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カラパン 喋るパンダは着ぐるみではない  作者: 在江
第六章 六言六蔽の巻
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放浪エンド

 パンダ達は以降、小屋を建てることも念頭に入れて土地を探すようになった。

 大輔の、川縁の拠点を作った実績を認めていたのである。ただ、残念ながら、希望通りの場所はなかなか見つからなかった。


 段々と気温は上がっていく。涼を求めて、自然とパンダ達は木々の奥へと分け入るようになった。

 再び、カラーパンダと遭遇する機会が増えてきた。交渉しては、断られる繰り返しを、大輔たちは辛抱強く続けた。



 そのような日々を経て、遂に、誰も使っていない半洞窟に行き当たった。

 崖の下が(えぐ)れてちょっとした洞穴になっており、少し奥へ広げれば、仲間全員が屋根の下で休むことも可能な広さを確保できそうだった。


 しかも、穴の前は笹藪だけで木が生えておらず、藪を払えば小屋を建てることもできそうな空間があった。あるいは、食料源として笹藪を残してもいい。


 「ここ、いいんじゃない?」


 チャンチャンが興奮する。他のパンダがいないことが、何よりの好条件だった。仲間達も同意する。


 「まず、今日はここで休むことにしよう。それから、周辺で食料調達がどのくらい可能か、調べに行こう」


 ムームーも興奮を抑えきれなかった。

 腰を落ち着けて、まずは目の前にある笹をむしゃむしゃ食べる。大輔は笹の代わりに、携帯食料の干魚と干果物を食べた。


 大輔が食べ終えても、カラーパンダ達は、笹を食べ続けている。ようやく見つけた理想の地に、安堵から手が止まらなくなっているようだった。


 「軽く周辺を見てくる」


 「あんまり離れないように、な」


 ムームーが手を止めずに言った。大輔は、まず崖を登ってみることにした。


 崖の周囲は木や草が生えていて、そのまま登ることはできなかった。

 登れそうな箇所を探して、周囲を巡る。


 梅のような実の成った木が生えていた。黄色く熟れた果実を、もいで食べる。

 梅と思われる味がした。杏かもしれない。


 前の世界では、梅は青いまま酒に漬けたりジャムにしたり、あるいは赤紫蘇で色を付けて梅干しにするイメージがある。黄色い梅は見た覚えがない。

 だから、大輔には、食べた物が梅かどうかの確信までは持てなかった。


 大輔は、味を確かめるために青い実を(かじ)るべきか逡巡し、止めた。


 「ひっ」


 悲鳴に似た鋭い呼吸音を耳にして、大輔は振り向きながら手にした石刀を構えた。


 茶白のカラーパンダが、逃げ去るところだった。無論、チャンチャンではない。

 大輔は後を追わず、声もかけなかった。辺りを見回してみたが、他には気配を感じなかった。


 警戒しつつ元の場所へ戻ると、ムームー達は満腹の体で全員ごろ寝をしていた。

 時刻は恐らく午後である。大輔は彼らを起こさず、側へ座って、周囲を見張り、音に注意を傾けた。



 ムームー達が目を覚ましたのは、夕方だった。幸いにも、彼らが寝ている間には、知らぬパンダも他の生き物も来なかった。


 「あー、お腹すいた」


 起きてすぐまた、目の前にある笹藪をちぎり出す。五体のカラーパンダによって、笹藪は早くも貧相な細い茎だけの藪と化しつつあった。


 「ダイスケ、食べ物はどのくらい見つかった?」


 チャンチャンが笹を口からはみ出させたまま、喋りかける。

 大輔が戻った時、彼もここで寝ていた。従って、先ほどの茶白パンダは、やはりチャンチャンではない。


 「梅の木があった」


 「梅。いいねえ。明日食べに行こう」


 「他のパンダに遭った」


 「何か言っていた?」


 ミョミョが呑気に尋ねる。


 「いや。話す前に、逃げられた」


 大輔の言葉で、パンダ達が座り直した。それでも手は止まらない。食べられるうちに食べておく意味で、正しい行動である。


 「また来るだろうな、複数で」


 ムームーが言って、周囲を見回す。(かげ)り始めた森の中は、昼間以上に見通しが効かない。

 吹き抜ける涼しい風も、今は音の聞き分けに邪魔である。


 「皆は、夜襲をかけることがあるのか?」


 「夜襲? 夜に動くのは、フクロウとかヤマネとかネズミとかコウモリとか‥‥他に誰かいたっけ? 必要があれば、鳥は夜でも結構動くよ」


 ミョミョが言う。大輔は、そのいずれにも遭遇したことがない。

 あまり食べる気もしないが、今言われた動物は食べないよう気をつけよう、と思う。


 「俺たちパンダは夜寝る。人間も、夜に襲ってきたことはない」


 ムームーが肝心なところを教えてくれた。


 「それなら、来るとしたら明日か」


 「だろうな」


 「どうする?」


 「来るのを待つしかないだろう。どうせ、俺たちがここに住んでもいいか、聞く必要がある。ダイスケは、初めのうち、姿を隠していた方がいい」


 「わかった」


 夕食を終えると、皆で崖下へ移動して横になった。

 大輔は、パンダ達が目隠しになる位置で寝ることになった。密集とまでは行かないが、発熱する毛皮に囲まれて寝るのは少々暑い。

 万が一、夜襲の心配があると思うと、あまり眠れなかった。



 笹藪をほぼ食い尽くしてしまったので、朝食用に、大輔が梅の木まで案内した。

 パンダ達は、青かろうが黄色かろうが、お構いなしに口へ入れた。またも彼らが食い尽くしそうなので、大輔も青い実を一つ、恐る恐る齧ってみた。


 記憶にある梅の味がした。美味しくて一粒全部食べてしまったが、今のところ生きている。

 更に笹藪を見つけたパンダ達は、葉をむしって満腹になるまで食べた。


 そうして元の崖下まで戻り、何となく転がっているところへ、他のカラーパンダ達がやってきた。

 大輔は大勢が密かに動く音を耳にして穴の方へ隠れたが、彼らの目を逃れるのに間に合ったかどうか、自信がなかった。


 「うわっ。酷すぎる」


 「皆殺しじゃないか」


 「奥へ隠れたぞ」


 「行けっ。仇だ」


 どどどっ、と大量の足音が急に起こった。地鳴りのような音は、たちまち大輔の隠れる穴の端まで近付いた。

 突然のことで、大輔は喉が締まって声が出せなかった。


 「ま、まっ」


 蚊の鳴くような音しか出ない。本能的に明るい方へ飛び出そうとしたが、腰が抜けてしまい、手足に力が入らない。


 「絶対この中にいる」


 「ぶっ殺してやる」


 「飛び込んだら、奴の思う壺だぞ」


 「止めろ〜」


 「ダイスケに何する気だ」


 「うひゃっ」


 「何だ何だ」


 どたどたばたばた、と地面が揺れるような気配を感じた。

 大輔は、懸命に手足に力を込め、なでさすり、そろそろと立ち上がった。恐る恐る外を覗く。


 カラーパンダ同士が、乱闘していた。

 紫白のムームーは赤白パンダと、緑白のミョミョは黄緑白パンダと、茶白のチャンチャンは青白パンダ、というように、それぞれ違う色のパンダと取っ組み合っていた。


 色の塊が激しく動き回る様を、大輔はこんな時なのに綺麗だと思った。

 相手方も五体で来たらしく、大輔を狙うパンダは見当たらない。


 それでも彼は念のため、石()()()を両手に握って、洞窟の入り口付近の物陰で待機した。

 石斧だと、一撃で殺してしまうかもしれない、と心配の故である。


 かといって、武器なしで来襲したカラーパンダと、相対する勇気もなかった。彼らの素手の強さは、よく知っていた。


 徐々に決着がつき始めた。パンダ同士で争う時は、たとえ敵でも降参すれば、命までは取らないようだった。

 ムームー達の圧勝だった。旅の間に鍛えられたと見える。大輔はほっとして、石つぶてを下ろした。


 「何だよ。脅かしやがって」


 「死んだふりなんて卑怯だぞ」


 「折角親切に敵討ちしてやろうとしたのに」


 相手のパンダ達は、負け惜しみのように、ぐちぐち文句を言い始めた。

 一応、攻撃は止めたようだが、大輔は怖くてまだ顔を出せなかった。


 「寝ていただけだよ」


 「勝手に決めつけないで」


 「急に襲ってきたのは、そっちじゃないか」


 「ダイスケは仲間だよ」


 チャンチャン達が言い返している。


 「ダイスケ、もう出てきていいよ」


 ムームーの声がした。



 大輔が喋っても、初対面のカラーパンダ達は、背後に別のパンダや鳥が隠れているのではないか、ときょろきょろしたり、大輔を回転させたり、なかなか納得しなかった。


 これまでパンダでも鳥でも、言葉が通じさえすれば普通にやり取りできていただけに、大輔は内心傷ついた。


 「わかった、わかったよ。言われてみれば、こいつは毛の生え方も違うし、俺たちがこれまで戦ってきた人間とは別の種族なんだろうな」


 長いやり取りの末、赤白パンダが言葉でも降参したことで、敵方パンダたちも(ほこ)を収めることにしたようだ。

 この赤白パンダは彼らのリーダー格で、ロウロウといった。


 聞けば、ロウロウの住む辺りは人間がやたら出没するらしく、しょっちゅう小競り合いが起きているという。


 「しかも、奴ら段々増えてきてやがる」


 「一度、巣を潰した方がいいんじゃないか。どこにあるか、把握しているのか?」


 ムームーが問うと、ロウロウは首を振った。大輔達は、驚いた。

 人間を殺すのは嫌でも、どこにどれだけ存在しているかぐらいは知っておかないと、例えば仲間を攫われた時に困るではないか。


 その話がきっかけで、大輔達は、見つけた場所へ住むことを了承された。

 先ほどの戦いで勝利したことも、理由のうちである。


 ムームー達は、人間達がどこから来ているのか、調査に協力することにした。

 集落を出てから一年以上かけて、大輔たちは、ようやく落ち着き先を見つけることができたのだった。

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