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カラパン 喋るパンダは着ぐるみではない  作者: 在江
第四章 四宇和平の巻
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ヌートリア強盗団

 翌朝、王宮から馬車が派遣された。前回と違い、黒白に塗り分けられていない。街を流す馬車と同じ形状だ。


 付き添いとかで来たパンダも、黒白ではなく赤白と青白だった。ちなみに雌である。

 ゴンゴンと色が被っていて、通常なら雌雄の別だけでは、俺に区別はつかない。幸い今の俺は、ゴンゴンと他のパンダの違いだけはわかるようになっていた。


 ピンピンは既に旅立った。馬車に乗るのは、王宮からの付き添い二体の他、俺とゴンゴンとホァンホァンである。

 今回弟子は、全員留守番だ。


 馬車は、オサカの街を北へ進む。あまり行った覚えのない方向である。間もなく、どう考えても初めて行く道へ入った。ただ、街の感じは変わらない。


 「どこまで行くんです?」


 普段の調子でうっかり口をきいたら、王宮パンダたちが一瞬びくりとした。いつもなら真っ先に質問するゴンゴンが、今日は大人しい。早くもピンピンの不在が堪えているのか。


 「キヨトや」


 ホァンホァンは、いつもと変わらない。キヨト、つまり京都、と脳内変換して納得する。

 流石(さすが)に、大阪と京都の大まかな位置関係ぐらいは、知っている。疑うわけじゃないが。


 道は整備されて広々としているものの、行き交う動物は、さほど多くない。オサカの賑わいに目が慣れたせいだろうか。


 否、ホコヤ方面からオサカへ向かう街道よりも、この界隈(かいわい)は寂しい。すれ違う相手は、馬にしろ牛にしろ、車を引いていて、話し声が聞こえない。そう言う俺たちも、馬車旅だ。


 しかも、今日の馬車は窓が小さい上に、木格子でがっちり塞がれており、護送用と見紛(みまが)う頑健なタイプだった。外の景色は、四角い隙間から眺めるしかない。


 「鳥が騒がしいな」


 ゴンゴンじゃない方の赤白パンダが、同僚の青白パンダに言った。

 馬車は、ガタゴトと常に騒音を立てている。おまけに川が近いのか、水音までする。

 俺には、鳥の鳴き声までは聞き分けられなかった。


 街道沿いの木に、ぽつんとオレンジ色の実が見えた。一瞬で後ろへ飛び去る。

 冬の間中、生き残っていたのか、春先の早なりか。もしかしたら、実じゃなくて花かもしれない。

 ばさばさ、と木の枝や葉っぱ同士が擦れるような音がした。


 「キャヒーン!」


 前方から悲鳴が聞こえた。馬のいななきだ。と思った瞬間、馬車が大きく後ろへ傾いた。俺たちは後ろの扉へぶつかった。

 弾みで扉が開き、地面へ転がり落ちた。


 反動を利用して起き上がると同時に身構えたのは、異常を感じた本能からだ。


 「いや〜っ。だから、こっち方面の仕事受けたくなかったのよ!」


 馬車は転覆せずに済んだが、引き手の馬が、ひんひん文句を(まく)し立てている。

 道を塞ぐように、木が倒れていた。枯れ木ではない。わざわざ倒したのだ。


 王宮パンダは、ホァンホァンを挟むように立ち、やはり攻撃の構えをとっていた。

 ぼうっと立っているように見えるのは、ゴンゴンだけである。


 「ちっ。見込み違いか」


 「前の牛車が良かったんちゃう?」


 「有金、全部出せ!」


 俺たちを取り囲むのは、巨大な雄ネズミだった。体の半分近くを占める長い尻尾を含めて、一メートルほどある。

 それが、オレンジ色の前歯を剥き出しに、脅しをかけている。


 「カピバラ?」


 動物園の温泉に浸かるテレビ映像が、記憶に(よみがえ)る。あの、ほっこり(いや)しキャラが、この世界で凶暴化しているとは。


 「ヌートリア族や」


 ホァンホァンが、すかさず訂正した。確かに、カピバラにオレンジの歯があるイメージはないし、言われてみればカピバラよりは小柄だ。

 それにしても、ヌートリア?


 「海外からの移民ですか?」


 「いや、元から住んどる」


 「何をごちゃごちゃぬかしとんねん。早う出すもん出せ、こらぁ」


 気になってつい質問を重ねたのが、ヌートリア強盗団の機嫌を損ねた。

 いかにもネズミらしい尻尾が、苛立たしく動く。巨大ミミズのようで、気持ち悪い。


 そういえばカピバラには、こういう尻尾がなかった。

 俺としては、何としても手荷物を奪われたくないのだが、なにぶん集団行動中である。一応、確認しておかねばなるまい。


 「殺したら、まずいですよね?」


 「あ、正当防衛で」


 「ふざけんなっ!」


 「なめとんのかっ!」


 青白パンダが答えるのと、強盗どもが襲いかかってくるのと、ほぼ同時だった。

 最初に、ざっと見えただけで十体近くいたのが、一斉攻撃を仕掛けた。


 俺の前に飛び出した三体が、一気に吹き飛ばされた。ゴンゴンだ。


 「僕、体を伸ばしたかったんだよね〜」


 「やろっ!」


 木の上からも降ってきたのも、ゴンゴンが殴り飛ばす。オレンジ色の前歯が鋭く迫る。


 俺も、襲ってきた奴に応戦した。噛まれたら未知のウイルスに感染するかも、と思うと、加減する余裕はない。

 殴る、蹴る、ワイヤを振って薙ぎ倒す。


 ヌートリアたちは、仲間がやられても戦闘意欲を失わず、むしろ興奮を高めているようだった。

 次から次へと特攻するヌートリアに、王宮パンダたちも反撃し続ける。


 意外にもホァンホァンまでもが、襲いかかってきた奴を軽く投げ飛ばしていた。すぐ転がるヌートリアの攻撃力はさほどでもないが、立ち直りが早いのか、数が多いのか、切れ目なく襲ってくる。


 ばさばさばさ。空が暗くなったと思うと、上から羽音と共に葉っぱが降ってきた。


 「くそっ。応援や!」


 「引けっ!」


 「覚えとき!」


 潮が引くように、巨大ネズミの群れは消えていった。倒れた仲間は放置である。

 そこへ、カラスと鷹が何羽か降りてきた。ロープの束を持っている者もいる。


 「えろう遅なって、すみまへん」


 カラスが謝る。赤白パンダが息を切らしながら、腕を振る。


 「間に合うとる。地上部隊も来るやろ?」


 「はい。頼んどります」


 カラス達は、転がるヌートリアを器用に縛り上げる。七、八体もあった。総勢二十体近くいたのではあるまいか。

 今更ながら、鳥肌が立った。奴らは、こちらを殺すつもりで襲ってきた。下手に仏心を出したら、俺が死んでいた。


 「ホァンホァン師、ご無事で」


 馬に直接乗った、黒白パンダが数体現れた。パンダ、馬にも乗れるのか。

 いや、背中に乗せてくれる馬もいるのか。


 後から、荷車を引いた馬がついてくる。彼らは縛ったヌートリアを荷台に載せたり、王宮パンダと共に倒木を片付けたりし始めた。


 「王の庇護は受けへん言うてな」


 手隙(てすき)なホァンホァンが、同じく傍観する俺に説明を始めた。


 「自治を要求しおった」


 「強盗が生業なんですか?」


 縛られたヌートリアは、(うめ)いている者もあれば、落とされても動かない者もいた。


 「自力で稼ぐとな。貨幣経済に組み込まれたない言うさかい。食糧栽培やら、鳥族みたいな信用経済の仕組みやら提案したんやけど」


 「鳥?」


 「銭を持ち歩くの大変やろ。そやさかい、登録票を脚か首につけてもろて、それと足型で決済して、後で請求するんや」


 俺は言葉が出なかった。これまで技術的に遅れていると思っていた世界で、いきなり思いもかけないレベルの話をされたのだ。


 思い返してみれば、カアクローが貨幣をじゃらじゃら持ち歩くところは見た記憶がない。いつ食事しているのだろう、とうっすら疑問に思っていたぐらいだ。


 これはもう、遅れているとか進んでいるとかではなく、別の文化と考えるべきなのだろう。

 なかなか、前の世界にいた時の感覚が抜けない。


 「全部拒否した挙句、これなんやんな。その代わり言うたら何やけど、こうした戦闘で死者が出ても、抗議もせな、引き取りにも来えへん。年二、三回いちどきに五体産むらしいからな。その上、一年経たんと親になれるさかい。こっちで始末せなあかんいうのも正直めんどいんやけど、生きとるもん殺す訳にもいかへんし」


 「はあ」


 これもなかなか衝撃的な話なのだが、鳥の話で圧倒されて、生返事になってしまう。(もっと)も、ホァンホァンは気にしていないようだ。


 「ぼちぼち終わったかな」


 パンダ達は、馬車の馬と話をしている。怪我はないようだが、揉め事の気配を感じる。


 「その分、ちゃんと危険手当上乗せしとるやんけ」


 「契約放棄するんやったら、組合の方に抗議さしてもらう」


 「わかったわよ」


 その後、赤白と青白パンダは、黒白パンダと話をして、こちらへ戻った。


 「自分、なかなかやるやんけ」


 俺は左右を見回した。ホァンホァンとゴンゴンは、俺の後ろで話をしている。


 「お褒めに預かり恐縮です」


 「堅苦しいことは無しでええで」


 赤白パンダは、俺の言葉遣いに、更に驚いたようだった。



 ヌートリア族の襲撃後は、何事もなく街道を進み、やがて馬車はキヨトへ入った。

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