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カラパン 喋るパンダは着ぐるみではない  作者: 在江
第六章 六言六蔽の巻
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ダイスケ争奪戦

 「それでな、ムームー。お前のところのダイスケにも手伝ってもらって、奴らを懲らしめる方法がないものか、知恵を借りにきた」


 「向こうの陣容は、わかっているのか?」


 ムームーの口調が鋭くなる。


 「大分昔の記憶しかないんだが」


 「それじゃあ、失敗前提じゃないか」


 「まあまあ。今わかることを聞いておこう」


 尖るムームーを抑え、大輔は耳を傾けた。


 ロウロウの集落も、大輔達のところに比べればよほど大きかったが、そこに隣り合う敵方集落も、また大きかった。


 何年も前に、ロウロウが長の就任挨拶に訪れた時で、十七、八体ほど住んでいたと言う。場所も、周囲が小高くなった(くぼ)みにあり、近付きにくい。


 「住処から出入りする道は、全て見張られている」


 「他に隠れた道は? 洞窟とか?」


 「わからない」


 「だよね」


 「ダイスケは何か考えがあるか?」


 ロウロウが普通に尋ねてきたが、大輔はすぐに言葉が出なかった。

 対人間戦のように、全殺戮するならともかく、バラバラな個体を全員、生かさず殺さず、とは、言うほど簡単な話ではない。


 どうもロウロウは、自分で考えるのが苦手なようだ。代わりに頭を下げることを(いと)わないのは、感心である。

 パンダにも色々な性格があるのだな、と大輔はつくづく思う。


 「まず確認したいのは、彼らを殺してはいけない?」


 敢えて問いかけると、ムームーやロウロウが引くのがわかる。

 意外にも、側で授乳中のシャンシャンの方が、平然としている。彼女は熱心にやり取りを聞いていたが、感想すら一言も漏らさなかった。


 「相手が殺しにかかってきたら、反撃で殺してしまうこともあるけれど、同じ種族だと、まずないよね」


 素早く立ち直ったムームーが答える。彼は大輔と付き合いが長いから、本気で大輔がパンダを殺したがっている訳ではない、と知っている。


 「すると、時間をかけて降伏させる手段しか、思いつかない」


 「聞かせてくれ」


 ロウロウがすがるように言う。


 「方法は二つ。一つは、相手方の集落を包囲し、彼らが食糧収集に出られないよう見張る。もう一つは、襲ってきた奴を片端から捕まえて、返さない」


 いいじゃないか、と呟くカラーパンダたちの様子からは、この作戦のデメリットに思い至らないことが見て取れる。大輔は続けた。


 「相手方を包囲するために、こちらも見張りを大量に出さなければならない。見張りが仕事をしている間、食料集めは出来ないし、むしろ見張り自身の食料まで用意しなくてはならない。相手方の集落は大きいそうだね。彼らを止められるだけの数が、こちらにいるだろうか? そして、見張りの数を揃えられたとして、彼らが参った、と言うまでの間、いつになるのかわからない長い期間、冬の食料を貯め込みながら、見張りが食べる分まで用意できるだけの味方が残るだろうか」


 パンダたちが(うつむ)く。説明するまで、作戦を具体的に想像できなかったのである。


 「じゃあ、もう一つの方は?」


 ミョミョが期待を込めて尋ねた。


 「捕まえた敵の世話をしないといけない。逃げられないよう縛れば、食事を食べさせてやらねばならない。捕まえた数が増えれば、敵同士で縄を切って逃げないよう、居場所を工夫する必要があるし、彼らの分の食料を確保しなければならない。しかも、敵方は彼らを見捨てるかもしれないが、俺たちに、それは知らされない」


 「食わさなきゃええやん」


 初めてシャンシャンが口を開いた。赤ちゃんパンダは眠ったようだった。


 「もちろん、腹一杯食べさせる必要も余裕もない。死なない程度の加減は、お前たちの方が知っているだろう。それでも、いつまで飼えば引き取ってもらえるのかわからない余計なパンダを抱えるのは、こちらにリスクが高い。申し合わせて反乱を起こされるかもしれない上、うっかり死なせてしまえば、攻め込まれるいい口実にもなる」


 「難しいなあ」


ロウロウが頭を抱えた。


 「今できることは、食料集めの時には必ず集団で行って、奴らに会ったら、ぼこぼこにして追い返すぐらいかな」


 ムームーが折衷(せっちゅう)案を出した。ロウロウが目を輝かせる。


 「それがいい!」


 「解決にはならないけど、な。彼らが、こちらを避けるだけだろう」


 「それも懲りたことになるんじゃないか?」


 結局、実現可能なムームーの案に決まった。



 しばらくの間、ロウロウ達に(なら)ってムームー達も、食料集めにでかける時は、大輔とシャンシャン母子を除く全員で行った。

 留守居役の大輔は、念の為、弓矢を側に置いて見張りに努めた。


 ただ、冬の寒さには勝てなかった。誰も攻め込んだり迷い込んだりしないうちに、大輔は冬眠へ入った。



 目が覚めた時、大輔は一人だった。彼の上には、分厚い落ち葉の層が積まれており、泳ぐように掻き分けて浮上した。

 空腹よりも飢餓感と呼ぶべき激しい欲求に、歩を進めて明るい場所へ出ても、誰もいなかった。

 出た先は見覚えのあるような、ないような景色である。冬眠の間に場所を移されたのか。


 と、大輔の目が、木屑(きくず)の山を捉えた。

 ログハウス物置の残骸だった。飢えも忘れて大輔は駆け寄った。足元がふらつき、(つまず)きそうになる。

 近付いて、確信を得た。彼が初めて作ったまともな家は、完膚なきまでに壊されていた。


 大輔は木切れを掘り出した。中に石の道具をしまっておいたのだ。全部取り除くまでもなく、目指す道具は破片すら見つからないことがわかった。


 盗まれたのだ。しかし、代わりのように、干魚が並んでいた。

 大輔は、本能的に掴んで食べた。

 明らかに、意図的に置かれた物だ。毒入りかもしれない、などと考える間もなく、飲み下していた。

 彼が罠の可能性に思い至った時には、既に完食済みだった。幸い、体に異常はない。


 更に木切れを掘り起こし、火付セットや石の器、木の器まで見つけ出した。

 一番下に、石のナイフが隠されていた。仲間が、大輔のために用意したに違いなかった。


 彼はそれを使って水分も補給し、人心地をつけた。

 それまでの間、やはり誰にも会わなかった。


 大輔は、ロウロウの集落へ向かった。直接訪れたことはなかったが、大体の位置は覚えていた筈だった。

 実際に歩くと、微妙に記憶とずれていて、探し当てるのに時間を食った。


 どうにか着いてみると、木組みの塀のような囲みがあった。これは、全く記憶にない景色だった。

 折りしも、見覚えのあるピンク雌パンダが、子供を背中にくっつけて出てきた。


 子供は少し見ない間に随分大きくなって、大輔より体重がありそうだった。


 「シャンシャン」


 「あ、ダイスケ。おはよう。食べ物の場所は、わかった?」


 数ヶ月ぶりの再会と思えぬ軽い感じで、シャンシャンが話しかけてきた。

 やはりあの道具一式と食べ物は、シャンシャンが用意したものだった。


 彼女は食料集めではなく、散歩と食事に出てきたところだった。

 大輔は彼女の(たけのこ)掘りに付き合いながら、冬眠中に起きた出来事を聞いた。


 「奴ら、冬の最中に襲ってきたのよ」


 問い直すまでもなく、ロウロウたちにちょっかいをかけてきた、カラーパンダたちである。

 彼らは、ロウロウの集落ではなく、ムームー達のところへ直接乗り込んできたのだ。


 「ダイスケを狙ったんやと思う」


 シャンシャンの言葉を聞いて、大輔は震撼(しんかん)した。

 冬眠中に襲われたらどうなるのか。目覚めるのか、寝たまま死ぬのか。前の世界からここへ来る前に一度死んでいるらしいとはいえ、やはり死ぬのは怖い。


 当時、子供がまだ小さかったシャンシャンは、大輔が眠る奥の空間に近いところにいた。

 外の異様な騒がしさに気付いた彼女は、咄嗟(とっさ)に彼の上に床敷きの落ち葉を積み上げ、子供を一緒に隠したという。


 「ほんで、出てみたら、めちゃくちゃ」


 彼らは食べ物を求めていたらしく、大輔の作った物置はすでに壊されていた。

 大輔は身震いする。道具作りとしてではなく、()()()()()狙われた衝撃だ。


 飢えたカラーパンダは、同胞相手に生来の強さを発揮した。こういう戦いでは、遠慮した方が負ける。

 現にシャンシャンが見たのは、理性を残したムームー達が、劣勢にある状況だった。


 「このまま行ったら、終わりや、と思うたわ」


 しかし、彼女一体が戦いの場へ飛び込んでも、形勢が一気に逆転するとは思えなかった。

 彼女は大輔の道具置き場を見た。壊れた入り口から、道具や材料の石がこぼれ落ちている。


 雄パンダたちは、自分の手足を頼みにして、敵も味方も道具を使っていなかった。彼女は、様子を窺いつつ、道具を掴み出し、集落の外へ走り出た。


 ピンク白パンダは普段目立つ存在だが、戦場に赤い血が飛び散る中、それぞれ必死で組み合う最中でもあって、後を追われることはなかった。


 シャンシャンは裏から回り込み、集落を見下ろす小高い場所へ上がった。手に持つのは、大輔が作った弓矢である。


 「一撃必殺」


 以前に教わった程度で、転げ回るカラーパンダに狙いをつけるのは容易でなかった。それでも彼女は撃った。


 「ぎ? ゃあああああっ!」


 急所を外したせいで、けたたましい悲鳴を上げられた。

 だが、その声が敵を(ひる)ませ、味方を勇気付けた。彼女は狙いを定めて、確実に当てた。


 しばらくすると、ロウロウたちがやってきた。異様な悲鳴を耳にしたパンダが、様子を見にきたのだ。

 形勢は逆転した。


 「死んじゃったの?」

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