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カラパン 喋るパンダは着ぐるみではない  作者: 在江
第四章 四宇和平の巻
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パンダ王

 夕食後、ホァンホァンの部屋に呼ばれた。今回はゴンゴンもピンピンも、ついてこようとはしなかった。

 俺の外出がどんなものか、大体わかったからだろう。


 クッションに座らせてもらうと、ホァンホァンは鍵のかかった戸棚から、丸めた大きな()を出してきた。机の上に広げる。

 座っているとよく見えない。俺は立ち上がって近付いた。

 地図だった。描かれている図からは、どこのものか見当もつかない。


 「今日、出かけたんは、ここや。ほんで、王宮がここやから、うちはこの辺やな。カンランシャみたいな、おっきな物が埋まってるとこ探してんねんけど、どっか見当つくか?」


 協力を惜しむつもりは毛頭ないものの、俺は大阪に不案内だ。しかも、地図を見る限り、俺の記憶と大阪の形が違う。

 行政区域の問題ではなく、地形が異なるのだ。


 「埋もれたお宝のありかは見当もつきませんが、俺の記憶では、確かこの辺りは島だった筈です。堆積物でつながってしまったのでしょうか?」


 「ふむ。そら、支えも言っとったな。もう少し先まで行ったら、長うて巨大な橋が埋まってるとも」


 四国大橋のことか。地図では途中で切れているが、これが四国までつながっているのだろうか。

 だが、あり得る話だ。ただ、これまでの経験上、四国には四国の県令がいるだろう。オサカの権限で掘ることはできまい。


 第一、四国全体が埋もれているなら、場所を特定することが難しい。浅くて数百メートル埋もれているのだ。闇雲に掘れる深さではない。


 「ところで、先日見せてくださったビリケ○は、どこで掘り当てたのですか?」


 「あれか? あれは、断層が露出した箇所で、偶々表に出とったそうや」


 ビリケ○は仏像みたいな物だから、一つ見つかれば、近くで他にも埋もれている可能性は高い。

 (おぼろ)げな記憶で、通天閣というタワーがある辺りで信仰が高かったように思う。


 通天閣タワーが、東京タワーのような鉄塔だったかは、知らない。東京タワーよりよほど低い筈だったが、その辺のビルよりは高さもあるだろう。

 それなら、建材もパンダが再利用する価値がありそうだ。


 「地道に断層周辺を調べていった方が、何か掘り当てる確率は高いと思います」


 「そうやろな。大分範囲が広いけどな」


 ショベルカーのような重機がないと、広範囲の発掘は難しいだろう。底まで掘ったら出てくるかもしれないが、そこへ至る前に欲しいのだ。

 俺は、機械を作る技術を持たなくて残念に思った。



 「ソウ君。今日は王様に会うさかい、支度しとき」


 朝食時、ホァンホァンに話しかけられた。


 「はい」


 ついにきた。返事はしたものの、何を準備したら良いのか。

 前の世界から持ち歩いていた、そして今も持ち歩いているバッグの中に、干果物を入れることと、首輪をつけるぐらいしか思いつかない。


 「王様に会うんだから、綺麗にしなくちゃね〜」


 ゴンゴンは、(くし)で毛皮を()いていた。俺も今度買ってもらおう。

 暇なら作ってもいいかもしれない。パンダ用は、歯が荒いのだ。手櫛と同じくらい、荒い。


 その前に、ハサミが欲しい。俺用の、指を入れる輪っかがついたハサミである。

 オサカで暮らすうち、色々新たな技術を目の当たりにして、欲が出てきた。


 「浮かれてないで、戻ったら、ちゃんと報告するんだぞ」


 側でピンピンが、ぶっきらぼうに言い聞かせる。流石(さすが)に、妻というだけで王宮には入れなかったようだ。

 彼女の役目は、俺が湧いた人間だった場合、その発見と保護の功績はスルグにもある、と王に奏上し、スルグ県令シンシンの出世に貢献すること。

 だと思うのだが、ホァンホァンと何らかの取引をしたのかどうか。このままでは役目を果たせない。


 などと、俺が心配しても仕方のないことを考えているうちに、迎えの馬車が来た、と告げられた。

 気を遣って首輪をつけたのに、ワイヤは不要だった。もちろん、ない方がいい。


 馬車は上下で白と黒に塗り分けられていた。パトカーみたいだ。

 迎えに来た王宮の使いは、やはり黒白パンダである。


 「先生、おはようございますぅ。今日もええ天気でんなぁ。お迎えに来たったさかい、早う馬車に乗ってくれへんか」


 「おお、おはよう。お迎えおおきに。ほんなら、そこの角までお願いするわ」


 「はい、毎度あり‥‥って、何寝ぼけたこと言うてはるねん。乗合馬車ちゃう。王宮へ行きますねん」


 どうやら顔見知りらしい。気の抜けたやりとりを聞かされた後、何事もなかったように馬車へ導かれた。今日のお供は、レンレンとゴンゴンである。


 パンダが人語を喋ることに慣れたつもりであったが、たまに下手な学芸会を見せられている気になることがある。

 王の支えは、こういう受け答え方も指導というか、助言するものなのだろうか?



 車内は窓が広くとってあり、ガーゼ状の織物が下がっているだけなので、明るい。道中、首都の様子がよく見えた。

 広い道路をカラフルなパンダや犬猫兎、馬車や牛車が行き交う。特に変わり映えのない、日常の光景である。



 王宮は、柵に囲まれていた。門を警備員が固めている。

 敷地内へ入ると、常緑樹の並木道が続いた。ホァンホァンの邸宅もなかなかだったが、こちらはもっと広い。


 木々の間に、黒白パンダがちらほらと見える。中国成都にあった、パンダ繁殖センターを連想した。ただ、こちらは平地で、パンダ自身が整備した庭園の中だ。


 「蜜柑だ〜」


 ゴンゴンが目ざとく指差す方向には、オレンジ色の丸い実がなる木があった。常緑樹の裏側に、平行して植えられている。よく見ると、地面には野菜っぽい葉が並んでいた。

 庭園というより畑だ。実用的である。


 景色を堪能した後、なおもしばらく進んで馬車が停まった。扉が開いて順番に降りる。


 王宮の建物は、石造の総二階建てだった。しかも使っている石が、平らだ。

 つまり、切石にせよ磨いたにせよ、相当の手間をかけているし、手間をかけるだけの技術も人手もある、ということだ。


 更に驚くことには、窓にガラスが(はま)っていた。板ガラスである。やはり濁ってはいるものの、一坪くらいの大きさはあった。


 だから全体として、俺からすれば、見慣れたシンプルで地味なお役所らしい建物である。

 だが、この世界基準で考えたら、技術の粋を集めた権力の象徴みたいな建物なのだ。


 「へええ〜。何か凄い建物だね〜」


 呑気なゴンゴンにも、王宮の特異さが伝わったようで、移動を促されるまで珍しげに眺めていた。

 正面扉は、石でできているように見えた。引き戸である。中には、また別の黒白パンダが待ち構えていて、ホァンホァンと俺たちの関係を確認すると、奥へ案内した。

 後部には、他の黒白パンダがついてくる。


 大体パンダの建物は、窓全開で寒いか、窓を塞いで暗いかの二択だったが、ここは採光にガラスを使っている分、明るい雰囲気だった。


 仕切りの壁に、塗り土や木材を使っているせいもある。床にも平らな石が敷き詰めてあり広いので、寒さは風を遮った分だけ体感温度が上がる程度だ。


 王宮の中にも黒白パンダはウロウロしていたが、当然ながら、オサカの街中ほどではない。むしろ建物の広さに比して少なすぎる感もあった。


 「こちらで、しばしお待ちください。後ほど、係の者が迎えに参ります」


 どこかの小部屋へ入れられて、案内の黒白パンダは去った。ここは木製の扉だ。


 「食べる物がない〜」


 不満そうなゴンゴン。王に会うというのに、ホァンホァン師匠と初対面の時よりも、緊張度が低い。


 部屋には石製のローテーブルと、周りに巨大なクッションが数個並べてあった。

 近くへ寄って素材を確認する。羊毛で編んだ目の荒いガーゼみたいな布を、何枚か重ねて中に生の羊毛を詰めた代物と見えた。


 ホァンホァンの邸にあるものと基本同じだが、素材が選りすぐりで、座り心地も良さそうだ。


 「座ってもいいですか?」


 「ええよ。数あるしな」


 ホァンホァンに許可をもらったので、早速身を沈める。某ブランドの『人をダメにする』クッションを思い出した。今の俺には、そのくらい心地良い。


 今日は、スルグで貰った着ぐるみで来ていた。普段、ホァンホァンの邸宅では替えの皮を着ている。洗濯済みだから、臭くない筈。


 布の服も欲しかったが、高い上に素材の質も仕立てに向かない。本当に、編み物でも始めてみようかと思う。

 前の世界でだって、誰かが編み方を発明したのだ。初心者でも、何とか形になるかもしれない。


 「王様に御目通りした後、俺はどうなるんでしょうね」


 ふと気になって、誰にともなく尋ねた。

 平和ボケして忘れていたが、排外主義の国では、余計な知識を国民に吹き込まれないよう、他国者というだけで殺される危険があったのだ。


 ホァンホァンも、俺から無理に聞き取りしなかったのは、もしかしたら、そういう意味だったかもしれない。


 「どこに住むかは王様次第やけど、わてに会われへんくなるってことは、あれへん」


 ホァンホァンが答えた。牢獄かもしれない、ということだろうか。


 「え〜僕は? ソウと一緒に住んだら、ホァンホァン師匠と住めなくなるってことですか?」


 「君がソウ君と一緒に住めるんかどうかも、王様次第や」


 ゴンゴンは、どっちがいいんだろう、と勝手に悩み始めた。

 ノックの音がした。


 「お待たせしました。ご案内いたします」


 また黒白パンダに連れられて、王宮の中を歩く。先ほどのパンダとは違うパンダだと思う。

 話したパンダは、門番含めて全員雌だ。雌の割合が多い。


 ひときわ立派な彫刻の施された石扉が引かれると、広い部屋が見えた。最奥が短い階段状に設えてあり、最上段中央に玉座が据えてあった。


 俺たちは最下段から距離をとった場所に控えさせられる。言われる前に頭を下げた。

 別の方向から、扉の動く音がした。何かが移動する気配がする。気配は玉座の辺りで止まった。


 「顔を上げよ」


 桃白パンダが玉座に座っていた。

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