜の青に侵食されつつあった。


 「埋めるのは明日だな」


 「ああ。まず戻って、明日ここで落ち合おう」


 数度の人間狩りを経て、すっかり息の合ったコンビとなったロウロウとムームーが、互いに肩を叩いて相手を(ねぎら)う。


 カラーパンダ達は、川で血を洗い流した後、それぞれの拠点に戻った。大輔は、ムームーの後に付く。


 留守居を務めている間に大輔が整備したねぐらは、パンダ達にも好評だった。冬に備えて、風除けの壁も作り上げた。

 ログハウスは、まだ壁が立ち上がり始めた状態だ。パンダ一体入れば満杯のささやかな大きさで、完成後は倉庫にする予定だった。


 丸太を、平らになるよう組み合わせて積むのが、結構難しい。ノコギリやカンナや釘もなく、設計図も見本もない中、一から作るのだ。実際取り組んでみて、初めてわかることもある。



 翌朝、人間の巣に戻ったカラーパンダと大輔は、深い穴を幾つも掘った。人間の死骸は、早くも蟻や蝿が、臭く粘着質の液体の染み付いた体毛に絡みつき、汚らしい物体になっていた。

 それでも大輔の目には、人間として認識された。


 掘った穴に死骸を放り込み、土を被せて踏み固める。大輔が作った石製の道具を使っても、一日がかりの作業だった。

 こうした作業は三度目で、ロウロウ達も道具の扱いに大分慣れた様子だった。


 「これ、どうする?」


 帰ろうとする一同にチャンチャンが指したのは、骨と皮でできた建造物だった。


 「放っておけばいいだろう」


 ロウロウが言い捨てて歩き出す。ムームーは、大輔を見返った。


 「要る物があれば、持てるだけ持ち帰るぞ」


 大輔は疲れていたが、仲間の気遣いに報いるつもりで、側へ寄ってみた。

 骨と皮のテントは、既にボロボロで、骨組み、まさに骨だ、を使おうと思えば使える、という程度であった。


 その代わり、奥に積まれた毛皮は、捨ておくには勿体ない量だった。

 一枚一枚吟味する暇はなく、ムームー達に手伝ってもらい、運べるだけ運び出した。


 拠点へ戻ってから改めると、肉を落とし切れていなかったり、そもそも剥がし方が雑で皮として使えそうになかったり、質としては散々な物ばかりだった。

 大輔は、一部でも使えそうな部分があれば、切り取って保存することにした。


 それにしても、人間達は多くの生き物を狩っていた。中にはカラーパンダや人間の皮も混じっていた。

 さすがに人間を狩ったとは信じたくないが、例えば身内が死んで、その皮を剥ぎ取り再利用することを想像すると、どちらがましとも大輔には判じかねた。


 初めて見る皮もあった。大きさや残った爪などから推測して、熊や猪の類かと思われた。

 また、鹿のような模様や、山羊のような毛足の長い皮もあった。馬のタテガミ部分だけ残したような毛皮も、挟まっていた。


 大輔がこの世界へ来てから一年以上経つ。その間、ひと所へ留まるのではなく、あちこち移動を繰り返した。

 出会ったカラーパンダ以外の動物は、人間と鳥だけだった。しかし、実際には、大型動物にも多様な種が存在していた。


 「どうして、今まで会わなかったんだろう」


 「人間に狩られたからだよ」


 ミョミョが応じた。彼は、不要と判別された皮の片付けを手伝ってくれていた。


 「奴ら肉食の大食らいだもの。見かけたら片っ端から襲いかかるんだよ。鹿とか山羊みたいに穏やかな性格の生き物は、他の誰にも会わないよう、普段から隠れて生活しているんだよ。でなければ、狩り尽くされたんだね」


 大輔は、子供の頃に本で見た絶滅動物の話を思い出した。ドードーとリョコウバトは、人間に狩られて滅んだのだ。


 「会って話してみたいなあ」


 「いつかは会えるんじゃないかな。でも、山羊と猪は喋らなかったと思う」


 「そうなの?」


 「あれ、どうだったかな? 話しかけてみればわかるから、気にしなくても、いいか」


 大輔の困惑をよそに、ミョミョは自分で納得して、皮を捨てに去った。

 残された大輔は考える。ミョミョは確かに、喋らない動物がいる、と言った。同じ生き物でも、爬虫類以下、という区分は大輔が習った序列だが、つまりカエルや魚、昆虫その他の虫は喋らない。


 だから大輔も、前の世界にいた時と同じ感覚で、捕獲し解体し、食べたりすることもできる。


 鳥は喋っていた。カラーパンダも喋る。哺乳類は、全て大輔と同様に喋る世界なのだ、と思っていた。

 しかし、確かにこの世界にいる普通の人間は、喋らない。これまで彼は、人間と他の哺乳類の進化が、彼のいた世界と逆転した世界だ、と無意識に考えていたらしい。


 ミョミョの話が事実なら、単純にそうとも言い切れないことになる。その境界は何処にあるのだろうか。

 考えても、大輔には思いつかなかった。

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